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Top of SKYー音速の海鷲ー  作者: ほーらい
6/10

1st FLT「スクランブルは突然に」⑤

対領空侵犯措置では、リーダーは必ず目標機の右側から接近し、目標機の飛行目的と機種の確認、通告を実施する。僚機は目標機の後ろから接近し、目標機が攻撃の意図等を見せた時、編隊長機を補佐して素早く対応する体制を整える。



JHMCSのバイザーに映されるデータリンク情報を見ながら、目標機のいるであろう方向を注意深く見る。



湿度が高く、目標機の機速が速ければ飛行機雲を引いているので直ぐに見つけることができるが、本日は日本海に中心を持つ高気圧に覆われており、かつ目標の速度も遅いため、雲を引くかどうか微妙なところである。



目標機視認タリホー!!同行、高度速度ほぼ同じ。』



リーダーのサーフが目標機を目視で確認した。さすがはベテラン…場数が違うなとポッターは感心しつつ、早く見つけなければと気持ちが焦る。



「はい目視確認タリホー!11時方向高高度イレブンオクロックハイ!」



後席のグラスも見つけた。11時方向上空…ポッターは目を細めながら探す。



『2 TALLYHO Target!

(こちら2番機、目標機視認)』



見つけた。太陽との位置関係で見えにくいが、時折機影がキラキラと反射している。



『ラジャー。目標右側に占位せよ。領空まで50マイル。』


『DRAGOON01 Roger.

(こちらドラグーン01了解。』


目標機の上空に上がるべく、操縦桿を引き、スロットルを押し出す。



目標機を追越オーバーシュートしないよう、常に目視で確認しながら高度を上げていく。



『目標右側所定の位置に占位した。』



リーダーが目標右前方に占位テイクポジションことを目視で確認する。ポッターの位置からはまだ目標機まで遠く、目視で機種までは特定できないが、明らかにF/A-18より大きく、速度は320ノット…ほぼプロペラ機と見て間違いはなさそうだ。



『Roger.左旋回、西への通告を開始する。領空まで45マイル。』



『Roger.識別結果知らせる。目標機、国籍 ロシア、官用中型機、機種 イリューシン20”クート”電子情報収集エリント機。写真撮影を実施し、通告を開始する。』



リーダー機後席のヤスが目標機の写真撮影を実施する。撮影した写真は、後席に備え付けられた画像転送装置からデータリンクを介し、上級司令部に送られる。



『ATENTION!ATENTION!Russian aircraft!Russian aircraft! flying over japanese sea.your now approaching japanese air dmain.take reverse cource imidiately!I say again.take reverce cource imidiately!

(注目せよ!注目せよ!日本海上空を飛行中のロシア軍機!貴機は日本の領空に近づいている。直ちに反転せよ。繰り返す。直ちに反転せよ!)」



先ずは、国際緊急無線ガード周波数121.5Mhz、243.0Mhzで英語による通告。対領空侵犯措置では大概の目標機が、たかが1回の通告に従うことはない。



彼らにも達成しなければならない任務があるからだ。



しかし、それに対しできる限り早い段階で、領空より遠くで、相手を過度に刺激しない程度のプレッシャーを与え、退散させなければならない。



もちろん段階を踏んだ対処が最重要であるが、できることの範囲が制限される中でいかにして反転させ退去させるか、要撃管制官、パイロット、WSOともに策を練っている。



リーダーが目標機に向け翼を傾ける(ロックウイング)。我に従えの意味だ。



『通告1回目終了。ロックウイング実施。目標機の行動に変化なし。』



サーフが落ち着いて報告する。ボイスからも読み取れるベテランの風格。彼の冷静かつ的確な判断力と行動力は航空隊の若手、ベテランを問わず定評があった。



『了解。引き続き通告を実施せよ。領空まで30マイル。』



『Roger』



領空まで30マイル。時間にして約10分で領空に達する計算になる。



急がなければ。皆自分と同じことを考えているだろうとポッターは思った。



『Внимание! Внимание! Налейте в русские самолеты пролетели над Японским морем. Вот японского флота. Такаши машина приближается воздушное пространство Японии. Изменить ход немедленно! Повторные. Изменить ход немедленно!

