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俺が宝くじで10億円当選してから、幼馴染の様子がおかしい  作者: 沢尻夏芽
はじまり

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2/7

【入学前】きっとこれがプロローグ

 高校入学前の春休み。

 俺は、真城まき 健康けんこうという名前に似合わない、インドアで不健康な生活を送っていた。


 今やっているのは、RPGの金稼ぎ。

 レベルは十分高いのに、綾菜が序盤でカジノにハマって持ち金を全部溶かしたせいで、再挑戦のための費用を稼がされる羽目になっている。


 白駒しらこま 綾菜あやな

 俺の同学年の近所の幼馴染。

 リビングのソファーに仰向けで横になり、俺に足を向けて漫画を読んでいる。


 俺は蹴られてどんどん右隅へ追いやられ、悲しいかな、ソファーの俺のスペースは、付箋に例えるなら、もはや『のりしろ』程度。


「まだなの?」


 また綾菜が俺を蹴る。

 さっきはかかとを上げて股間を狙われ、「早くしないと……わかってるよね?」と言われた。

 でもこのエリア、敵1匹倒して数十Gだよ。

 先にストーリーを進めた方がいいんじゃないかい?


 俺の『精』殺与奪の権を握る彼女は、着古したグレーのスウェット姿に、高校デビューで染めた長い金髪、ピアスこそしていないが、一見するといわゆるヤンキーである。


 しかも口の端に、さっきおやつに食べたミートボールのソースがついたままだ。


 ——というかもう、ティッシュ渡すわ。はい、どうぞ。なんで気付かないの?


「拭いて♡」


 むむ……。

 まあ、こうやって甘えられると、かわいいっちゃかわいいので、ついつい世話をしてしまう。


 ふきふき。


 目を閉じてそんなに顔を近づけないでよ、まったく。

 まつ毛長いな。いい匂いもするし。


「……はい、とれたよ」


「ありがと♡ お金稼ぎは『もうええでしょう』かな」

 綾菜にコントローラーを奪われた。


 ついでに、綾菜の読み終わった漫画も『もうええでしょう』と片付けさせられた。

 最後に、俺自身も『もうええでしょう』と用済み宣言された。


 ——アナ、ボクをぎゅーって抱きしめて!



 とはいえ、解放されて楽になった。

 今日は、先日入学説明会で買った高校の教科書に、目を通しておきたかったのだ。


 2階の俺の部屋に行って、ボストンバッグを開ける。

 新品の本、本、本。

 そのとき、ふと、何かを忘れている感覚がした。


 本……? 新品……? 新品……。


 あっ!


 真城家では、お年玉として、お金に加えて年末の宝くじを子どもに渡す謎の習慣がある。

 両親曰く「子どもが運をあてにしないようにするため」とのこと。


 しかしそのせいで、2歳下の妹の柚梨ゆずりとそれぞれ連番10枚3000円分、合計6000円が、毎年ほぼドブに捨てられている。


 いつも当たらないので、今年はすっかりその存在を忘れていた。確かまだ机の引き出しにあったはず。……あった。

 

 ——いいことを思いついた。


 俺は未開封の宝くじを手に、急いで1階に戻った。


「綾菜ぁ、お年玉の宝くじ、まだ開けてなかったから、これで勝負しようぜ。何か当たったら俺の勝ちで、外れたら綾菜の勝ち。負けた方が罰ゲーム」


「馬鹿じゃん、いつも当たってないのに。歩いてる犬が棒に当たるの見たことある? いいよ」


 ——馬鹿はどっちかな?


 俺たちはスマホで当選番号を調べた。


「よし! 当たってる! やった!」

 俺は大げさに喜んだ。


「え、当たったの? ほんと? いくら?」

 綾菜もつられて、罰ゲームを忘れて目を輝かせて喜ぶ。


「7等下1桁、6。当ったり!」


「下1桁……」

 綾菜の目からふっと光が消えた。

「それ、必ず当たるやつじゃん。300円じゃん。もしかして、ハメようとした?」

 

「当たりは当たりだろ。お菓子を買えば1日分の幸せを得られる金額だぞ。文句言うな。さて、罰ゲーム、何してもらおうかな〜?」


「……ふぅん。じゃあ、あたしもけんこーに『落としダマ』あげちゃおっかな~」


 綾菜が両手の爪を立てて顔の前に出し、ニヤリと笑う。SNSでよく見る『がおー』のポーズだ。

 いわゆる萌えポーズの一種だが、これはそんなタマではない。『タマを握って落とすよ』という脅迫であり、手加減を知らない小学校の頃は実際に被害にあった。


 ……あとでチョコパイくれたけどね。

 そういう事後処理がうまいんだ、綾菜は。


 すね毛のガムテープ脱毛をさせられたときも、「身だしなみは大事だよ」なんて言いながら、あとで保湿クリームをたっぷり塗ってくれたっけ。



「……じゃあ6等以上の当たりにするけど、俺の方が不利だから、罰ゲームは軽いのな」


「いいけど、当たったら何かおごって♡」


「じゃあ、1日分の幸せだけな」


「300円じゃん! ま、いいけど。……じゃあ番号言うよ」


 綾菜に6等から順に当選番号を言ってもらって、俺が宝くじの方の番号を確認していく。

 お正月はこうして、綾菜と当選を確認するのが恒例なので、手慣れたものだ。

 連番を買っているので、ハズレがすぐにわかってしまうのが寂しい。


「次、1等。108組」


「お。108組だ」


「番号は——」



 3回、読み上げてもらった。


 喉の奥から裏返った声が漏れ、静まり返ったリビングに響いた。


「けんこー、そんな演技要らないから」


 呆れている綾菜の持つスマホを、強引に覗き込む。


 ——現実か?


 宝くじを持つ指先の感覚が、遠のいていく。

 

 跳ねるような心臓の鼓動が、耳の奥で鳴り続ける。




 1等とその前後賞。

 計10億円が当たっていた。

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