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俺が宝くじで10億円当選してから、幼馴染の様子がおかしい  作者: 沢尻夏芽
1年生

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【1年 4月-7】先立つものが必要

 綾菜の提案を受けて、その夜の夕飯では、真城家恒例の欲しいものプレゼンが繰り広げられることになった。


 真城家は子どもの月々の小遣いは低いが、それとは別に欲しいものをプレゼンし、両親が承諾すれば買ってもらえるシステムがある。それぞれに利害があるので、家族4人が一番盛り上がる話題だったりする。


 俺が10億円を当てて以降も、このプレゼンシステムは続いていて、俺が成人するまでは10億円は自由に使えないことになっている。10億円が入っている俺の口座の残高は、俺と両親がそれぞれアプリで監視できるようにしていて、ズルはできない。


「あのさ、俺、明日服買いに行きたいんだけど」


「へー、珍しいわね。誰かと行くの?」と母。


「誰でもいいじゃん」


「あらまあ、お年頃。予算は?」


「んー、5万かな」


「「「5万?」」」

 両親だけでなく、妹の柚梨ゆずりまでユニゾンで驚きの声を上げた。


「5万って高1には高いよな?」と父。


「お兄ちゃん、そもそも家から出ないじゃん」と柚梨。


「そんなに何着も買いたいの? 健康はまだ成長期だから、買った服はすぐ着られなくなるかもしれないよ。そんなにお金使うのはお母さんは反対かな」


「大きめを買うよ。上下いくつかと、あと、ちょっと人にお世話になったお礼に服をプレゼントしたいのもあってさ」


「どんなお世話になったの?」


 うーん。これが欲しいものプレゼンの悪いところだ。不足している情報があるとガンガン突かれる。じゃあ最初から全部開示すればいいかというと、もちろんそうではない。子ども側の情報開示の最低ラインが上がってしまう。言い渋って少し両親を疲れさせながら、欲しいアピールをするのがポイント。


「弁当作ってもらった」


「お弁当……。誰に? 女の子? 綾菜ちゃん?」


「……誰でもいいじゃん」


「お兄ちゃん今日お弁当2つ洗ってたじゃん。色違いの。コソコソしてたけど見えてたよ。で、綾菜ちゃんがゲーム遊び終わって帰るとき、お弁当が2つ入る大きさのバッグ持って帰ってたよね?」

 柚梨の目が刑事のように鋭く光る。


「……そうだよ、綾菜に作ってもらった」


 母が嬉しそうに手を叩いた。

「やっぱりね。で、綾菜ちゃんとは付き合ってるの?」


「付き合ってない」


「でも、綾菜ちゃんと服を買いに出かけるんだよね? それって綾菜ちゃんが誘ったんじゃない? 健康は服を買いたいなんて自分から言うタイプじゃないから」

 母の口角が名探偵のようにゆっくりと上がる。


「綾菜ちゃんって健康が宝くじ当たったの知ってるよな? それって……うーん」

 父が言葉を濁した。


 場が静まって、食べ物を食べる咀嚼音だけが食卓に響く。みんな、父がどういう意図で黙ったのかを察している。これは憶測で他所の子のことを悪く言うチキンレースだ。


「都合のいい男と思われてるだけでしょ」


 と、柚梨が漬物を食べながら先陣を切る。


「というか、奴隷じゃん、あれ。ポテチ食べさせてあげてたり、飲み物用意して飲ませてあげてたりさ。この前なんて靴下脱がしてあげて、足拭きシートで足拭いてあげてたよ」

 

