コミュニケーション ~かえるおとこ~
蛙はそれはもう見事な緑色でつやつや潤いニキビのひとつもなくつるりとして
穏やかで透き通ったせせらぎにざぶんと飛び込むと視界には
白いあぶくがシュワシュワしてすぐさま消え失せ
浅い水底の砂利の上で心地よい姿勢に落ち着き見渡すと
水面に太陽光の乱反射がきらきらして水草や丸い石、魚の鱗などが照らされて光り
また水面を流される落ち葉は水底に影をつくるので
水中の景色はチカチカして目に染みる
「僕も蛙とかに生まれたかったなー」
「んだらばお前も、蛙になればえい」
長山くんは珍しくふざけた口調で言ったが僕は無視して続ける。
「だって蛙はさ、泳いでさ、それでときどき誰かん家の前でゲコって鳴けば、そういう一生でいいんよ?それはさ、ある意味では最高やない?」
長山くんは微笑み上半身全体を使って小刻みに、まるで寒さにこらえるような動きでうなずく。
長山くんとはよく価値観が合うので基本的に肯定してくれる。しかし時には彼が僕に気を遣って肯定している場合や、僕の意味しているところとは少し別の意味で理解して肯定している場合もあるように感じるし、またピンと来ていないときには少し考えて首を振るが、僕がごちゃごちゃ下手な説明を加えて僕がそう考えたプロセスを紹介すると、彼はなるほどそういう考えもあるのかという意味でまた肯定してくれる。
「長山くんはさ、もし人間以外に生まれるなら何がいい?」
「雪だるま」
即答だった。たぶん僕が蛙になりたいのなんのと言っている間に考えていたのだ。
長山くんは頭がいい。また彼も僕のことをそれなりに認めてくれているように思われる。
しかしまたなんで雪だるまなんだ。そもそも雪だるまは生き物じゃない。
「それはさ、なんで?」
僕は愛想笑いを浮かべながら質問する。僕の悪癖の一つだ。その点彼はそういうことはしない。
「だってじっとしていれば、溶けて水になって川を流れて海に混ざって地球になれるもん。僕は将来は地球になりたい。」
彼は頭の良い人がときどきそうであるように若干ポエマー気質であり、やはりまた僕もその気があるのでそういう思考はわからないでもない。
「なるほど。でもそれはさ例えば蛙で言うと、蛙が蛇に喰われて死んだとするじゃん、そしたら消化されて一部は蛇に吸収されて、残りはフンになるじゃん、で、その吸収された分は蛇になったと言ってもいいわけで、それでその蛇が死んだら、フンもそうだけど、地面というか土の上でなんか虫とか微生物とかに分解されてさ、最終的には土になるわけだから、結局地球上の何であっても最後には地球になるとも考えられない?」
「たしかに。つまり、今僕たちは人間の形をとっているというだけで、物質としては地球の一部っていうことか」
「そうそう。つまりね僕は長山くんで、長山くんは僕で、でしかも長山くんは雪だるまで雪だるまは蛙で、蛙は僕ってことよ!ってことはさ言い換えると、いろんな物体の全部の集合をとってきてさ、それを地球上の物体全部の集合で割った剰余を考えると、僕も長山くんも蛙も雪だるまも地球の同値類ってことやんね」
「たしかに」
僕と長山くんは愉快に笑いあった。




