お父さん
1ヶ月以上も投稿が遅れてしまいました…。
申し訳ありません。
少し、お話を進めますね。
「ねぇ…どういうこと?」
机に足をぶつけ、ガンッと鈍い音がする。それでも気にせずに、前にいた男子の隣へ歩み寄った。自分でも顔がひきつっていることがよくわかる。
「そのまんまだよ。言葉の通り」
腰かけていた男子、坂上賢汰は、読みかけの本をパタンと閉じ、こっちを向いた。
「朝、父さんとテレビ見てたんだ。そしたら、石川県の45歳の男性が、変死したんだって。
首が変な方向に曲がっていたらしい」
「な、なにそれっ…!」
後ろにいた菜々夏が盗み聞きをしていたのだろうか。ガタッと大きな音をたてながら立ち、近づいてきた。
「…まだ続きがある。…死体には、たくさんの綿毛がついていたらしい」
「別にそんなのどうでもよくない?だってたんぽぽは咲いてるし…ほらっ、私だってさっきくっついてきてたし!」
「…バカかお前は。今は夏。なんで今さらたんぽぽなんかあるんだよ。不思議に思わないか」
「あぁ…なるほど」
菜々夏はあごを触りながら、うーむと唸る。アヒル口の菜々夏がこのような悩んでいる表情をつくると
周りの男子はイチコロになると思う。…まぁ、性格があれだからモテてないのだけど。
「…深来さん、聞いてくれ。…覚えてないかもしれないけどさ」
「なに?」
「……」
急に黙りこむ賢汰。それは今まで見たこともないような切ない表情だった。
手に汗がにじんでいくのがよくわかる。誰かの唾を飲む音が聞こえた。
「深来さんのお父さんは、この男性と同じように死んだんだ」
私はふっと笑い、菜々夏に話をふる。
「そんなの嘘でしょ?菜々夏っ!だって私のお父さんは今仕事で北海道にって…」
菜々夏が視線をそらし、うつむく。その顔は驚くほど歪んでいた。
「…違うんだ。ごめんね深来。…賢汰の話は本当なの」
「…嘘だ、私のお父さんはまだ生きてるって…。記憶喪失でどんな人かはわからないけど…
それでもっ…うっ…」
急に頭に突き刺さるような痛みがはしる。その時、誰かが私の肩を抱き、座らせてくれた。
「ゆっくりでいいんだから」
拓斗の声。ドクドクとハッキリ聞こえる自分の心臓が、怖かった。
「深来さんが落ちつくまで待とうか。…今話しても、よけい苦しむだけかもしれないし」
「賢汰…まだ何かあるの?」
「あぁ。これは深来さんが引き受けてくれるかどうか聞かないと先に進まないし」
立っている賢汰が困っている表情を見せた。床に腰かけている私からみたら、賢汰がすごく
大きい人みたいで、まったく別人にも見えた。…普段は私よりも小さいくせに。
「もう大丈夫だよ、賢汰。…話して?」
拓斗に抱かれながら、上目づかいで賢汰を見つめる。
「…あーもぅ!そうやって深来さんは色気使うなっての!襲うぞ!」
「使ってないからぁ!絶対やめて!」
「お前人の女に手出すんじゃねぇぞ!?」
近くで菜々夏だけがはっはっはとお腹を抱えて笑った。
「まぁ、今のは冗談ですが」
「本気だったら俺はお前をぜってぇ殺してたがな」
「やめてくださいな。まぁ、明るい雰囲気になったところで。
うちの父さんは、深来さんのお父さんと同じ会社で働いてて、結構仲がよかったんだって。
それで、今朝のニュースの男性は…実は3か月前、この辺を訪れてたんだって」
…意味不。私のお父さんとその石川県の男性には、何の関係があるんだ。
「それで?」
拓斗が私の気持ちを読み取ったかのように、続きを聞いた。
「…その男性、深来さんのお父さんと小学校の時の同級生だったらしい。3か月前に深来さんのお父さんに会いにきたそうだ」
3か月前。…私が記憶喪失になってしまった時。
「ちょ、ちょっとまったー!」
菜々夏が頭を抱えて騒ぎだす。
「えっとぉ!?賢汰のお父さんは深来のお父さんと会社の同僚で、深来のお父さんと男性は小学校の
時の同級…ってことでしょ?なんで賢汰のお父さんはその男性を知ってるの?」
「あぁ、なんか公園に行った時にばったり会ったんだって。うちの父さん、公園でよく
たそがれてたりするからさ」
なんだそりゃ。たそがれてるって。一体何を考えているのか気になる。…それはどうでもいいのか。
「んじゃ、3人は顔見知りってわけだ!」
菜々夏がスッキリーとしたオーラを放しながら話す。なんて笑顔だ。
「ま、そういうことっ。それで、うちの父さんが、深来さんの家に行きたいらしい。
…父さん、2人も知り合いが亡くなったから、それがなんでなのかを知りたいんじゃないかな。
2人の共通点についても知りたいんだと思う」
「…わかった。いつでもいいですって伝えて置いて。夜はお母さんが仕事でいないから、私1人だし」
「了解」
隣で拓斗が、震えているのに、私は全く気付いていなかった。