 弁明しよう。ぶっちゃけて言うと、あの嘘告白事件以降、綾菜と一緒に登校するようになった俺は、『これワンチャン可能性あるのか?』と徐々に思うようになったのだ。

 かと言ってデートに誘う度胸も興味もなかったので、家を綾菜にとっての最高な快適空間にするという手段を考案したのである。


 幼馴染と言えど他人の家だから、綾菜も最初は遠慮がちだった。

 しかし時間が経つにつれ、俺はソシャゲの運営さながら、ユーザー満足度向上に尽力するようになった。

 結果、方向性を見失い、今では『無料100連当たり前』状態になってしまったのである。


「それは……どっちなんだ?」と首を傾げる父。


「それは……どっちかなぁ?」と首を傾げる母。


「どっちにしろキモい」と顔を背ける柚梨。


「ま、でも、弁当を作ってもらってお返しをすること自体は悪くないんじゃないか? そういうの曖昧にすると、後が怖いぞ」


 と言う父からは経験者の香りしかしない。


「あと、お揃いの弁当箱ってことは、これからも作ってもらうんだろ? 服は手間のお礼として、実費も渡さないといけないだろ」


「これからどうなるかはまだ聞いてない。正直、いきなりのことで俺も困惑してて。今まで全然そんな感じじゃなかったのに」


「お兄ちゃん、それってさ、ますますお金目当てとしか思えなくない?」

 柚梨が不機嫌そうに冷たく言い放つ。

「昔から有料で耳かきしてもらってたよね」


「両耳1000円で膝枕つきだぞ。格安だ!」


「一番多いとき、1ヶ月に4回もやってたけど、必要だったの? 綾菜ちゃんの言いなりになってただけじゃないの?」


 否定……できない。

 あれは今年に入ってからだったはずだが、綾菜にスーパーへプリンを買いに行かされ、あーんさせられて、それが下手だった(プリンはスプーンの上で滑りやすい)から、罰として一緒に買った俺の分のプリンまで食われたことがある。


 あのときは流石に『これ、詫び石のレベル超えてね?』とは思った。


 そういえば、あのとき柚梨に買った分は、「要らない」と珍しく柚梨に断られて、俺が食べたっけ。

 ……まさかあれ、一部始終を見ていた柚梨に、同情されたからなのか?


「柚梨、お兄ちゃん取られるの、嫌なんでしょう。わかるわかる」

 母がニヤニヤしている。


「違う。お兄ちゃんのお金を取られるのが心配なだけ」


「綾菜ちゃんとは昔からよく喧嘩してたもんねぇ」


「あれは綾菜ちゃんがワガママだから注意してただけ。だって綾菜ちゃん、お兄ちゃんの消しゴムに『あやな』って書いたりしてたんだよ。お兄ちゃんの名前の隣にだよ。お兄ちゃんのお金もきっと——」


 父が手をパンと叩く。

「お母さんも、柚梨も、もうやめなさい。長い付き合いの綾菜ちゃんを疑うのも、それについて議論するのも、気持ちのいいものではない」


「ごめんなさい」と母。


 続いて「ごめんなさい」と柚梨。


「とにかく、服を買う金は出すよ、健康。息子のデートを親が止めるのは野暮だ。

ただな、世の中の大半の人間は、善人でも悪人でもない。状況次第で簡単に揺らぐと、心に留めておきなさい。付き合いの長さは関係ないぞ。大金の誘惑の前では、人は驚くほど脆い」


 張り詰めた空気の中で、父の声が重く響く。


「だからこそ、揺らがない人の存在は尊くて、出会えたらその幸運を逃さない努力をすべきだ。……だが、人の本性なんて、なかなかわからないんだよな。簡単にわかるなら、不倫されて離婚する人なんて、この世にはいない。……お母さん、大丈夫だよね?」


 ちゅっ。


 欧米か! 母親から父親にがっつりキスするところ見るの、日本の思春期の子どもにはきついて。


「……ま、まあ、金の管理はまだこっちがするし、今は深く悩む必要はないかもな。だがそれとは別に、未成年としてのラインは弁えろ。過ちを犯して一番苦しむのは、お前ではないからな。それさえきちんとしていれば、あとはどんなに結果になっても、結局は人生の勉強だ」


「わかった。ありがとう」


 プレゼン終了。何とかなった。


 俺の心に、深い疑念を残して。

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