【1年 4月-21】眼鏡!眼鏡!眼鏡!
今回の『hump day』は、綾菜が俺のクラスに来て、漫画文芸部の3人と一緒に食べようということになった。
綾菜は、お昼にいつもいないホンダかホンマくんの席に座る。
いつもありがとう、ホンダかホンマくん。
席の並びは、こんな感じ。机を移動して向かい合った。
←窓側
吉森 本波
和井田 白駒
若色 真城
吉森くんは、身長が170cm弱くらいの中肉中背、髪型も普通、全てがザ・普通。少年漫画の普通系主人公という感じ。眼鏡。
和井田さんは、吉森くんよりちょっとだけ低い身長で細身のロングヘアー。眼鏡。
本波さんは、150cmぐらいかな? 少しぽっちゃりでマッシュルーム。眼鏡。
3人それぞれ挨拶が終わり、今度は綾菜の番。
「白駒綾菜です。白駒さんでも綾菜ちゃんでもいいよ〜。けんこーとは近所の幼馴染」
「付き合ってはないの?」と和井田さん。
弁当箱が色違いでおかずも同じだし、そりゃ言われるよね。どう説明しようかな。
「いや……その……。付き合いは長いんだけども、付き合いきれなくて」
「何それ。微妙な言い方だね。そのお弁当はどっちが作ったの?」と本波さん。
「白駒さ——」
綾菜が俺のことを名前で言ってたし、卵焼きを箸で刺す綾菜に少し空気のピリつきを感じるので、苗字呼びはやめておこう。
「綾菜。綾菜に作ってもらった」
「そう。手作りだよ。感謝してね」
「はい。いつもありがとうございます」と俺は頭を下げる。
「付き合っちゃえばいいのに」と、和井田さん。
「それはその、お互いの気持ちがどうかという問題がありまして……」
俺のしどろもどろな様子を、綾菜が生暖かい目で見ている。
「でも、白駒さんのことを『かわいい』と思ってるんでしょ?」と若色さん。
若色さんなりにパスを出してくれるのはありがたいけど、実は俺、既に告白してフラれているんだよ。
……いや、諦めたらそこで試合終了だ!
「うん。かわいいと思うよ」
みんなが盛り上がって騒ぎ出す。
「まとめると、白駒さんがマキくんにお弁当を作って来てて、マキくんは白駒さんのことをかわいいと思っているってことだよね? じゃあ、もう、どっちかが告白すれば——」
吉森くんがチラッと横目で若色さんを見る。
「あ、ごめん。そっか。そういう……。この話題は掘り下げない方がいいかも。ごめん、マキくん」
うーん、その吉森くんの勘違いを放置するのも後々面倒臭いことになるな。
「でも、綾菜が誰より一番かわいいと思ってるよ」
試合を終わらせてくれ。そろそろ耐えられない。
実際、周りは試合終了ぐらい盛り上がった。あまりの騒ぎで、一瞬クラス中の視線がこっちに向いた。綾菜だけ、俺から顔を背けて黒板の方を向いていた。
「ランチが食べたいです……」
俺は本気で懇願した。これ以上はガチで土下座をする覚悟だ。
「白駒さんの方はどうなの?」と、若色さんが綾菜の方を向く。
流石、俺が呂布に例えただけある女だ。平然として致命の一撃を放つ。ただそれ、俺に当たる可能性があるんだぞ。
「んー。どうかなー」
にこりと笑顔で躱す綾菜。呂布の一撃を受け流すとは、こやつはやはり人外の魔女。
「つまり、甘酸っぱい感じなんだね」
と、まとめる本波さん。ありがとう。
「いいなあ、そういう幼馴染」
「僕の幼馴染と大違いだ」
吉森くんが本波さんの方を見る。
「それはこっちのセリフ」
「お前の中身が男だからだろ」
「あんたこそ、男らしくないじゃん」
おっ、ラブコメみたいになってきた。これは掘り下げたい。
「あれ、そこも幼馴染? もしかして幼稚園も同じ? 俺たちがそうなんだけど」
「小学校からだけど、ずっと同じクラス。中学も」と吉森くん。
「それってかなりの確率だよね? もしかして運命じゃない?」