(注目せよ!注目せよ!日本海上空を飛行するロシア軍機に達する。こちらは日本国海上自衛隊である。現在貴機は日本の領空に接近中である。直ちに反転せよ!繰り返す。直ちに反転せよ!)』



英語に引き続きロシア語による通告。対領空侵犯措置に従事するパイロットとWSOは、英語はもちろん、中国語、朝鮮語、ロシア語の通告と警告文、更には簡単な会話文の修得が義務づけられている。



『通告二回目終了。目標機の行動に変化なし。』



『了解。引き続き通告を実施せよ。領空まで20マイル』



『ラジャ。』



領空に侵入すれば、その航空機は領空侵犯機と判定され、音声による警告…更に侵入を続けると警告射撃を行うことになる。



「クルーズチェック、残燃料7000。増槽燃料使用中ノーマルフィーディング。NEXTチェック30。位置誤差なし。」



ポッターの緊張が高まるのを他所に、後席では黙々とグラスが30分毎の燃料計算と各機器の誤差修正を行う。



戦闘機の技術が高度化し、各システムが簡略化したとは言うが、それに比例してパイロットのワークロード量が増えているのが現実である。



今の戦闘機はワンマンオペレーションでも十分に飛ばせるが、後席にアシストがいるのといないのではワークロード量は大幅に変わってくる。



『Take reverse cource imidiately!I say again.take revarce cource imidiatery!

Изменить ход немедленно! Повторные. Изменить ход немедленно!

(直ちに反転せよ!繰り返す。直ちに反転せよ!)』



サーフの度重なる呼びかけにも、クートは飛び続ける。



その時だった。



クートが左旋回を始めた。



『目標左緩旋回開始。』



すかさずサーフが報告する。

クートの機尾を追うように涼も左旋回。



薄い飛行機雲を引きながら旋回を続け、進路を北西に向けたところで水平飛行に戻った。



『01、ターゲットは我の誘導に従っているか?』



『従っている。ヘディング330。』



『了解。ターゲット、領空より離隔アウトバンドを確認。引き続き監視を続行せよ。』



『Roger.』



ポッターは旋回を止めたところでフゥと息をついた。




「最接近15マイルか。近いな。まあ戦闘機ファイター相手よりマシだけどな。」



グラスも緊張が解けたのか、ICSで話しかけてくる。



「先輩、ファイターにスクランブルとかあるんですか?」



「あるよ。それこそ始めてスクランブルで上がった時にな。前席(パイロット)が今岩国にいるブラッキー先輩だったな。TEWSのレーダー警報音(WARNING)鳴り響いてテンパってブレイク連呼したらウルサイ黙れって怒られたよ。」



「そりゃテンパりますよね…」



改めて相手が戦闘機じゃなくてよかったと思った。



『ターゲット、防空識別圏アウターラインアウト。DRAGOON01 帰投(リターン) せよ(トゥベース)!リポート残燃料(フュエルリメイン)



『DRAGOON01 Roger.RTB.リーダー6.5

(ドラグーン01了解。帰投する。残燃料6500ポンド)』



『2、6.3(2番機6300ポンド)』



AWACSの要撃管制官が目標機が防空識別圏を出たのを確認し、帰投命令がくる。



『ポッター、サーフ。RTB。』



『ポッター、ラジャ。RTB』



リーダーが翼を左右に振り目標機から右旋回で離脱ブレイクする。



ロシア機に対して”さよなら”を告げたのだ。



「フフ…サーフさんらしいなぁ。あの人いつも対象機にウイング振って帰るからな。」



「マジっすか!よくやりますね。ライトクリア…ライトターン」



リーダーに合わせポッターもブレイクする。



領空侵犯の恐れがある外国機に対する緊急発進スクランブルの回数は年々増えている。



平成23年度の緊急発進スクランブル回数が前年比39回増の425回と過去20年で最多となった。



対象機の国別ではロシアが247回と依然最多だが、中国が前年より60回多い 156回に急増し、国別統計を公表していない時期も含め過去最多。領空侵犯に至った事案はなかった。



空自が確認した中国機は情報収集機が多く、海洋進出を図る中国軍が南西諸島を越えた太平洋上での軍事行動をにらみ、情報収集をしている可能性がある。



2機の日の丸F/A-18Fは飛行機雲を引きながらあかぎへの帰路についた。



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