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俺が宝くじで10億円当選してから、幼馴染の様子がおかしい  作者: 沢尻夏芽
1年生

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【1年 6月-6】やれやれだぜ

 体育祭の翌週の月曜日。

 今日は綾菜と林さんといつもの漫画文芸部の部室で昼飯を食べつつ、機材購入について打ち合わせしようということになった。


 綾菜の家には前日の日曜に『いっちゃんいい』ペンタブレットが納入され、林さんも綾菜の家に行って使い勝手を確かめた。

 今回はそのフィードバックである。

 ちなみに、綾菜がこれまで使っていたタブレットは林さんが使うことになった。


「「「いただきます」」」


「へー、焼きそば」


 弁当の蓋を開けたら、綾菜が俺の弁当を見てくる。


「今日は早く起きれたから、弁当作った」


「でも野菜はもやしだけ? 栄養バランス悪くない?」


 勝手に焼きそばを少し取って味見する綾菜。


「まあ、普通だね」


「焼きそばは簡単だから。でも、上と下を入れ間違ったんだよ。野菜は冷凍ものだけど下に入れてるから大丈夫。ほら」


 下は、冷凍ブロッコリー、冷凍にんじん、エリンギのバターソテーと唐揚げ。


「このエリンギのソテーだけは作った。食べてみて」


 綾菜がエリンギをひょいっと箸でつまむ。


「……まあまあかな。見た目はナメクジの切断死体だけど、食べられなくはない」


「それ言うの勘弁してくれよ。逆にナメクジがおいしそうに見えるまである」


「実際そうかもよ? エスカルゴってあるから。どう? そろそろあたしに愛情こもったお弁当作ってみる?」


「……できそうな日があったら夜に連絡する」


「ごほん、えーっと」と林さん。


「確認ですけど、ついに付き合った感じですか?」


「「付き合ってません」」


「何やってんですか、ふたりして。『もう付き合っちゃえよ』じゃなくて、『付き合いきれないよ』って感じですよ、こっちは」


「いや、でもほら、この前の借り人競争でも『プロフェッショナル』で綾菜を選ばなかったじゃん。ああいうところがダメだったなとわかったよ。『心をときめかせてくれるプロフェッショナル』とか、何でも言えたのに」


 綾菜はまるで生活の知恵のショート動画を観た主婦のように頷いた。

「そういう手があったのか。あたしも普通に千歌ちゃんが合ってると思った」


「……言わなきゃよかった」


「でもね、千歌ちゃん。あたしがけんこーのところに行ったとき、けんこー居なくてさ、若色さんのところに行ってたんだよ」


「あれは説明したじゃん」


「わかるけど、わかるけどな~。けんこー、千歌ちゃんにも話してあげて。何があったか」


 怪訝な顔をする林さんに、仕方なく事情を説明した。


「千歌ちゃん、どう思う?」


「他に止める人がいなかったんですね?」


「うん。ああいうのって何かクラスのまとめ役みたいな女子が出てくるかと思ったけど、そうでもなくて」


「大人しそうな美人さんって、孤立しがちですからね……。女子はやっぱり他の女子の容姿に嫉妬しがちなんですよ。だから気の強い女子がそういうときに動かないってのはあるあるですね。もちろん人によりますけど」


「うわー、そうなんだ」


「グループのリーダー格の人が助けるならいいですけど、そうじゃない人なら、下手に助けるとグループから外されるみたいなこともありますよ。うちのクラスも……ねぇ」


 綾菜が頷く。


「そっちにも何かあるんだ」


「この際言いますけど、綾菜ちゃんの立ち位置も微妙ですからね。ぶっちゃけますけど、綾菜ちゃんって『残念キャラ』に意図的にしてますよね?」


「あはは。そう。ばれた?」


「漫画文芸部で非リアで……、鈍感な幼馴染に片思いしてるキャラです」


「へ?」


「ちょっと千歌ちゃん」


「なので、リーダー格さんに同情されているというキャラなんですよ」


「いや、そうじゃなく……『綾菜が』片思い?」


「えーと、それはね。あたし的には、その……、慈善事業的な感じで言ってるんだけども、向こう側の解釈が独り歩きして……」

 綾菜が真っ赤になる。


「『引きこもりになりそうな幼馴染が居るから定期的に様子を見てる』が綾菜ちゃんがお昼たまに抜け出す言い訳なんですが、まあ、それをそのままそうだと解釈する女子はいないわけですよ」


