その少年、ここにあり
―─フィルレシア城下街広場─―
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【フィルレシア通信#1461】
■急募
セレスティアとの戦争に備え、フィルレシア国は急遽、兵を募集します。
腕に覚えのある方、覚悟が出来る方。是非我が国の兵士として、共に剣を振るいましょう。
志願される場合は、フィルレシア城の門番にその旨をお伝えください。
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「 戦争……か 」
城下町の中心にある噴水から丸く取られた人々の憩いの場に掲げられてる看板を見た少年は、ぽつりとそう呟いた。
漆黒の髪に漆黒の瞳。
無駄の無いしなやかな肉体には、極限まで絞り込まれた筋肉が付いており、長年に渡り鍛え上げたものだという事を見る人に容易に分からせる。
動きやすいように独自に手を施された黒色のレザーアーマーには所々に深い傷が付いており、修羅場をいくつも潜り抜けてきた事を表していた。
だが使い古された黒いマントでそれらを隠し、背中には二本の双剣を背負った全身黒一色の少年。
その胸元には銀のロザリオが日の光に照らされて神々しく光り、闇の中に一筋の光が照らされている様で。見たものに強く印象づけた。
少年は看板を見ながら、ふと自身の大切な記憶として今なお深く刻み込まれている記憶を呼び起こした。
……あの頃から既に十数年たっても、まだ鮮明に思い出せる。
あの日、あの場所で、たったの一度だけ邂逅が許された、ある少女の陽だまりのような笑顔と、その少女と交わした大切な、大切な約束を……。
きらりと、胸元で輝くロザリオが一際光を放つ。
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――
暫く看板の前で立ち尽くしていた少年であったが……
ふっと知らぬ間に瞑っていた目蓋を開くとその瞳は決意に満ちた目をしており、一度息を吸い込んでから、城の方角へと足を向けた。
ただ、約束を果たすために。
……がしかし、いざ歩きだそうとしたまさにその時。
今まで穏やかだったはずの風の向きが変わり、次いで甲高い悲鳴が背後から響き渡った。
それに少年はぴたりと動きを止め、城の方へと向けていた足を翻しそちらに意識を向ける。
「 ……ん? 」
すると、此方側に何とも不自然かつ不衛生な格好で気味の悪い笑みを浮かべた男が”何か”を片手に持ちながら走ってきているではないか。
しかも、もう片方の手で時折押さえ込もうとする男たちに魔法で生み出したんだろう、日常でも良く使われる小さな火の玉を投げ付けながら。
先程の悲鳴はその何かを奪われた女性のものなのか、はたまたその火の玉に襲われたものなのか……。
詳細は定かではないが、その男が悪、所謂泥棒だということは一目瞭然で、少年は呆れたように小さく息を吐いた。