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俺が宝くじで10億円当選してから、幼馴染の様子がおかしい  作者: 沢尻夏芽
1年生

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【1年 6月-2】君に全然届かない

 俺の誕生日は5月25日で、綾菜は6月4日。

 小さい頃は、普通に誕生日プレゼントを贈り合っていたのだが、そのうち、互いに本当に欲しいものをもらわないと損だという共通認識が自然と発生した。なので今は、基本的に互いに欲しいものを聞いて、買って、渡すという少々味気ないものだ。


 今回はお互いのプレゼントを買い合うデートをしようとなったのだが、6月の土日は月末の1日以外全て俺の出勤日で、その1日も期末テスト前の勉強用なので、デートは俺のシフトが入っていない平日の放課後にすることになった。


 その日は朝から雨が降っていた。家に帰って着替え、一応歯磨きもして、準備万端で家を出るときには、結構な土砂降りになっていた。


 玄関のドアを開けて外を見ていたら、綾菜が来た。


「どうする? やめとく?」


「逆に顔見知りに会わない可能性が高くなるからよくない?」


「確かに。てかその格好ウケる」


 俺は前回のデートで買った服をそのまま来ていた。グレーのパーカーとオリーブのカーゴパンツ。スニーカーはいつもの黒いやつ。


 一方、綾菜はグレーのパーカーと黒のスキニージーンズ。それに白のスニーカーと黒のショルダーバッグを合わせたモノトーンコーデってやつかな?


「俺、着替えたほうがいい?」


「顔見知りに会わないのに? いいじゃんペアルックで」


 綾菜は自分の傘を真城家の傘立てに入れた。


「傘はけんこーの使う。けんこーが持ってね」


 俺たちは相合傘で外に出た。行き先は、芸がないけど前回と同じショッピングモール。


 綾菜が腕を組んできた。


 ……胸が当たる。柔らかい。


 これやっぱり絶対『付き合ってない』のラインじゃないんだよな。

 俺はずっと前を見て平気なフリをした。


「綾菜、欲しいもの、結局何にした?」


「うーん。特にない。……嘘。実はあるけど、高い」


「何?」


「タブレットをペンタブ化してパソコンで使えるから、そのパソコンか、今のよりもっと大きい漫画用のタブレットがほしい。だからどっちにしろ何十万になる」


 うーん。腕組んで胸当ててきて何十万の商品が欲しいって言ってる女子高生がここにいるけど、大丈夫そ?


 ……でもまあ、先行投資ではあるよね。


「絵を描くの、そんなにハマってるんだ。ちなみにどっちの方がいい?」


「大きいタブレットの方がいいけど……。でも高いから、いいよ」


「プロジェクトを本格的に進めるならどっちにしろ必要じゃん。今のタブレットはサブにするか、林さんか柚梨にあげて、交換する形でもいいと思うけど。林さんのタブレットは古いけどまだ使えるって言ってて遠慮してたから、ちょうどいいかもね」


「うーん……。正直に言うと、大きいタブレット、欲しい。おねだりするの、ダメだとわかってるけど、それでも欲しい」


「貸与だよ。プレゼントじゃない。金額は気にしなくていいから、欲しいやつが何かあとでLINEで送ってよ。また林さんと相談してさ。あ、あと、綾菜が描いた絵の中で一番の自信作も送って。親にプレゼンして通す必要があるから」


「りょーかい。ありがと」

 

 綾菜が俺の肩に頭を当てて、腕をぎゅーっとしてきて胸もがっつり当たる。


 どうしよう。貢いじゃう人の気持ちがわかる。……綾菜が嬉しそうだと俺も嬉しいってことだよ、もちろん。


「綾菜、昔から絵は描いてたもんな。かわいいキャラクターとか描いてて、女子に大人気だったよな」


「それだけじゃなくて、少女漫画も描いてたよ。誰にも言ってなかったけど」


「そうなの? どんなやつ?」


「イケメンアイドルの幼馴染と女の子の話。ド定番。黒歴史だけどね」


「あー、俺が嫌いな、男が最初からモテるやつだ。勝手にキスしてきたり、『俺と付き合っちゃう?』みたいにさらっと告白してきたりするやつ?」


「ああいう調子に乗って強引なの、あたしも嫌だよ」


「じゃあどんなのが綾菜的にはいいイケメン?」


 綾菜はしぶきを飛ばす自分のつま先を見ながら、しばらくの間黙って考えた。


「モテるけど、一途でちょっと不器用……とか? でも、告白する勇気はちゃんとある。『風早くん』みたいな。『君に届け』読んだことあるよね?」


「俺と完全に属性が違うタイプの爽やかイケメンだよな……。あれになるべきなのか……」


「けんこーには無理っしょ」


 ざっくり斬るね。


「でも、キャラのいいところは吸収してね。——それよりさ、そろそろ何が欲しいか考えないと」


 それから俺たちは欲しいものを考えあったけど、なかなか案が出なかった。欲しいものをプレゼンして通れば買ってもらえるという真城家の仕組みとプレゼントの相性は最悪だ。


 モールでは、あてもなく歩いた。

 使って消えるものは避けたいし、服はもう買ったし、アクセサリーは無くすからNGだと綾菜が言う。本は? イマイチ。机に置くような小物系? 邪魔。


 ……決まらない。お互いにノープランのくせに妥協はしないからややこしい。それが許されるの、プロのミュージシャンのセッションぐらいじゃないか?