「え、綾菜、ごめん。俺、負担になってる?」

 

「負担じゃないよ。大丈夫」


「でも、マキくんが若色さんを助けた噂が広まると、綾菜ちゃんがますます不憫なキャラになります。一方で若色さんも男子に助けられたという嫉妬で孤立が深まるかもしれません」


「え、俺がやったことって、逆効果だったってこと?」


「助ける人がいなかったんだから、どうしようもないですけどね。たまにはこっちのクラスに来て、綾菜ちゃん好き好きアピールをしたらどうですか? マキくん、こっちのクラスには全然来ないですよね?」


「それは……俺なんかが行ったら綾菜の迷惑になるかもと思ってたんだけど」


 林さんが頭を抱える。

「『綾菜は俺のものだ!』みたいなのはないんですか」


「女性は所有物ではないでしょ」


「そうじゃなくて……。『誰にも渡さない!』みたいなのですよ」


「付き合ってないから、そんなこと言う権利はないじゃん。言うやつはストーカーだよ」


「バッカモーン! じゃあ告白すればいいだろうが!」

 林さんから波平オーラが出ている。


「告白はしたよ。でもフラれたから」


「えぇ〜」

 あ、マスオさんになった。


「あ、でもそれは俺が悪かっただけで。諦めるって話でもないから」


「もうわけわかめですよ。付き合ったらちゃんと連絡ください。それまでつつくのやめます」


「ごめんね、千歌ちゃん。ありがとう。けんこー、ニブいし、ヘタレだし、いろいろ複雑なんだ」


「俺 綾菜のこと 好きだよ」


 ……数秒、空気が固まった。


 綾菜は目を細めて、呆れた顔をした。

「風早くん憑依させないで。けんこー、今、そういうのいいから」


「届かないねぇ……。そういえば、逆に林さんはどうなの? 借り人競争の最初の方で、男子に選ばれてたよね、あれは?」


「あれは……何でもありませんよ」

 そう言いながら、林さんは目線を逸らす。


「何でもないはないじゃん。お題は何だったの?」


「それは……『才能のある人』です」


「やっぱり林さんの絵の才能ってクラスで有名なんだ」


「最近は人物デッサンとかキャラデザとかいろいろノートに描いてるからね〜。奥田くん『すげー』って大声で褒めてたもんね」


 サンキュー、綾菜。奥田くんか。


「……奥田くんは野球部ですし、絵を褒めてもらった以外に接点があるわけでもありませんから」


「じゃあ接点作ればいいじゃん。……デッサンさせてくださいとかさ」


「マキくん、他人の恋愛には積極的ですね」


「えっ。恋愛って認めちゃうんだ」と綾菜がイジる。


 林さんが真っ赤になる。

「やっ、やめてください。今のは言い間違いです。……まあちょっと……いいなあとは思いましたけど」


「だったらデッサン頼もうよ! まず接点作ろう」


「迷惑ですよ、そんな。野球部は放課後は忙しいですし」


「じゃあ、見学。練習を見学してスケッチは?」


「それは……それなら、迷惑度は減りますし、野球の動きのスケッチは勉強になると思いますが……」


「よし、じゃあ早く食べ終わってそっちのクラスに行こう。ちょうど良かった」


「けんこー、『綾菜は俺のものだ』は要らないから。普通にしてて。ガチで」


 目が全く笑ってない。これ本当にガチのやつだ。


「了解」


 それからは、事務的に機材についての話をしつつ、早めに食を進めた。


   ◇ ◇ ◇


「マキくん! 久しぶり」


 三人で綾菜たちのクラスに入ったら、綾菜より少し背の高いショートの女子が話しかけてきた。綾菜の親友、早瀬川菜月だ。中2のときに同じクラスだったので、互いに面識がある。


