不穏…?
「 ……良いだろう、表に出ろ 」
アルの口から出たその言葉に、クロナは一瞬何を言われたのかとぽかんとした表情を見せた。
何とか、頭の中でその言葉を反芻する。
そして漸く飲み込み、そしてアルがこれから何を行おうとしているのか、何をしたいのかを正確に汲み取ったクロナは、次の瞬間にはひゅっと息を呑んでいた。
( アルは、あたしを、試そうとしてる……? )
クロナの脳裏に、自分から金時計を盗んだあの憎きゴリラ男を軽々と撃退した、鋭敏に、美しく決まった回し蹴りが再生される。
その間も鋭く向けられる肌を刺す程の威圧感と、アル自身の強さに恐れ、無意識に身じろいだ……
そのとき、テーブルの上に置いたままだった金時計が、光を発したかのように見えた。
クロナを励ますような、叱咤するかのようなそれは、消えかけたクロナの意思を持ち直させる。
どうにか寸前で後退ることは抑えたクロナは、先程のアルを真似るように一瞬瞳を閉ざし、一つ呼吸を整えるように、小さく肩を揺らした。
―― ……じっちゃん、! あたし、傭兵になるっ!!
この金時計と、そして、なんの繋がりも無い赤の他人である自身を、時に厳しく、時に穏やかに見守っていてくれた大切な人に誓った記憶が、アルの回し蹴りを塗りつぶす。
一度だけ、その両手に力を込めて。
そして、再び開いたその双眸は、深い覚悟を決めた力強い光を持ったものとなり、対抗するようにアルの殺気を受け止めた。
――――
――
ここで少し、場面が変わる。
アルとクロナが険悪な雰囲気になる、ちょっと前の事……。
――フィルレシア郊外 白兎草原――
「 よっしゃぁお前ら、準備はできたかぁあ!!! 」
「「「 おぉっ!! 」」
フィルレシア郊外の、辺り一面を青々と生い茂った草原が駆け抜けている場所のど真ん中にて。
人目につきそうな、作戦会議をするには些か不釣合いなそこには、先程クロナの懐中時計を盗み、そしてアルにあっさりと瞬殺された屈強な大男が居た。
その男は先ほどの怪我により少々ぎこちなくしつつも、それよりも大柄で黒いひげを蓄えた男が発した腹の底に響く大太鼓のような声に賛同し、他にも大勢集った似たり寄ったりな男たちと共に連なるように拳を振り上げていた。
「 もうじき戦争という事もあり、街の警備兵も準備に大忙しで手薄になっているはずだ。
そこで!
そのときを舌を舐めながら待っていた賢い我々は、待ってましたとばかりに計画を大急ぎで立てた! その計画はこうだ、いいか?
我々はこの隙を狙って街を、この日のために地道に作ってきたこの[黒ひげ爆弾]で襲い、その混乱に乗じて金目の物を根こそぎ奪ってやるっつぅ計画だ!
作戦内容は各自に配った巻物を参照してくれ。
いいか、くれぐれも忘れるんじゃないぞ? 忘れた奴には命はないと思え!
そして今日、巷で有名な黒ひげ盗賊団である我々は華麗に、そして美しく任務を達成し、後のフィィィバアアアア!!!! に全力を、注ぐのだぁぁあ!! 」
「「「「 フィィィバアアアア!!! 」」」
ムサイ男たちの魂の鼓動は、ムサイなりに大きく空へと響いていった……。
……先程の騒動により、街の警備は多少なりとも強化されているとも知らずに。
勿論、瞬殺された屈強なその男も、自身が仲間たちの足を引っ張ったなど、微塵にも思わずに。
急 展 開 。
…過ぎますかねどうでしょう分かりません(おい)
それはともかく。
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