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戦乱の世の中で、国士無双と呼ばれた男  作者: ほろ酔い


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3/5

魔法。そして、0.08%

手のひらの上で、二枚目の牌が鈍い光を放っている。

 竹の節が七本刻まれた、七索(チーソー)だ。


「……出た。本当に出たんだな」


 トシは震える手でその牌を掴み、ステータス画面を呼び出した。虚空に浮かぶウィンドウが、新たなデータの書き換えを告げる。


【トシ:Lv.1】

H(体力): 120


A(攻撃): 71 (一萬(イーマン)により+1%)


B(防御): 70


C(特攻): 45


D(特防): 60


S(素早): 79 (七索(チーソー)により+3%)


【所有牌】


一萬(イーマン):物理攻撃力(A)を1%上昇させる。


七索(チーソー):素早さ(S)を3%上昇させる。


【現在の役:なし(ノーテン)】

「Sが79……。77から『2』上がってる」


 トシは自身の身体を軽く動かしながら、数値の変化を確かめた。

 このステータス補正の法則が、少しだけ見えてきた。どうやら「5」という数字を基準にしているらしい。

 例えば一萬(イーマン)の場合、5から1引いて距離は「4」。5からその4を引いた残りの「1」が、そのまま1%の補正となる。

 今回の七索(チーソー)は、5と7で距離は「2」。5から2を引いた「3」が、3%という補正値に繋がっているのだろう。


「理屈は分かった。だけど……」


 トシは手元の二枚の牌を握りしめる。

 あと十二枚。十四枚の牌を揃えて、いわゆる『役』というものが完成した時、一体俺の身に何が起こるのか。

 バフが強化されるのか、新しい魔法のような力が使えるようになるのか、それとも全く意味のないただのコレクションで終わるのか。今のトシには見当もつかない。

 だが、この絶望的な異世界で生き残るための、唯一の蜘蛛の糸であることだけは確かだった。


     *


 翌日。トシはさらに慎重に森を探索していた。

 ステータスの「S」が上がった恩恵は大きく、足取りは昨日よりもはるかに軽い。泥に足を取られることも減り、ゴブリンの索敵をかいくぐるのも容易になっていた。


(通常のゴブリンは0.01%。上位種のナイトは0.05%。狙うならナイトだが、二体同時はもう御免だ)


 彼は森の地形を利用し、ツタや鋭く削った木の枝を用いた簡易的な罠を仕掛けて回った。正面からの殴り合いを避け、確実に一体ずつ仕留めるためだ。

 しばらく息を潜めていると、腐葉土を踏みしめる複数の足音が近づいてきた。


「ギィ、ギガァ……」


 藪の中から姿を現したのは、三体のゴブリンだった。

 しかし、そのうちの一体を見て、トシは背筋に冷たいものを感じた。

 通常のゴブリンではない。ナイトのように鎧を着ているわけでもない。そいつは、ボロボロのローブのような布を纏い、先端が捻じ曲がった不気味な「杖」を握りしめていた。


 視界の端に、システムメッセージが流れる。


『対象個体:ゴブリンメイジのドロップ確率を確認……0.08%』


「メイジ……魔法使いかよ。しかもドロップ率は0.08%」


 トシが息を呑んだ瞬間、枯れ枝を踏むわずかな音が鳴ってしまった。

 ゴブリンメイジの黄色い濁った眼球が、正確にトシの潜む茂みを捉える。


「ギャアッ!!」

 

 メイジが短く叫び、杖を振り上げた。

 その先端に、チリチリと空気を焦がすような赤い光が収束していく。


「嘘だろっ!?」


 トシは反射的に茂みから飛び出し、横へと地面を転がった。

 直後、彼が先ほどまで隠れていた茂みに、バスケットボールほどの巨大な炎の塊が着弾した。

 ドォンッ! という爆発音と共に熱風が吹き荒れ、土塊と燃えカスが周囲に撒き散らされる。


「ぐあっ……!」


 爆風を背中に受け、トシは前方に吹き飛ばされた。

 左腕に焼け焦げるような激痛が走る。見れば、衣服の袖が焦げ、皮膚が赤く爛れていた。


(威力が桁違いだ……。あんなの、まともに食らったら一発で消し炭になる!)


 トシの現在の『D(特防)』は60。魔法攻撃に対する耐性など、無に等しい。

 通常のゴブリン二体が、炎に怯んだトシへ向かって錆びた剣を構え、突進してくる。その後方では、メイジが再び杖に魔力を集め始めていた。


「くそっ、今は無理だ!」


 トシは激痛に顔を歪めながら立ち上がると、腰の袋から目潰し用の土と石の入った袋を鷲掴みにし、突進してくるゴブリンたちの顔面へ力任せに投げつけた。

「ギギャッ!?」

 前衛の二体が怯んだ隙に、トシは踵を返し、森の最も木々が密集している方向へと全力で駆け出した。

 背後で二発目の炎弾が木をへし折る爆音が響いたが、振り返る余裕などない。S(素早さ)が上昇している今の脚力にすべてを懸け、ただひたすらに走り続けた。


     *


 数十分後。

 沢の近くにある岩陰に滑り込んだトシは、荒い息を吐きながらその場にへたり込んだ。

 追手が来ていないことを確認し、震える手で左腕の火傷を沢の水で冷やす。


「痛ぇ……。魔法なんて、ファンタジーのゲームでしか見たことなかったぞ」


 歯を食いしばりながら、トシは先ほどの光景を脳裏で再生した。

 飛び道具にして、即死級の火力。石斧と投石紐しかない今の自分では、正面から挑めば確実に殺される。


「だが……0.08%だ」


 ゴブリンナイトを上回るドロップ率。あいつを狩れば、三枚目の牌が手に入る確率は格段に跳ね上がる。

 トシの瞳に、痛みよりも強い、獲物を狙う狩人の光が宿っていた。


「やってやる。絶対に、あいつの首を取ってやる……っ!」


 戦乱の世の洗礼を浴びたトシは、夜の闇に紛れながら、ゴブリンメイジを屠るための緻密な罠の構想を練り始めた。

【トシの現在の手牌】

[一萬] [七索] [空] [空] [空] [空] [空] [空] [空] [空] [空] [空] [空] [空]

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