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祝日の朝に

作者: 阿木玲太郎

 階下の猫の鳴き声で目覚めた。

 目覚まし時計を見ると、「6:22」。この時間まで寝かせてくれたのだから上出来だ。


 階下に下りてケージを開けてやり。「お早う」と彼に言う。

 妻は娘の所に行っていていない。つまり、束の間の“独身貴族”。

「お早う」と、彼も答える。妻は笑うけれど、自分には「お早う」と聞える。それで、充分だ。

 ケージの中から金属製の器を出して餌を入れ猫草の横に置くと、彼が一心に食べ始める。

 水入れをケージから外し水を替えてやる。ついでに氷を入れてやる。水に氷は彼の必需品で、冬でも御用達。トイレを覘くと、<あれ>がある。今日も便秘ではないと一安心。小袋に<あれ>を取って、チラシに包んでゴム箱に捨てる。


 神棚の榊と水入れの水を替える。それから仏壇の水も替える。

 彼の鳴き声が玄関から聞えた。行ってみると、彼がつぶらな瞳でこちらを見つめていた。

 リードを取ってきて彼の体に付けて、玄関を開ける。

 彼は尻尾を立て、外に出る。

 彼にリードを付けて小さな庭を散歩するのは、数年前、定年の少し前に始めた。今、彼にとっては重要な日課だけれど、飼い主にとっては苦痛な時もある。

 彼は数歩歩いて、そこ、階段の手前で座り込み、辺りを見回す。自分も彼の横に座る。


 小鳥が電線で「チッ、チッ」と、烏が空き地の向こうで「ガァー、ガァー」と鳴いている。遠くで野鳩が「ポッポー、ポッポー」と鳴いている。

 車が一台、通り過ぎていく。近くの賃貸アパートからは赤ん坊の泣き声がする。

 それでも、彼は動きそうにない。

 それなら私も動かない。「今日は祝日。やっぱり、祝日はのんびりする」と三百六十五連休の男が呟く。「今年は三百六十六連休だ」と、自分で自分に突っ込みを入れる。


 小鳥が、野鳩が鳴き続けている。烏は、時々、「ガァー、ガァー」と鳴く。

 もう、赤ん坊の泣き声はしない。また、車が一台通り過ぎて行く。

 赤ん坊の泣き声、烏の「ガァー、ガァー」、車の走る音さえ、今の彼と私には騒音ではない。

 心地よいGBMの一つに過ぎない。


“今日はゴミ出し”を思い出す。それから、庭の草木に水をやらないといけない……。

 それでも、彼は動こうとしない。


 祝日の朝、彼と定年退職の自分の周りの時は何時いつもよりゆったりと流れていく。


ヤフーブログブログに再投稿予定です。

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