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決意

宿題が終わっていないというのに…

無性に書きたくなってしまったのでぶわぁーっと書いちゃいました。

…言葉がおかしい所があるかも知れません

静かな家。テーブルには

「温めて食べてね。今日もまた帰りが遅くなるから。何かあったら電話して」

という置き紙があった。最近は毎日この内容な気がする。2日連続で全く同じ紙を置かれていてもおかしくは

ない。机の真ん中にぽつんと寂しげにあるオムライスをレンジに突っ込み、ピッとあたためボタンを押す。

最近の日課。


ピンポーン。


インターホンの音が耳に届く。

玄関にあるカメラを見るのは面倒だから、いつもすぐに誰かなーって思いながら扉を開ける。

今日、立っていたその人は、全く見たことのない、若いお兄さんだった。

「あの、どなた…」

「急にごめんね」

お兄さんがへへっと苦笑いをしながら声を出す。

「賢汰の父です」

正直驚く。こんなに若いなんて。あれ、私のお父さんって何歳なんだっけ。

いや、そんなことよりも爽やかな声色で聞き惚れてしまいそうだ。こんなこと言ったら拓斗は怒るかな。

「こんばんわ。どうぞ、上がってください。賢汰から話は聞いてますので」

おじゃまします、と言う声が背後から聞こえた。父の写真が置いてあるリビングに

真っすぐ案内をする。

「綺麗な部屋だね。お母さんと2人ぐらしかい?」

「はい、寂しいですが、仕方のないことですし…」

コップに氷を入れて麦茶をそそぐ。いつもやっているような動きなのに、お客さんに出すとなると

結構緊張してしまうものだ。

「そうだなぁ…。今日、初めて賢汰から聞いたんだってね。急で驚いたでしょう」

「……」

言葉にならない。まだ、その事実を受け止めたくはないのだ。

父の顔は忘れた。体格も、性格も、父と過ごした思い出も。ただ1つ覚えているのは、

温かいぬくもりだけだ。あのぬくもりを、もう1度感じられるとずっと信じている。

「…ごめんね。本題に入っていいかな」

「…はい」

賢汰のお父さんが眉間に微かにしわを寄せたのをわたしはハッキリとみた。


「深来ちゃんのお父さんは死んだ」

ずさっと心に大きな穴が開く。…だめだ。序盤なのにもかかわらずもう逃げ出したくなる。

自分の心の弱さを思い知る。事実を受け止めなければ…。

「それで、今朝のニュース…見たかな」

「いえ、見てません。すべて賢汰から話を…」

「あ、そう言っていたね。…深来ちゃんのお父さん…茂晴しげはるの同級生…

 今朝のニュースの男性が亡くなったってのも…聞いたよね?」

いろんな名前が出てきて混乱しそうになる。…お父さんの名前、茂晴なんだ。初耳。

「お父さんの同級生が、今朝亡くなった男性…ってことですよね?」

「あぁ。2人とも知人だからさ、いろいろ気になって」

賢汰のお父さんがうつむいた。その目は微かに潤んでいた。

「…2人の死体に、綿毛がついていたそうだ。

 それが、深来ちゃんのお父さんは3か月前…4月だからたんぽぽも咲いているだろうし

 納得はできるんだけど、なんで同級生の友樹ともきの死体にまで綿毛がついているのか

 不思議に思ってね。…そのようなこと賢汰も言ってたろ?」

妙に緊張した雰囲気だったからか、喉が渇いてきた。それでもこんな会話の途中に飲むのもちょっと

失礼かと思い、我慢する。

…その矢先、賢汰のお父さんはコップを片手にもち、ごくんと一口飲んだ。

「…はい。確かに不思議です」

あー、喉かわいた。…それでも大事な話だし…大事なお父さんのことだし。

「…それでだな…」

コップを両手でくるくると回しだす賢汰のお父さん。言いにくそうな表情を浮かべたが、一変した。


「これから一緒に調べてほしいんだ」

「え」

思いがけない言葉に、思わずアホな声が出てしまった。…いけないいけない。

自我を取り戻し、気持ちを整理し、質問をする。

「…なんで私なんですか?」

麦茶を片手にしていた賢汰のお父さんは、コトンと静かに置き、冷静なトーンで言った。

「…深来ちゃんは、茂晴が亡くなった直後に記憶喪失になったらしい。

 なにが起こったのかはわからないが、その時期ということには間違いない。そうだろう?」

「そう…ですがっ…」

「もし、なにか思い出したりしたら。…掴めるものはあると思うんだ」

「それでも、思い出せるという確信はありませんし…役に立てないかもしれませんし」

「いや、深来ちゃんが必要なんだ。…頼む」

頭を深々と下げられる。こんな大の大人に頭を下げられるなんて生まれて初めてだ。

本気なのが伝わる。私のお父さんは、こんな優しい人に出会うことができていたのか。

3か月前。私はなぜ記憶喪失になったのか。なぜ父は亡くなったのか。

今までは現実から逃げようとしていた。何も思い出さなくていいから楽しもうとか思っていた。

…それでも、やはり知っておかなければいけないこともあるようだ。


「わかりました。お願いします」

「OK。一緒に頑張ろう」

賢汰のお父さんは笑顔を見せ、立ちあがり手を差し出してくる。微かにみえた右腕には

傷がたくさんついていた。

「はいっ」

いろいろ考えて、私を選んでくれたのだろう。…協力して、解決させよう。

そう決意し、私は差し出された手を両手で包むように握った。

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