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俺が宝くじで10億円当選してから、幼馴染の様子がおかしい  作者: 沢尻夏芽
1年生

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【1年 5月-1】そっぽなんて向いてないで

『我々は多少の相違さえ除けば、大抵我々の欲するままに、いろいろ実相を塗り変えている』


 これは芥川龍之介の言葉である。


 例えばここ最近、バイトの入っていない放課後や勤務後に時間のある土日は、いつも綾菜といる。ここだけを切り取ると、綾菜と俺は仲がいいと言えなくもない。


 しかしバイトをする以前よりは一緒にいる時間が減った。つまり、俺たち基準では『仲が悪い』状態になっているとも言える。


 そこで、白駒綾菜は主張する。


「けんこーのバイト先、ブラックだよ。全然休日ないじゃん。あたしとも遊べないでしょ? もう辞めなよ」

 

 一方で、世間基準では『仲が良い』という見方をする俺は、こう主張する。


「学生なのに土日に働いてもらえないのは雇う側としてはきついよ。バイトなんてそんなもんだし、簡単に辞めるわけにはいかないよ」


 こうしてお互い実相を自分の欲するままに塗り替えるので、話は平行線で終わる。喧嘩とは呼べないものの、終わったら苦い空気になるので、その後のおもてなしタイムは必須である。


   ◇ ◇ ◇


 もちろん、いつも険悪な雰囲気なわけではない。


 綾菜と一緒にいる時間には俺は勉強を片手間にすることが多いのだが、最近の綾菜のハマりは空いた俺の左手を使った遊びである。


 一緒に勉強する合間に、俺の左の手のひらをテーブルの上に置いて指を広げ、指の間をペンでトントンつつくゲームはよくやられる。本来はペンじゃなくナイフを使う、『ナイフゲーム』と呼ばれているやつだ。


 最初はゆっくりめにペンを動かして、たまに鈍い痛みをくらっていた程度だったのが、そのうち慣れて、対エイリアン戦で活躍しそうなアンドロイド並みに早くなってきた。


 綾菜はノーリスクで楽しいのかもしれないが、こっちは心拍数上がりっぱなしだ。これ、吊り橋効果として使えるんじゃないだろうか? まさか綾菜、計算してやってないよな?  ……ま、そもそも相手の指を痛めても胸を痛めないぐらいの親密さが必要だから、実用性ないけど。

 

 そのほかに、指相撲とか指文字とかもやるけれど、綾菜の一番のハマりは『壁の向こうはなんだろなゲーム』だ。このゲームのために、腕を通す用の穴を空けた大きな段ボールが真城家の漫画部屋に場違いに保管されている。


 これ、俺は手を綺麗に洗ってから挑戦しないといけない。


 察しのいい人はもうおわかりだろう。


 食べ物を扱う場合は、そのあとスタッフ(俺)がおいしくいただきます。指についた分はちゃんと舐め取るという徹底ぶり。


 クッキーやポテチなら全然いいよ。汁っぽいのが付いてるのが精神的に効く。ミートボールやキムチ、梅干しとか。プリンもあった。


 いや、それすらまだマシで、バターかマーガリンかなんてわかりようがないし、いただいたけど、さすがにおいしくはいただけなかった。


 一度、皿の中が少しぬるぬるしていただけだったことがある。タンパク質的な何かが混ざっている手触りだった。綾菜が「ヒントは透明で酵素が入っている」と言うものだから、俺は本気で唾液だと思った。


 卵白だった。


 少量を皿に移しただけだったので、残った部分で目玉焼きを作ってくれたけど、しばらくずっと鳥肌が続いていた。


 こう書いているとただの罰ゲームみたいだが、もうやめてくれ、と思う絶妙なタイミングで、『頭ナデナデ』とか、『ほっぺたスリスリ』を挟んでくる。『綾菜のパンツ(新品)』だったこともある。


 ……しかも黒ってさぁ。持ちながらちょっとニヤけてたら、綾菜に写真撮られそうになった。


 あと、一瞬だけ何かに触って中止になったことがあったけど、あれ、もしかして正解が『胸』だったんじゃないか?


 とか喜んでると、次に『納豆』とか『虫の死体』とか『綾菜パパの靴下(洗濯済み)』だったりするので気が抜けない。


『人生は一箱のマッチに似ている。重大に扱うのは馬鹿馬鹿しい。重大に扱わなければ危険である』


 と、芥川龍之介は言う。

 芥川先生、——いや、親しみを込めて『あくたん』と呼ぼう。スパチャしたくなる呼び方だ。


 あくたん。マッチ箱だけじゃなくて、『壁の向こうはなんだろな』ゲームも人生みたいです。今度からあれを人生ゲームと呼ぼう(違う)。

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