【1年 6月-3】溶けちゃうよ
お互いの誕生日プレゼントを買った帰り道。
綾菜はまだウキウキしているが、再び告白が失敗に終わった俺は、内心死にかけていた。
駅から家に帰る途中でアイスクリーム屋を見つけ、綾菜に促されてそこに寄った。さっきは温かいものを飲んだので、次は冷たいものが食べたいらしい。
「けんこー、何が好き?」
「え……? 雨降ってるし、俺はアイスラテ飲んだから、正直今は……。まあ食べるとしたらさっぱり系?」
「ノリ悪っ!」
女性の店員がすごくニコニコしている。
……そっか。店員から見たら、俺たちは若いペアルックのカップルだ。
「じゃあ、チョコミント、ふたりで分けよう。レギュラー、シングル、コーンのチョコミントで」
「ありがとうございます。支払いは?」
「電子マネーで」と俺は応えた。
ちなみに、このアイスどころか、俺へのプレゼント以外は交通費まで全額、俺の支払いである。弁当作ってもらってるし、「俺が払う」と宣言してるからいいんだけど……告白を断られてこれは、少しだけ不安になる。
◇ ◇ ◇
綾菜が歩きながらチョコミントアイスを舐めている。文字通り舐めている。齧らない。歯が冷えるのが嫌なのだそうだ。ベロンベロン舐めている。
「舌、グロくなってる?」
綾菜が舌を見せてくる。
「ゾンビやん」
ゾンビがまたアイスを舐め始める。
それ半分、俺が食べるんだけどな。流石にマナーが悪くないか。
長年の付き合いでわかるが、これは変態趣味的なやつではない。シンプルに歯が冷えるのが嫌で、それによって起こる俺への被害を気にしていないのである。
要するに、今いちばん舐められているのは、俺なのだ。
「はい、じゃあ、あとはけんこーの分」
俺は右手に傘、左手にプレゼントの袋を2つ持っていて、手が塞がっている。
「荷物持ってくれる?」
「食べさせてあげる♡ あーん」
綾菜がアイスを街頭インタビューのマイクのように俺に向けた。
普通の『あーん』ならただのイチャイチャだ。しかし、歩きながらのアイスは口がグチャグチャになる危険性が高い。
……おっと危ない。
手の動きが早いって。
おい、的を定めてくれ。
今、上に動かしたのはわざとだよな?
そっちから来るな。こっちからいくから。
うん。やはり鼻が被害にあった。
「あのー。普通に食べたいです」
「こっちの方が面白いじゃん」
こっちの方が面白いじゃん。なんて素敵な魔法の言葉なんだろう。こう言えば大体の無理が通る気がする。
このままだと一生まともに食えない。戦略を考えよう。
一旦、俺から食べにいくのをやめて、しばし待つ。
綾菜の腕が疲れて、少し気が緩んだ頃に——。
くそ、こやつ、今の隙はフェイントだったか。
……顎をやられた。
ニヤニヤしつつ、綾菜は言った。
「そろそろ飽きたから、荷物持つよ」
疲れたわけじゃないんだ。飽きたのね。
そうしてようやく、綾菜とアイスと荷物を交換して、普通にアイスを食べられるようになった。顔を拭きたいところだが、とりあえず後回しにして、汁っぽくなってきたアイスを完食した。
そうしたらすぐにまた荷物を持たされ、顔を拭く機会のないまま、俺の家に着いた。
ふたりとも玄関に入って、ひと息ついた。
「綾菜、ちょっと家で遊んでく?」
「うーん。今日はもう帰ろうかな。ちょっと歩き疲れた」
綾菜は自分の傘を傘立てから取り出した。
「それじゃ、えーと、こっちが綾菜の分。綾菜、誕生日おめでとう」
綾菜はプレゼントの袋を受け取りながら笑った。……不自然に。
「けんこー、改めて誕生日おめでとう。ぷぷぷ」
玄関の姿見を見たら、世界アイス食べ下手選手権の地区優勝くらいは狙えそうな顔の俺がいた。
「……綾菜のせいじゃん」
「ごめんって。拭いてあげる」
綾菜がショルダーバッグからポケットティッシュを取り出した。
「しゃがんで。……ちょっと、動かないで」
ふきふき。
ふきふき。
目が合った。
……ちゅっ。
「何が好きか聞かれたらなんて答えればいいか、ちゃんと勉強しといてね。じゃ!」
綾菜は風のように早く去っていった。
やられた。イケメンムーブ。
何が好きかって、それは時と場合に……。あ! あの歌か。
それでチョコミント。




