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そうですね、このお話は誰が見たってプロローグだと言うでしょうが違いますよ

初めまして。私、諸刃 剣もろはのつるぎと申すものです。プロローグとも言える部分を見ていただいた方にはまた会ったねと言っておきましょう。


まぁこんな挨拶の話などは短い方がいいと申しますし、この世界について少しだけお話ししておきましょう。覚えてもらうことはたったの五つ。


まず最初に、一つ目はこの世界の名前について。この世界の名前はヴァレンシアと呼ばれています。


二つ目は主な国家。五つの国家さえ覚えて貰えば大体は大丈夫です。ここで出した国家以外の国家が出た場合は小国と思ってもらっても結構です。まずはアスギス、コルサス、ゲール、ブロン、バダハリ。これだけを覚えて貰えば結構です。


三つ目、それは魔法についてです。この世界には魔法使いという神の如き存在がいます。どういったものかと言いますと、世界の理さえも捻じ曲げてしまえるほどの力を持ったもの達です。そんな者達がこの世界、ヴァレンシアには存在しているということを知っておいてください。


四つ目、これは魔法使いについてです。魔法使いという存在はかなり希少なのです。新しい魔法使いが生まれるためのは千年に一人と言われているほど希少です。また、親から魔法が遺伝することは五カ国の王家の人間しか発見されておらず魔法使いの子孫が必ず魔法使いになるということはありません。五カ国の王家の者であれば全員ではありませんが魔法を遺伝しております。


そして最後に五つ目、魔術についてでございます。魔法という存在は極々一部の者しか使えません。しかし、魔法という奇跡を誰もが欲しがった。そして生まれた者が魔術でございます。それは魔法とは全く別物ですが、いろいろな者に仕えるということで重宝されるようになった者ですが魔法とは全くスケールが違います。簡単に言えばアリと宇宙の差と同じくらいだ、と認識していただければ良いです。


長々とお話ししてすみません。それでは勇者の喜劇の開幕でございます。

とても広く、とても豪華なまるでおとぎ話に出てくるような金色や銀色の光に包まれた部屋の中一人の少女が立っていた。その少女は、ピンクの髪にかなり小さめの背丈、8歳という歳と相応の体つきをしていて、かなり幼さの残る顔立ちをしている。彼女の名前はエリザ・アスギス。五大国家のうちの一つであるアスギス王家の第二子であり、現アスギス王の長女である。そのアスギス王家の少女の前には十人の子供達が縛られ、猿轡を掛けられたまま転がされていた。


その十人の子供達は人間とは少し違う。何が違うのかというと、例えば耳が犬で尻の付け根あたりから尻尾が生えている者だったりだとか、体のほとんどの部分が人間と同じなのに耳だけが尖っていたり腕が羽だったりだとかそんなごく一部だけが人間とは全く違う者達だった。彼等のことを人間達は亜人と呼んで蔑み、奴隷や家畜扱いしている。


「エリザ様、用意が出来ました」


エリザの後ろにいつの間にか現れて跪いていた黒ずくめ者からの男とも女とも判別がつかない声がかけられる。


この者には名前という物はつけられてはいないが一応の名称として影という言葉がつけられている。なぜこの者に名が無いのかと言えば影という物が個人の名称では無いからである。彼等、影という存在は王家に仕える団体でアスギスという国の中でも汚い仕事ばかりをやる者達だ。スパイや暗殺など表には出してはいけない仕事をおもにやっている集団で王家の人間であれば常に三人の影を持っており、王だけが五人の影を持っている。彼等は使えた者の手足となり働く。そんな存在でえる。


