1st FLT「スクランブルは突然に」③
ポッターはリーダー機に合流するため上昇しつつ進路を北西に向けた。後席のグラスも目視とデータリンクを交互に見ながらリーダー機を探す。
「リーダー目視確認」
「了解。5マイル…はい、機長もインサイト。」
ポッターは先行するリーダー機の豆のようなシルエットを見つけた。グラスが目視とデータリンクを併用して涼にリーダー機までの距離を伝える。
「了解。データリンク機体間良好。」
「ラジャ」
リーダー機に近づくに従い、接近率を小さくし機高差を保ちながら外側の定位置につく。編隊を組むときは、ミリ単位のパワーと操縦桿の操作が求められ、パイロットの腕の見せ所でもある。
最初は豆のようだったリーダーが徐々に大きく見えてくる。近づくにつれて細かい操作を心がける。
『サーフ、ポッター。定位置についた。航空機状態異常なし』
『ラジャ』
編隊長の植田の短い返事のあと、その後席に座る白岡が手を振ってきた。藤城も手を振り返す。あとは編隊長機の動きに合わせて飛行するだけだ。
『Departur DRAGOON01,Estblish outbound and status KILO.
(出発管制、こちらドラグーン01。空母から離隔中。離陸後異常なし。)』
『DRAGOON01Deperture,Roger.Rader service tarminated,OWLEYE CH AB.gooday.
(ドラグーン01、こちら出発管制。レーダー誘導を終了する。早期警戒管制機とチャンネルABで交信せよ)』
『DRAGOON01 Roger.Let's go CH AB.gooday.
(了解。チャンネルABでオウルアイと交信する)』
『2』
あかぎ艦内の空母航空管制センター出発管制の周波数を離れ、早期警戒管制機へ管制移管される。
グラスは無線機のチャンネルノブを要撃管制《GCI》の周波数に切り替えた。
『OWLEYE,this is DRAGOON01,now airborn to Angel 30.heading 340.how me?
(オウルアイ、こちらドラグーン01。現在3万ftまで上昇中。方位340度。感明度いかが?)』
『DRAGOON01,OWLEYE,Goodmorning.Laud and crear Rader contact.You are under my control.Steer 300.Climb and maintain angel 30 ,after follow DATA LINK CH-2.
(ドラグーン01、こちらオウルアイ。おはようございます。無線感度良好。レーダーで識別した。貴機の誘導を開始する。方位300、高度3万ftまで上昇し、その後はチャンネル2でデータリンクの指示に従え。)』
『01 Roger.Under your control.Heading350 angel30 follow DATA LINK CH-2.
(こちらドラグーン01了解。誘導下に入り、方位300、高度3万まで上昇し、チャンネル2でデータリンクの指示に従う)』
『2』
「機長、データリンクチャンネル2セット。」
「了解スタンバイ。チャンネル2。」
ポッターはグラスにデータリンクの接続を指示する。
データリンクとは、味方の情報、友軍が捉えた敵目標や不明目標の情報等を上級司令部だけでなく、艦艇や航空機等様々な”ユニット”と情報共有するシステムであり、音声情報だけでなく、位置情報や機体状態、画像やレーダーの情報を一括して送受信できる。
使用する周波数帯は高周波の電波を使用するため、指向性をもたせることも容易で、最新のデジタル技術による秘匿性と対妨害性にも優れている。
「GCIデータリンク、送受信共に良好。そっちに出すぞ。」
涼の被るJHMCS(Joint Helmet Mounted Cueing System統合ヘルメット装着式目標指定システム)のバイザーにも、データリンクの正常起動を示すLINK ON LINEの緑字が浮かぶ。
コクピット正面下の多目的液晶ディスプレイがデータリンク画面に切り替わり、オウルアイからの指示と目標の情報がJHMCSに文字として表示される。
「データリンク出ました。OKです。」
「了解。5000ft前。」
グラスが巡行高度5000フィート前に近づいたことを注意喚起する。
『ポッター、レベルオフ、スタンバーイ…マーク!』
長機からの声に弾かれるように操縦桿を倒し半ロール。背面飛行から操縦桿を引き、背面レベルオフ
上昇率が止まったところでまたハーフロール。水平飛行に移る。
『ポッター、サーフ。近すぎだ。もうちょっとルーズでいいぞ。レベルオフチェック』
『ポッター…ラジャ』
サーフから編隊の幅を広げるよう指示がくる。ラダーを蹴って機体を滑らせ、距離を広げた。緊張が操縦に出てしまっているのを涼は再認識した。ラダーを戻し、安定したところで巡航チェックリストを行い残燃料を確認する。
『サーフ、ポッター。ノーマル フィーディング』
『ラジャ。サーフ、コンカユー。ノーマル フィーディング』
FEEDINGとは胴体下の増槽燃料タンクからの燃料を使用しているという意味である。
グラスは残燃料と燃費計算を行い、右大腿部に取り付けたニーパッドのメモに記録する。WSOにとって、各種記録やパイロットのアシストは、火器管制や電子機器の操作と共に大切な任務の一つである
「残燃料13600。ポッター、緊張しすぎ。なるようにしかならないよ。リラックスリラックス。」
「すみません。」
グラスの言葉に涼はバツが悪そうに謝った。グラスの言うように、一度空に上がってしまえば、なるようにしかならない。頭を切り替えなければ負のスパイラルに陥ってしまう。
常に通話状態の機内交話装置にあえて後席のグラスに聞こえるように、ポッターは一つ大きな深呼吸をした。