緊急会議
─―フィルレシア城 会議室─―
場面は変わり、場所は会議室。
明るい窓を黒のカーテンで締め切っても魔法の光によって明るい部屋を埋め尽くすようにU字型に並べられた長机に腰を掛けているのは少女と、そして少女と同じく突然集められたのだろう城の核を担う上層部の面々や報告に来たのだろう一人の兵。
それぞれが際立った緊張感を発しているせいか、室内は重苦しい空気に包まれていた。
そんな中でも一際真っ青な顔で
僅かに身体を震わせながら、それでも毅然とした姿勢で皆の注目を集めているのは、まだ若さの残る顔つきをした報告に来たという一人の兵だった。
少女が静かに、その兵に事の説明を促すと兵はがたんと音を立てながら立ち上がり懸命に、それでも焦りから早口に言葉を発しだす。
「 報告します!
たった今、フィルレシア王国の隣国、セレスティア王国からこの国への侵略計画が密かに組まれているとの情報が入りました 」
「 っな?! 」
「 ばかな! セレスティアとは友好関係を保っていたはず……」
「 一体どういうことなんだ!!? 」
「 お前、嘘をついてるんじゃないだろうなっ!? 」
その兵から発せられた言葉を聞いた途端、この会議室に集められていた者たちにどよめきが走り、室内が混乱するそれぞれの声に包まれる。
だが、そうなるのも無理ないことでもあった。
突如として、民の笑顔が絶えないこの平和な国に、危機が迫っているというのだから。
「 鎮まりなさい! 」
中には兵を咎めようとする声もあり、それに口を開閉し続きを紡げずにいる兵を救うように、その声を切り裂くように少女が声を張り上げた。
良く通るそれは騒がしかった会議室内に大きく響き渡り、威厳のある少女のその一声に途端皆が口を閉ざし、今にも口を開きそうになる自身を戒めながら報告を続けようとする兵を見つめた。
静かになったのを確認してから、少女も兵に目を向け、「続きを」と静かに促す。
先程までとは種類の違うピンと張り詰めた緊張感が室内を包みこんだ。
その様子にほっと息を吐いていた兵が今一度顔を引き締め深く頷くと、続く言葉をゆっくりと選びながら話し始める。
「 ハッ。
……皆様も既にご存知の事と思いますが、セレスティアを治めていたグラム・セレスティアⅣ世が何者かの暗殺によりつい先日この世を去り、そしてその後継として三人の王子の中の長兄カルス・セレスティアが新国王として選ばれました 」
それは、この場にいるもの全員が既に耳にしているものだった。
実際、少女と十数人程の護衛はグラム前国王の葬儀や、その後執り行われた国王継承の儀にも同盟国当主として赴いていたため、そのことは良く知っていた。
少女の脳裏に、意地汚い笑みを浮かべ自身を厭らしく見下ろした青年の姿が思い浮かび、ひっそりと眉を顰める。
報告は続く。
「 今回の侵略について考えられるのは、恐らくこれを機に、カルスは姫様を我が物にしようとしているのではないかと思われます。
カルスは非常に野心が強く、これまでにも姫さまに対して異常な程の執着を見せているだけでなく、幾度も婚姻を迫ってきています。
……これは、あくまでも諜報兵の推測上であり確証はありませんが、恐らく間違いはないかと…以上が、調査報告になります 」
兵が報告を締め、一歩下がるように後ずさる。
今しがた落とされた言葉の数々は面々に様々な衝撃を与え、そして各々が苦虫を噛み潰したような反応を見せた。