エリザはその声を聞いて頷き手を前に出した。


「では始めるとしよう」


彼女がそう言うと彼女の手が輝き始める。アスギス王家に遺伝されている魔法を使用したのだ。


彼女の使用するアスギス王家に遺伝された魔法とは『世界』という魔法のことである。この『世界』という魔法のことを簡単に説明すればパラレルワールドにある存在をこちらの世界に移し替える魔法である。その効果故その魔法の発動の為にはに膨大な量の魔力がいる。だがしかし、その普通の人間には膨大すぎる魔力も魔法使いにとってそれは一人で賄える量、それもほんの半分ほどの魔力でしか無い為、何処からか魔力を持ってくる必要など何処にも存在していない。ではなぜここに亜人の子供達が並べられているのか。その理由は今彼女が行っていることが勇者召喚だからである。


それでは勇者召喚とはなんなのか?それは、勇者と呼ばれる者を異世界から呼んでくる者である。人を呼んでくるのであれば生贄など必要無い。しかし、勇者となれば話は別である。


そもそも勇者とは人間を超越した人間である。その勇者になるための方法はいくつか存在している。そのうちの一つが人の体を魔法などで取り込むといった方法だ。この方法を使うと取り込まれた者は必ず死ぬが取り込んだ方はその取り込んだ元の者の力全てを受け継ぐことになり、圧倒的な力を手に入れることができる。しかし現存する魔法の中で唯一この方法が取れるのが『世界』という魔法である。しかしその為には異世界を一度通さなければならずさらに他の世界に送ることはできるがそれでどんな世界に送ったのか見当つかず戻ってくる保証はできない。さらに魔法使い本人を飛ばすことができない為彼等は他の世界から人間を連れてきてそのものに生贄のものたちの力を継がせるのである。そうする事で勇者を召喚するそれこそが勇者召喚である。


ちなみに勇者召喚は過去5度行われており、その中で亜人を使った例は前回に行われた勇者召喚の時だけである。前回の勇者召喚の行われたのは十年前の召喚の時だけである。


エリザの手が光りだしたかと思うと彼女の眼下にいる亜人の子供達を中心に半径5メートル程の円が地面に描かれ、その円の内側にいろいろな文字や模様が刻まれ始める。


「おい、この中には入るで無いぞ」


エリザは周りにいる者達に向かって言う。彼女行っていることを見守っているのはこのアイギスの重役となっている貴族達だ。これは勇者召喚するとともに魔法使いである王家の力を見せ付け反乱をさせない為のものでもある。それがうまくいったのか周りの貴族達はその魔法の力に圧倒されていた。


「これは何と恐ろしい力なのだろう」


「これだけの魔力を一人で使われるとは」


「これは、反乱など考えるほうが馬鹿であるのであろうな」


周りの貴族達がそのようなことを声をひそめながら話している。その間にも地面に描かれている文字や模様は完成に近づいていく。そして、地面に描かれていた勇者召喚の魔方陣は完成する。完成したと同時にその魔法陣はその魔法陣の中と外を遮断するような光を放ち始める。


「な、何だこの光は」


「くっ」


「ま、眩しい」


そのようなあまりの光量に眩しがる声が聞こえる中、この魔法を起こした張本人である少女、エリザはその光の中心をまっすぐに見つめる。そうして光がだんだんと治っていくと、その中にいたはずの亜人の子供達は消え去り、その代わりに風変わりな格好をした黒髪の青年がそこに立っていた。周りの貴族達は唖然とする中その青年が口を開いた。


「あ、あのー。お、俺何が起きたか全くわかんないんで何が起きたのか説明して欲しいんっすけど」


そのあまりにも場違いな言葉に周りがざわつき始める。その周りの行動に更にその青年は何が何だかわからない顔で挙動不審な人間のように顔を右へ左へと向ける。そして、唯一何の変化の無い人物であるエリザを見つけ、彼女の方へと歩いて近づいていき、顔を彼女の高さまで下げる。


