1st FLT「スクランブルは突然に」⑧
「編隊長植田3佐、帰投後報告実施します。」
当直幕僚、司令部作戦幹部、情報幹部、そして2機のパイロット、WSOを加えて帰投後報告が始まった。
エアコンの効いた艦内とはいえ、緑色のフライトスーツからは汗模様が浮かんでいる。
「不明機情報に基づき1032に緊急発艦。対象機についてはIL-20クート、
特記事項については機体下部の合成開口レーダー前方に集塵ポッドと思われる不明装備が見られました…」
幕僚達はサーフの報告を聞きながら着艦後すぐに現像された写真と航跡図を交互に見比べて相槌を打つ。
報告を重要視するのは昔の大日本帝国海軍時代から変わらない。同じ緊急発進でも、空自のように撮影した対象機の写真と簡単な所見を書いて、あとは情報職にお任せというわけにはいかない。
一通りの報告を聞き、確認事項の問答を終えると「ご苦労。」の労いの言葉と共に幕僚達は席を立った。
「ところで…」
青迷彩の戦闘服の上から、濃緑のフライトジャンパーを羽織った3佐の当直幕僚が振り返る。
「ポッター、初の実任務はどうだった?」
突然の質問に、ポッターは驚く。
「はい!とても緊張しました。でも正直、夜間着艦よりはマシでした。」
ポッターは笑った。そうか、と幕僚も笑ってFICに戻っていった。
「ポッター、飛行後反省やって運動するで。お疲れさん。」
ヤスがポッターの肩を叩く。
守るべき国民の、誰に見られることもない“初任務”。
それでもポッターは達成感でいっぱいだった。