開戦宣言
「 ……確かに、あのカルスめは今までも何かと姫さまに手を出そうと企てていたからのう… 」
「 セレスティア前王が死んだとき、またはカルスが後釜となったとき。こうなることも予期できていたはずだが……くそっ! 」
「 姫さま、どう致しましょうか…… 」
前国王であり少女の父であるドルフがいまだ健在だったときから、少女を何かと気にかけ見守ってくれていた初老の男が低く絞り出すように呟いた。
思い浮かぶのは、隣国新国王の少女を見下ろす品の無い視線。
初老はこれまでに幾度と無く見てきたそれを今一度思い返してみてか、先程の少女のように厳しい顔つきになる。
室内に思いのほか響いたその声に、その隣に座っていた初老の男よりはまだ若い男も同じ思いなのか…しかしその初老に続くように紡いだ音は悔やむように強張り、机に乗せた拳は爪が食い込むほど握り締められている。
思うことは、平和ぼけして危機を察知できなかった自身への怒り唯一つ。
少女の脇に守るように控えていた近衛兵も、恐る恐る少女を伺った。
彼も、この事態には顔を強張らせていて、動揺が隠せていない。
報告を聞いてからずっと瞳を瞼に隠し静かにしていた少女は、次々あがるそれぞれがこの国を、そして少女を思うからこそのその声に徐に瞼を開き、会議室にいる面々をゆっくりと見渡した。
その強い、覚悟を決めた真っ直ぐな視線に誰かが「ゴクリ…」と息を呑む音が微かに鳴り響いた。
「 ……戦争となると、民のためにはなりません。出来ることなら避けたい道です……
ですが、暴走した彼はきっともう止められないでしょう。例え、今私が彼の元に行くといっても血の気が多い彼のこと。
自分の力を見せ付けたいがために、一度抜いたその矛を収めることはしないでしょう…… 」
葬儀や継承の儀とはまた別に、同盟国同士、王族の交流の場は数多く存在する。
当主として少女も参加を義務付けられたその会合の中で、セレスティアの新国王となったカルス・セレスティアとは何度か面識があった。
それ故にそれなりに彼の人となりを理解している少女は確信していた。
この戦争は、どうやっても止められないと。
……ならば。
皆が真剣な目で、少女の次の言葉を待つ。少女は、ふっと、その瞳に挑発めいた光を灯し、
そして……
「 ……ならば、こちらも力の限り対抗するまで!
相手は強国セレスティアです…軍事力では圧倒的に分が悪いでしょう。ですが、案ずることはありません。我が国には一騎当千の精鋭部隊があります。
我が国の力、
存分に見せ付けてあげましょう!! 」
力強く、高らかに開戦を宣言した。
「「「「「 御意!! 」」」」
「 各地に滞在する将軍を至急呼び寄せろ! 」
「 諜報兵! 引き続きセレスティアに侵入し、情報を入手するんだ! 」
「 急げ! セレスティアがいつ攻めてくるか分からない!出来る限り急ぐんだ!! 」
少女の発した言葉を皮切りに、慌ただしくなる会議室。
その中心にいる少女、レナスは、一人瞳を伏せ、小さく震える拳を握り締めながら幼い頃に約束を交わした少年の事を思い浮べていた。
――約束だよっ
――絶対に、―になってみせる…!
「 ……アル 」
――――
――