「どうも、久しぶり。いつも綾菜がお世話になっておりまして。奥田くんってどの人?」


「あ、あっちの短髪の……」

 と、早瀬川さんは教室の後ろの入口近くの席に集まって談笑している男の1人を指した。


「ありがとう。林さん、行こう」


「ちょっと、マキくん……」

 林さんの顔には、まだためらいが見える。


 綾菜は……後ろの方でニヤニヤしている。俺に責任をなすりつける気だ。ま、いいけど。こういうときの俺は一切躊躇しない。


「奥田くん、奥田くんは誰? ちょっと用事があって」

 俺はグループの中の奥田くんっぽい人に向かって話しつつ歩いた。


「あ、俺っす」


 奥田くんが手を上げた。へ〜、サイドが短いオシャレな短髪に日焼けした、いかにも爽やかなスポーツイケメンって感じ。片方だけ出た八重歯がアンバランスな幼さを演出している。


「どうも、真城健康です」


 俺が手を出すと、ちゃんと強い力で握手してくれた。


「どうも。奥田丈太郎です」


 丈太郎。『だが断る』って言われないかな。あれは別のキャラか。


「実は、俺と、白駒さんと、林さんの3人で漫画制作のプロジェクトやっててさ」


「あ、林さん、めっちゃ絵上手いっすよね。白駒さんの絵は見たことないっすけど」


「林さん、上手いよね。それで林さんが人物画を練習したいって言ってて、そのモデルとか、放課後の野球の練習のスケッチとか、させてほしいんだけど、どう? 奥田くんは林さんの絵の良さ理解してるから、頼みやすいかなと思って」


「待って、待って、マキくん。練習のスケッチだけでいいですから。モデルとかそんなつもりは」


 林さんが割って入る。林さん、これはドア・イン・ザ・フェイスというテクニックだよ。わざとハードルを上げた要求を出して、ハードルが低い方の要求を通しやすくしているんだ。


「スケッチだけだそうだけど、どう?」


「大丈夫っすよ。あ、でも場所に気をつけないと怪我をするかもしれないっすね。……どこがいいかな」


「ごめんけど、林さんと一緒にいい場所探してくれる? 俺は原作で白駒さんは背景だし、別作業があるから。今日の放課後から大丈夫そう?」


「はい、大丈夫っす」


「マキくん、ゴーインすぎ……。奥田くん、すみません」


「いいっす、いいっす。女子に見てもらった方が嬉しくてパフォーマンスが上がるっす」


 林さんが赤くなって固まった。


「じゃ、放課後、林さんのエスコートよろしく奥田くん」


「了解っす」


 これで帰ってもいいのだが、早瀬川さんとはもう少し話しておこうか。俺は早瀬川さんの方に戻った。綾菜と何か話していた。


「早瀬川さん、さっきはどうも。あのさ、綾菜のことなんだけどさ……」 


 綾菜が大きく首を振っている。


「あ、綾菜のことね……」


 早瀬川さんは目をキョロキョロさせて明らかに何かを警戒している。


「……よろしくね、いろいろと」


「あ、もちろん、もちろん。……俺、帰るわ綾菜。じゃ」

 とにかく俺は普通に振る舞って、クラスを出た。


 誰が女子のボスかわからなかったな。でも綾菜の雰囲気でヤバそうなのだけはわかる。


 あと、林さんには強引すぎたお詫びに、あとで日傘をプレゼントしよう。スケッチを続けさせる圧にもなるだろう。


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