プロローグというには何もかもが足りない。しかし、この話にタイトルをつけるとするならばプロローグとしかつけようが無い。そんなお話
この話はストーリー上あまり関係ありません。飛ばしてもらっても結構です。
暗い部屋の中、突然に三つのライトが光りだしそのライトが一つの場所を照らし出す。照らし出されたその場所に三つの影を作り出すものが浮かび上がってくる。それはなんとも豪華そうな椅子とそこに座っているなんとも不適で他人に不快な印象を与える笑顔を浮かべた白いスーツ姿の男だった。
「初めまして。もしかしたら初めましてでは無い人もいるかもしれませんね。しかし、そんな人たちにも初めまして。私は名前を諸刃 剣と申します」
そう言いながら剣と名乗った男は立ち上がり、頭を少し下げる。彼が頭を下げてすぐに彼の後ろにあった椅子が煙のように消え去った。さも当然であるかのように剣はその奇怪現象を無視して歩き出した。彼が歩くたびに光も彼の動きに合わせて動く。そして、彼が三歩ほど歩くと腰くらいの高さで直径30㎝ほどの丸テーブルが彼の目の前に存在していた。
「さぁ今日この度、ここで行われることは何かと言いますと、簡単に言えば物語の主人公というべき正義的な人間のご紹介でございます」
そう言いって彼は手を丸テーブルに伸ばし、テーブルの上に置いてあった半分折りにしてある紙を一枚頭の高さまで持ち上げ、開き始めた。
「ここに描かれていますのはある人物の一つの答えであり、人生でございます」
開かれたその紙には細いシャープな線で、真っ赤な色で、誰が目でも印象的な字で、そして見るものすべてを魅了し目を釘付けにするような迫力のあるような字で、それでいて儚く『最強』と書かれていた。
「これが彼を語る上では必ず必要になる言葉でございます」
その場が彼が黙ることで一瞬だけ静寂する。
「人は皆、何かに依存することで生きています。例えば、赤ちゃんは母親と父親に、サラリーマンは仕事をしている仲間や上司や仕事をしている会社の社長に、会社の社長はその会社に」
彼はそこでクフフフと人が見れば十人中十人が不快感を感じるであろう最悪の笑みを浮かべる。
「だがそれは悪いことでわありません。人は何かに依存しなければいけない、皆様が見れば気持ち悪いだとか病原菌があったら怖いだの嫌いなどといろいろ悪口を言いまくっている存在である寄生虫とほぼ、全く変わらない存在なのです」
そこで一旦、彼は嘲笑を浮かべながら何処かを見る。やはり彼の笑顔は見ている人間を不快にされる最低な顔だ。
「まぁ寄生虫などと言えば誰もが嫌悪感を抱くのかもしれませんがそんなことをガヤガヤ言っていても本題には入れませんのでそんな苦情は聞きませんよ」
そう言って首を横に振る。
「ではまた本題に入りましょう。私が言いたいのは人が依存することで生きることができるということです。今回の主人公となるべきお方は先ほど出した文字に対して依存している方です」
そう言いながら剣はただ『最強』と書かれているだけの紙を見せる。
「この文字に依存したある方の物語を今回話していきましょう」
彼はクフフフと嗤いながら手を叩く。そうすると全てのライトが消え去っていく。唯一残ったクフフフという嗤い声だけが人の体を蝕むように音も光も無い空間にまるで透明な水の中に落とされた黒い絵の具の塊のようにゆっくりと染み渡っていく。
「さぁ喜劇の始まりですよ」




