【1年 4月-19】走るより他は無い
俺は激怒した。
必ず、かの邪智暴虐の魔女を除かなければならぬと決意した。
あの告白がよくなかったのは認める。だが、よく考えてみると、キスみたいな雰囲気にしてからの頭突きは疑う余地なくおかしい。
綾菜の本心がどうあれ、俺の心を弄んでいるし、その自覚もあるはずだ。
そういう意味では魔女と言える。
やろう。
魔女狩りを。
金目当て? 自己肯定感のため?
今までがそうだったとしても、それでいいじゃないか。
これからちゃんと惚れさせればいいのだ。
「お金なんて要らない」「どんなに惨めでも、あなたのそばがいいの」
そう言われるほどに、惚れさせればいいのだ。
とりあえず、バイトで一緒の時間が減るので、メッセージのやりとりを負担にならない程度に増やしてみることにした。
もちろん、ただ増やすのはウザいだけだ。そこで俺は漫画原作の能力を鍛えるために『素敵なセリフ、シチュエーション』を作って綾菜に点数をつけてもらうことにした。
ドキドキさせつつ、綾菜の好みについてリサーチする狙いだ。
◇ ◇ ◇
[君が辛いときは、迷惑だなんて思わずに俺に教えてほしい。君が辛いのが俺は何より辛いから]
[ありきたりだけど、まあいいんじゃない? 20点]
[綾菜も辛いときは教えてよ。アイスぐらいは買ってくるし]
[お腹冷えるから場合による。3点]
[欲しいもの聞いた方がいい?]
[そういうときって欲しいものがわからなかったりするから、新商品あるけど、どう? みたいな聞き方がいい]
[了解]
◇ ◇ ◇
[君を赤く包む夕日を見て嫉妬した。君をほんの僅かでも僕色に染めることは、きっと叶わないのだと知っていたから]
[片想い? 切ないから7点]
[自分を強く持っている女性についての話のイメージ。あなたはひとりで生きていけるから、僕は要らないんだろう、という感じ]
[けんこーも染まらないタイプだよね]
[うーん。自分で納得したら染められにいくタイプかもね。勝手に染められそうになったら避ける]
[自我が強いよね]
[仕方ないやん。綾菜もそうだろ。ちなみに、綾菜は朝日と夕日どっちが好き?]
[朝日かな。夕日って寂しいよね]
[わかるわ。その日が楽しかったら特に寂しく感じる。ニンニクラーメンを思い出す]
[あれはバカなことしたね]
[そういえば、あのとき綾菜に、明日死ぬとしたら何するか聞き忘れたの思い出した]
[絶対教えない]
[催眠術の勉強しようかな]
◇ ◇ ◇
[この感情を、愛だの恋だのとは呼びたくない。でも、何と呼べばいいかわからない。だから僕はこの感情に白紙の付箋をつけて、死ぬ間際にそこに書き込みたいんだ。それまで僕のそばにいてくれないか]
[これはプロポーズ? クサい。5点]
[普通に『結婚してください』の方が高得点?]
[あたしはそう]
[わかった。メモしとく。←何点?]
[点数聞いたから0点]
◇ ◇ ◇
[そのレバーとこの唐揚げ、交換しない? 俺レバー好きなんだよね(実は嫌いだけど好きな人のために交換してる)]
[どういうシチュエーション? 使えなさそうなので3点]
[ちなみに、綾菜はレバー嫌いだよね?]
[苦手だけど、体のために食べるようにはしてる]
[ええやん。じゃあ弁当に入れていい?]
[いいけど、最近けんこーお弁当作ってないんでしょ?]
[バイト辞めたらちゃんと作るよ。さすがに今は勘弁して。綾菜の好き嫌いリスト書いてほしいんだけど]
[めんどいから、こっちが作るメニューから察して]
[それだと新しい料理ができないじゃん。昼飯のときにでも聞いてリスト作るよ]
◇ ◇ ◇
[夢に君が出てきて、君が好きなのだと自覚しました]
[シンプルでいいね。25点]
[平安時代だと、逆に夢に出てくる人が自分のことを想っていると考えられていたらしいよ]
[ふーん]
[興味ない感じ?]
[夢、見ないもん]
[怖い夢を見ないからいいことなのか、幸せな夢を見れないからさみしいことなのか……]
[夢が幸せでも意味ないよ]
[げ、現実を幸せにしていこうぜ!]
[けんこーは夢をよく見る?]
[綾菜の夢はよく見るよ。やっぱり幼馴染だから。あやちゃんって言って遊んでた頃の夢が多い]
[懐かし。こーくん。けんくんは別にいたからこーくんだったね。いつの間にか言わなくなっちゃった]
[綾菜がやめたんだよ。小5で同じクラスになったときに。あやちゃん呼びに戻そうか?]
[そうだっけ。あやちゃん呼びは恥ずいから嫌]
◇ ◇ ◇
うーん。我ながら、空回ってて余裕ない感じだ。だってネットのテクニックとか読んでもわかんないんだもん。
連絡頻度もよくわからない。高過ぎてもキモいし、低過ぎてもダメだろうし。でも、綾菜はウザいときはウザいってちゃんと言ってくれるので助かる。
とにかく今は全力疾走で、綾菜について、もっといろいろ知っていこう。
走れ、俺。魔女の奸佞邪智を打ち破り、メロメロにしてやるのだ。