「ぬいぐるみは?」

 ふらっと入った雑貨屋にぬいぐるみコーナーがあったので、聞いてみた。


「けんこーは趣味じゃないじゃん、そういうの」


「綾菜の分だけ選べばいいよ」


「……」


 ん? 綾菜のリアクションが変だ。……あ!


「今日はペアルックだから、記念になるべくペアのものがいいよな。……あ! あのコップは?」

 俺は向こうの棚を指さした。


「割れたら嫌じゃん」


「……確かに。でも、もうちょっと見て回る? 小さいぬいぐるみを机に飾るのも、俺は悪くないと思えてきたけど」


 ——嘘である。俺は妥協を学んだのだ。


 ぶらぶらと店内を一周してぬいぐるみコーナーの前に戻ったとき、ふいに綾菜の足が止まった。

 

「これは?」


 ちょっと笑って冗談めいた感じで綾菜が指さしたのは、『I love you』の白文字が書かれた赤いハートを胸に抱いた、くまのぬいぐるみだ。手のひらを広げたぐらいのサイズで、白と茶色がある。


 片瀬くん、これ、サインだよね!


「いいじゃん。これにしよう」


「えぇ……。いや、これは……」


 あれ、違った?

 綾菜は照れていると言うより嫌がっている感じがする。自分で聞いておいてどういうこと?


「『love』の意味を変に考え過ぎじゃない? 俺は、たとえば綾菜が坊主頭になっても『I love you』だし、絶対にないけど綾菜が犯罪者になったとしても心のどこかでは『I love you』な感覚はあるよ。日本語にすると『情』って意味に近いのかな」


 早口で言い訳してしまった。風早くんにはなれなかった。口早くんだった。でも急に嫌そうにするんだもん。仕方なくない?


「……あたしが坊主頭の犯罪者になったら、けんこーはどうする?」


「反省して坊主なら、むしろプラス要素かもね。そっか、マイナスかけるマイナスってだからプラスなのか」


「義務教育やり直した方がいいよ、けんこー」


 俺たちは笑い合った。

 

「……じゃあ、けんこーの話は変だったけど、これにしよ。決定!」


 そうして白と茶色の2体を買って、ギフトラッピングしてもらった。


   ◇ ◇ ◇


 少し歩き疲れたので、前回行った本屋のカフェに寄った。雨なので人はまばらだ。俺はアイスラテ、綾菜はホットラテとストロベリー&チョコレートタルトを頼んで、席に着いた。


「寒い?」


「ううん。タルトにはそっちの方が合うかなって。温かい方が甘みが強くなるから」


「へー。俺、そんなこと考えて食べたことなかったわ。なるほど。タルト、前回は悩んで結局食べなかったんだっけ?」


「そうだよ。前回がもう結構昔に感じるね。——ねえ、けんこー」


「何?」


「……しつこいとはわかってるけどさ、バイト、もう辞めようよ。こういうデート、あたしはもっとしたいよ」

 綾菜は無意味にタルトをフォークでつついて、俺の方を見ずにそう言った。


 こういうデートって、どういうデートなんだろう。女子が求めるデートのイメージって、男女がイチャイチャして、キスとかもしちゃう感じなんだけど。少女漫画でそう学んだ。

 

 でもまさか、綾菜のイメージでは——高額タブレットのおねだりみたいなのも含めてデートなんじゃ……?


 いやいやいや。そうなったらもはや魔女じゃなくキャバ嬢だ。これもイメージだけど。


 ……ま、どんなデートであれ、綾菜がやりたいんならやるしかないか。


「バイトは、1学期で辞める」


 綾菜の顔がふっと明るくなった。

「え、素直」


「もともとそんなに長くやるつもりはなかったし、最近は時間取られすぎだとも思ってた。でも、働くのがこんなに大変なんだってわかったのはいい経験だった。休みたくても簡単に休めないし、それで1ヶ月これだけ働いて何万とか、頑張っても十何万。俺って本当に幸せ者なんだね」


「……そうだね。今、かわいい女の子とデートしてるしね」


「そのかわいい女の子と、ちゃんと付き合いたいんだけど」


 言ったったぞ!

 自然な流れで言ったったぞ!


「うーん……。まーだ、なんか違うなぁ」


「そうですか……」


 もうフラれ慣れたよ。


「元気出して。ひとくちあげる。あーん」


 モグモグ。 


「おいしい?」


「正直、味がしない」


 綾菜は、まるで絡まった紐を必死に自分でほどこうとする幼稚園児を見るような目を俺に向け、眉尻を下げて微笑んだ。

「まあ、頑張って」


 ……何を?

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