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俺が宝くじで10億円当選してから、幼馴染の様子がおかしい  作者: 沢尻夏芽
1年生

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【1年 6月-8】お願いマッスル

 翌朝、俺は「おはよー、反省した?」と眠そうに家に来る綾菜を少しだけ期待していたが、もちろんそんな都合のいい展開はなかった。


 今日は水曜日の『hump day』なのに、綾菜の宣言通り、手作り弁当はない。

 寝坊気味だったので、冷凍惣菜をチンもせずに弁当箱にぶち込み、白飯を隙間にねじ込んで登校した。


 昼は若色さんに俺のダイナミックな弁当を見て驚かれ、水曜日なのに綾菜の弁当がないことを心配された。

 俺はしどろもどろになりながら、なるべく若色さんが責任を感じないような表現をこねくりひねり出して、事情を説明した。


「今、直接行って話した方がいいんじゃない?」


 と若色さんには言われたが、これまでの綾菜の話や昨日の態度を考えると、これはアウトだ。綾菜には綾菜のクラスでの立ち回りがあるっぽい。会おうとするなら綾菜の家に行った方がいい。


 でも既読無視されて家に行くのはヤバいやつじゃない?


 バイトも勉強もしんどいし、俺は綾菜のLINEの反応で判断することにした。


[ところで綾菜、勉強どうする? 揉め事は揉め事として一旦置いといて、勉強は一緒にしない? 今週は木曜、来週は月、木、土と空いてるよ。若色さんは呼ばない]


 ——既読無視。



 翌日、木曜日。


[綾菜、本当にごめんなさい。反省しています。放課後、会えない? 会いたい]


 ——既読無視。



 金曜日。


[あの、できれば一旦テストが終わるまで前の感じに戻れないかな。やっぱり勉強に集中できなくて。綾菜はどう?]


 ——既読無視。



 土曜日。


[脳にカカオたっぷりチョコがいいって見たからチョコ買ったよ。綾菜の家の郵便受けに入れといた。食べて]


 ——既読無視。



 日曜日。


[今日もチョコ持って行ったけど迷惑だったかな? 昨日のチョコ、取ってはくれてたみたいだったけど。返信がなかったらもうやめる。迷惑かもしれないから]


 ——既読無視。


 きつい。

 正解がわからない。


 チョコあげるストーカーじゃん、これじゃ。『チョーカー』じゃん。


 林さんに相談しようかとも思ったけれど、テスト勉強に影響したら申し訳ないのでやめた。綾菜にも迷惑だろうし、もう何もしない方がいいのかな。


 綾菜を学校で見かけたこともあったけど、あのときの女子たちが周りにいて近付けなかった。——いや、近付かなかった。

 女子たちのいる場でリア凸は狂気だよ。

 そんな迷惑なことをしたら、俺は、『自己中なチョーカー』、略して『ジョーカー』になる。


   ◇ ◇ ◇


 日曜日の夜、風呂上がりに父に話しかけられた。


「健康、最近元気ないな。何かあったか?」


 普段なら、何でもないよ、と逃げそうなところだけど、今回は背負っている荷物がしんどすぎて、父にそれをぶち撒けるように全てを話した。

 

 父は粉末から作るアイスレモンティーを2杯作りながら、黙って俺の話を聞いてくれた。


 俺の話が終わって、テーブルに向かい合ってふたり、静かにレモンティーをひとくち飲んだ。


「今回の件で健康に一番必要だったのは、『綾菜ちゃんと縁が切れるときの想像』だと俺は思う。自分が何をしたら縁を切られるのか、あるいは綾菜ちゃんが何をしたら自分は縁を切るのか、明確に考えてこなかったんじゃないか?」


「……。うん。ちゃんと考えたことがなかった。今回の嘘で縁を切られるかもしれないとは思わなかった」


「本当はそういうことをちゃんと考えて、事前に互いに伝えるべきなんだよ。交際だって約束の一種だ。基本はビジネスと同じだぞ。曖昧なことを放置すると、大抵あとでトラブルになる」


「ああ……。俺、いろいろ曖昧なままになってる」


「大人だって大概そんなもんさ。だが、1回ラインを超えたら、基本的にはもう終わりだと思った方がいい。『好き』のタグが『無理』のタグに置き換わってるからな。謝罪してやり直せると思うのは、やらかした側の都合の良い願望だ」


「綾菜とはもう終わりってこと?」 


 言葉にしたら、胸が苦しくなった。


「綾菜ちゃんは健康をブロックしてないし、『終わり』だとも言ってないんだろう? なら、『健康が何をしたら綾菜ちゃんが嬉しいか』で考えてみたらどうだ?」


「わかんない。俺が綾菜に何をしても、綾菜は嬉しくないのかもしれない」


「『綾菜ちゃんに』何かするってだけの話じゃないぞ。恋愛はロジカルに考えろ。容姿を磨く、話術を鍛える、周囲の人や環境を味方にする、肩書きを得る。全部やらないよりやった方がいいだろ? その上で、綾菜ちゃんが誰より特別だというアピールをするなら——少なくとも嫌われはしないだろ」


「そんな、あれもこれもやるの無理だよ。テストもあるのに」


「時間を使うバランスが難しいよな。優先度が高いのは特別アピールかな。やり過ぎるとウザがられるけどな。もし勉強に手がつかなくなったら、筋トレとかランニングで一度頭を空にするのがおすすめだ。筋トレはいいぞ、筋トレは。女と違って費やした時間が裏切らないからな」


「筋肉は全てを解決するってやつ?」


「それは言い過ぎだけど、下手に悩んでウジウジしている男より、明るい筋肉バカの方が愛らしいじゃないか」


「そっか。そうだね」


 筋肉バカはウザくても元気をくれる。確かにそっちの方がいい。


「ありがとう、父さん」


   ◇ ◇ ◇


 それから俺は1日1回、朝にだけ


[おはよう! 今日もテストに向けて頑張ろう!]


 とか


[おはよう! 寝坊してない? 今日も頑張ろう!]


 とか、早速ポジティブな筋肉バカみたいなメッセージを送るようになった。放課後、バイトが休みで家にいるのに勉強が手につかない時間は、軽くランニングして、ついでにチョコを買って綾菜の家の郵便受けに入れた。


 既読無視は続いたけれど、時間が限られている俺にはこれくらいしか思い浮かばない。


 そして、ついに期末テストが始まった。

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