散々イジられたからな、こっちもやり返すぞ。
「いやいやいや、こんなダルマおん——ダルマ男と運命だなんてあり得ないよ」
「こんな根暗となんて、こっちが嫌だから」
ちょ、ちょっと待て。吉森くんの方、言い方エグくない? 女子に向かって『ダルマ男』なんて、イジりの範疇を超えてるよ。
みんな内心で同じことを考えていたのだろう、さっと場が冷えて、一瞬気まずい沈黙があった。
「こーんなにかわいい娘に、そんなこと言わないでよ」
綾菜が穏やかにフォローするが、吉森くんを見る目が笑っていない。
「……白駒さん、大丈夫。私自身、自分がかわいくないってわかってるから」
「そんなことない。本波さんはかわいいよ」
うーむ。散々かわいいと言われていた綾菜からこれを言うのはよくないかも。何を言われても響かないやつだ。どうフォローしようかな。
「本波さん。少しだけ昔話をするとね。俺は昔、すごくメンタルがズタボロになるようなことがあったんだよ。ガチで吐い——」
あ、ご飯食べてるんだった。
「えー……。廃人になりかけた。そのとき、綾菜に励まされて、その瞬間、俺は——『かわいい』じゃ合わないな……俺は綾菜を『美しい』と思った。だから俺の中の一番は綾菜なんだ」
「けんこー、恥ずいって」
綾菜が顔を両手で隠してモゴモゴ言っている。やーい、やーい。苦しめ魔女め。
「生まれ持った容姿が評価されるのは、それを見た他人の気分が良くなるからで、これも一種の『励まし』だと思う。つまり、『励まし力』があるものを、人は『かわいい』とか、『美しい』とか、『かっこいい』とかいう言葉で表現するんだ。そして『励まし力』は行動でも伸ばせる。むしろ行動の方が重要だと、俺は綾菜に気づかせてもらった」
「けんこー、一緒に帰ろう」
そう言ってくれたあのときの綾菜の姿が、また脳裏に蘇る。
魔女Aの事件のあと綾菜に救われて、俺は綾菜の姿に『偶像』を見た。それがなぜなのか俺なりに深く考え抜いて、ようやく辿り着いたのが、この俺の哲学だ。
「『自分はかわいくない』と言い切ってしまうと、誰も励まされない。だから『かわいくない』。アイドルだって、容姿を磨くのは大前提として、その上に歌やダンスや演技、何かしらのパフォーマンスで誰かの心が励まされるような『かわいい、かっこいい』を作っているからこそ、人気が出るんだと思う」
「ぶっちゃけ、ベースの顔が微妙なトップアイドルもいるよね」と綾菜。
「しー。だから、本波さんは『かわいい』。俺はそう言い切るし、自分でもそう言い切ってほしい。まずはそこからだと思う。あとね、ここだけの話、本波さん、俺の好みの顔の系統なんだよ。本波さんのそういうほっぺたの感じが俺の好み。ガチで。これ、綾菜には内緒ね」
「……聞こえてますよ。けんこー、むっつりほっぺたフェチだから困るんだよな」
と綾菜が無意識に頬を膨らませる。
若色さんが、そんな綾菜と本波さんのほっぺたをこっそり見比べている。やめてくれ。俺の内に秘めた、女子のほっぺたランクをつけたい衝動がうずいてしまう。
「あ、ほら、けんこーの目が泳いでる。狙われないよう気を付けてね」と綾菜。
「うん、私のほっぺた、『かわいい』から気をつける。ありがとう」と本波さんが笑った。
「さて。みんなご飯全然食べてないじゃん。早く食べよう。あと、話すならオタクっぽいこと話そう。漫画文芸部の名が泣いてるよ」
そう言って綾菜は箸を持ってパクパク食べ始めた。
◇ ◇ ◇
夜に一応、綾菜には謝罪をしておいた。
[ずっとあんな感じは嫌だけど、今回は本波さんのフォローだってわかってるからいいよ。それより吉森くんシメよう]
と、返事が来た。
魔女による狩りが始まります。




