防戦
しゃきっと、黒い紫がかった艶やかな光を放つ直剣を構えたアルが、空気を怜悧なものに変えてクロナを見据えた。
その姿に開戦を察したんだろう。
クロナが振り回していた動きを止めて、ぶんっと空気を震わせながら両手に持ち直し、ハンマーを鋭く斜めに構え直す。
その拍子に生まれた風圧がアルに触れた。
アルの前髪をふわりと浮かせながら、芝生に落ちていたんだろう細かい塵も舞い上がり、風と共にアルに触れるが、それをなんともないように受け止めながら言い放つ。
「 ……行くぞ 」
静かに呟いた、刹那。
先ほどの鞘と擦れあうようなものとは違う耳を劈くような音が辺りに響き渡った。
同時にあがる激しい火花。
電光石火の勢いで放たれたアルの鋭い一撃を何とか防いだクロナが、苦悶の表情を浮かべる。
その瞳には、突如として襲った重みに驚愕を浮かべながら。
( 重、いっ……腕がしび、れ……っ……! )
そんなクロナを気にせず、アルは体勢を整えさせる隙を与えないように次々と剣を打ち込んでいった。
それに比例する、いや、打ち込む速さについていけずに少し遅れて金属同士のぶつかる音が広いのどかな雰囲気を醸し出している芝生の上を、絶え間なく響き渡る。
聞いたものを震え上がらせるかのような耳に痛い二つの金属の鈍い悲鳴は激しく断続的に響いて。
怒涛の勢いでアルが剣を打ち込んでくるのに対し、クロナは殆ど勘で対応していた。
時折軌道が読めずに肌を掠める切っ先に背筋に嫌な汗が流れる。
( 目、っが……追いつか、な……っ )
視力が与える情報に頼っていたら、クロナはすぐにでもばっさりとやられているだろうと思わせるほどアルの動きは人間業を越えていた。
尾を引く残像がちかちかと明滅して、殆ど距離も無いのも相俟って得も知れぬ気持ち悪さを生みだす。
故に、クロナはいけないと思いつつも半ば眼を閉じながらアルの剣戟をやっとの思いで裁いていっていた。
斜めに構えて出切るだけ身体に寄せながら、一撃一撃をその大きさを生かし鋼で防いでいるが、その大きさが故にリーチが長く、上手く反撃が出来ずに防戦一方で、これではいくら力があろうとも宝の持ち腐れであった。
それに気づいたアルも、身体と共に漆黒の筋を引く剣を閃かせながら、すうと同じく漆黒の瞳を細める。
「 ……どうした、獲物が使いこなせて無いぞ? 」
変わらず一定のリズムで八の字に打ち込みながらアルが喋る余裕を見せた。
その途端、クロナが歯を食いしばり、その勢いを殺しきれずにじりじりと後退しながらもぎっと瞳を動かした。
その時。
鋼が、風を纏った。