死闘の報酬。確率0.05%の境界線
ゴブリンの死体が光となって消え、手元に残ったのは一個の麻雀牌。
トシは、震える指先でその白い背を見つめた。
「スキル、『麻雀』……」
その言葉に反応するように、視界の端で半透明のウィンドウが明滅する。
意識を集中させると、まるでゲームのステータス画面のような詳細情報が浮かび上がった。
【トシ:Lv.1】
H(体力): 120
A(攻撃): 71 (一萬により+1%)
B(防御): 70
C(特攻): 45
D(特防): 60
S(素早): 77
【所有牌:一萬】
固有効果:一歩の踏み込み
パッシブ効果: 物理攻撃力(A)を1%上昇させる。
現在の役: なし(ノーテン)
「……これが、今の俺の力か」
トシは自嘲気味に呟いた。
本来は70であったのだろう「A」の項目に刻まれた、71という数字。
だが、この手牌の枠が十四枚揃うまでは、この程度の強化など微々たるものに過ぎない。この過酷な森を生き抜くには、あまりに心もとない数値だった。
その後、トシは「食うか食われるか」の現実に身を投じた。
泥を這い、茂みに潜む。昨日の経験を糧に、投石紐でゴブリンを誘い出し、背後から石斧を叩き込む。
だが、現実は甘くなかった。
十体――。
必死の思いでゴブリンを仕留め続けたが、二枚目の牌が落ちることはなかった。
「出ない……。やっぱり一万分の一なんて、そう簡単に引けるもんじゃないか」
疲労と空腹で膝が震える。打ちひしがれ、木の根元に座り込んだその時だった。
「――ギガァッ!!」
これまでのゴブリンとは一線を画す、野太い咆哮が森を震わせた。
現れたのは、通常の個体より二回りは大きく、胸に錆びた鉄板を括り付けた個体。ゴブリンナイトだ。
「……っ、いわゆる上位種か!」
トシは即座に投石紐を放つが、ゴブリンナイトは盾代わりの鉄板でそれを弾き飛ばす。
巨体が突進してくる。トシは咄嗟に横へ跳んだが、振るわれた鈍色の剣が肩をかすめ、血が噴き出した。
死の淵に立たされ、トシの脳内が急速に加速する。
正面からでは勝てない。彼は逃げると見せかけて、急斜面へと誘い込んだ。
足場の悪い崖際。ゴブリンナイトが重い剣を振りかぶった瞬間、トシは足元の土を思い切り蹴り上げた。
目潰し――。
一瞬の隙。トシは死力を振り絞り、石斧をゴブリンナイトの剥き出しの膝へと叩きつけた。
「ガアアッ!?」
バランスを崩した上位種に、トシは追撃の手を緩めず、その喉笛を目がけて尖った石を突き立て、ついに沈めた。
巨体が光に包まれる。
トシは荒い息を吐きながら、ドロップ品を期待して目を凝らした。
しかし、そこに牌はなかった。
「……落ちてない。けど、これは?」
ウィンドウの端に、新たなシステムメッセージが流れる。
『対象個体:ゴブリンナイトのドロップ確率を確認……0.05%』
「通常のゴブリンは0.01%で、上位種だと0.05%か……。倒したモンスターが強いほど確率は上がるみたいだな」
*
翌日。トシは重い体に鞭を打ち、目標を「二十体」と定めて狩りを再開した。
一体、また一体と確実に数を減らしていく。
そして十九体を倒し終え、目標まであと一匹となったその時――最悪の光景が目に飛び込んできた。
ゴブリンナイトが、二体同時に現れたのだ。
「冗談だろ……最後がこれかよ」
逃げ場はない。トシは死に物狂いで罠を張り、木々の間を縫って走った。
まずは一体。突進してきたナイトの足を、あらかじめ仕掛けていた蔦の罠で引っかけ、転倒したところを執拗に石斧で殴りつける。
「まずは一体……っ!」
息つく暇もなく、二体目の剣が風を切って迫る。トシは泥にまみれながら転がり、捨て身のタックルでゴブリンナイトの懐に入り込んだ。
錆びた鉄板の隙間、首筋。そこへ、鋭く尖らせた石の破片を全力で突き立てる。
二体目のゴブリンナイトが、絶叫と共に光となって弾けた。
膝を突き、激しく肩で息をするトシ。
その視界の先、消滅した死体の跡地が光輝いた。
『ゴブリンナイトの討伐を確認。ドロップ判定……成功(0.05%)』
『【七索】を獲得しました。手牌に加えます』
【トシの現在の手牌】
[一萬] [七索] [空] [空] [空] [空] [空] [空] [空] [空] [空] [空] [空] [空]