「あ、あのーお嬢さん。この状況が何なのかわかる?わかる時に俺に教えてもいいよっていうのなら俺に教えてくれると嬉しいんだけども」


彼がそう言った瞬間、彼とエリザ以外の人間とその場の空気が凍りつく。その雰囲気を感じ取ったのか彼は更に混乱し始める。


「え?なに?俺なんか変な事でもした?」


周りの唖然とした雰囲気に彼の額から汗が流れ始める。彼にはその場の雰囲気の異常性故に唾を飲み込んだ音さえ反響しているのでは無いかと思う程の静寂だった。それを破ったのは、唯一この雰囲気に飲まれていない少女、エリザだった。


「それでは教えてやろうでは無いか。その前にお前、名前を何と言うのか、答えよ」


彼も普段であればこんなことを言われれば怒っていたかもしれないが雰囲気に飲まれていたことで正常な判断力を失っていた為か素直に彼女の問いに答える。


「俺の名前は佐井(さい) 共矢きょうやです」


エリザはその答えに嬉しそうに頷く。そうして目から圧倒的なカリスマを放出させながら彼に対して言葉を発する。


「サイか。ではサイとやらよ。心して聞くがよい」


その言葉にまたも静寂が訪れる。誰かの唾を飲み込む音が聞こえてくる。


「お主は勇者として選ばれたのぢゃ」


そう彼女が言い放った後また静寂が訪れる。シーンとした空気の中、全く勇者という者を理解していない佐井 共矢はその静寂を破る。


「え?なに。説明終わり?全くわからんぞこれ。いや説明された方が分からんとかなにそれ」


そんなこの場の雰囲気にそぐわない言葉に周りは唖然とする。勇者という者を知らない者がこの国居ようとは、という言葉が彼の耳に聞こえてくる。元の彼であれば聞こえていなかった声なのだが勇者召喚の影響で超人的な身体能力をもう持っている彼の耳には届いてきた。彼は声の聞こえた方を向く。


「あんたらは勇者って言うもんが何なのかってのは知ってるかもしれないが俺は全くしらねぇんだぞ」


と言いながら彼はその言葉を発したものの方に詰め寄っていく。それを止めたのはエリザの一声だった。


「サイとやらよ、詳しい説明はそこの騎士に聞け」


そう言いながら彼女は部屋の中でも彼女のちょうど反対側に位置するドアの横にいたフルプレートメイルを着用した騎士を指差した。共矢がそちらの方を向くとその騎士は軽くお辞儀をする。その反応に少し戸惑いながらも彼は騎士の方へと歩みを進めていく。その間も彼には周りの貴族たちから奇怪なものを見たような視線を感じる。先程の行動を考えれば当たり前の事ではあるが彼には少しむず痒かったようで彼の足も自然に早足になっていき思ったよりも早く騎士についたことで騎士の体にぶつかってしまった。


「うわっ」


そんな声とともにフルプレートメイルを着用した騎士の方が倒れた。彼の無意識の内に発揮されていた超人的な肉体の性能の所為で軽く当たっただけでまるで壁に激突したかの衝撃に襲われた騎士は呆気なく倒れてしまったのだ。その際に顔のところを覆っていた兜が落ちる。そこに現れたのは綺麗な顔立ちをした髪の赤い女性の顔だった。共矢は日本離れしたその顔に少し驚いている間にその女性は兜をかぶり直した。そこで自分が彼女をこかしてしまったことを思い出し右手を差し出した。


「ありがとう」


そう言いながら彼女はその手を取り立ち上がる。


「では行くぞ」


そう言って彼女はドアを開き、その奥へと進んでいく。それを追って共矢もついていった。

アイギスの王都のギルド、その一室である男の姿があった。その男は両の目を閉じていたその部屋に一つだけ存在しているベッドの上に腰掛けていた。


「ふむふむ、彼の喜劇は始まったようですね」


その言葉の後、クフフフと誰が見ても気持ち悪い、気分が悪いと言うであろう笑みを浮かべる。


「さぁ、佐井 共矢。その運命をどう乗り越えるのか、それとも乗り越えられないのか。人間の可能性、勇者の力とやらをこの僕様に見せてくれ」


そう言った後、彼はまたクフフフと笑い出した。

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