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俺が宝くじで10億円当選してから、幼馴染の様子がおかしい  作者: 沢尻夏芽
1年生

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【1年 4月-8】幸せな不幸せ

 翌朝。

 昨夜、綾菜とどこの店に行くかを検討した結果、最寄り駅からひと駅先のショッピングモールに行くことになった。


 そこで服を見て昼食も食べ、午後は買い物の状況次第で臨機応変に行動する予定。


 休日なのに早起きなので、そこそこ眠たそうな綾菜が来ると思っていた。


「おはよっ! けんこー、ちゃんと眠れた?」


 ……ボス戦クリア直後ぐらいの機嫌の良さだった。


 今日の綾菜は、いつもと雰囲気が違う。


 アイヴォリーのVネックニットに白のフレアスカート、ブラウンのパンプス、コーラルピンクのショルダーバッグ。主張し過ぎない薄ピンクのネイルをして、濃くない程度の化粧もしている。

 

 綾菜のタイプ的に、もっとゴリゴリのギャル系で来ると思ったから、意外だった。


「おはよう。行くか」

 正直、俺のテンションは高くない。直前に飲んだコーヒーもまだ効いていない。心の中で頬を叩いて気合を入れて、玄関を出る。


「あれれ? 眠れたか聞いたんだけどな。そのスルーは……興奮して眠れなかったってことかな? ん? ……手、繋ごっか」


 初手からぶっ込むね。手を繋ぐの、何年ぶりかな。しかも、握手的な感じで右手を出したら、がっつり恋人繋ぎにされた。

 ……温かい。


「へへへ」

 嬉しそうではある。だが、『こいつ全部こっちの思い通りに動くやん、チョロいわ』的な嬉しさに見えなくもない。


 朝にシャワーを浴びてきたのだろう、シャンプーの香りが強い。ローズ系の香りだ。風に揺れる髪の間から、小さくて白い花のイヤリングが見えた。


「今思ったらさ、うちら、オセロみたいなんだけど。けんこー、着てるの黒ばっかり」


 よく見ると、俺の服装は、黒シャツと黒ジーンズに黒のショルダーバッグ、スニーカーはかろうじて靴紐とソールが白だけど、他は黒。


「黒は300色あんねん。インナーは白Tだし」


「インナーまで黒だったら着替えさせてるよ。闇背負い過ぎでしょ。でも白Tだから悪くないよ。欲を言えば差し色あるといいけどね」


「綾菜の場合は、そのバッグが差し色?」


「そう。今日のあたし、どう?」


「あ、えー、『かわいくて』、えー、えー……『胸が高鳴った』」


「文学かよ」


 いつもより口角が上がった綾菜の横顔を見て、少し胸が高鳴っているのは本当なんだけどな。


「学校、楽しくなった?」


「……正直、まだ微妙。最近、特に思うのは、授業のスピードが遅いなって。教科書を読んでわからないところをネットで調べた方が早いし、そう感じているのがずっとストレスかな」


「うちの高校、そんなに偏差値高くないからね。内職する人とかもいるし。逆にあたしはついていけないパターンかもだけど。でも、誰でもそういう授業のストレスってあるもんじゃない?」


「そうなんだけどさ。ちょっとしんどい。いつも暇つぶししてる。昔は教科書の文とか英訳してたけど、今は脳内でショートストーリーとか作ってる」


「そういえば、けんこーのノート、どの科目も英語でぐちゃぐちゃだったね。日本語を駆逐したいのかと思ったよ。ショートストーリーってどんなの作るの?」


「厨二だけど、異世界ものとか。アホみたいな設定ほどノリノリになる」


 前方に見えるオレンジのカーブミラーも、俺の脳内では、地下帝国が作った地上監視プローブだ。


 ……北西の方角に、手を繋いで歩く十代の男女を発見。女がじりじりと男を車道側に押していっているのは、密かな殺人——あるいは心中を意図しているのでしょうか。

 ……違うな、あれは男がヘタレでパーソナルスペースを広く取ろうと車道側に逃げているだけだ。真似するなよ。


「……どした? 黙っちゃって」


「何でもない。……あ、そうだ、この前は珍しく恋愛ものも考えた。興味ある?」


「あるある。けんこーの作るラブストーリーなんて、想像できないなぁ」


「まずは女側の視点で話が進むんだけど、男の熱烈なアプローチで付き合って、そのうち、女の方が気持ちが強いんじゃないかってくらいの関係になる。そんなとき、ふと女が気づく。自分といても、男の心は別の何かに囚われていて、それが男を苦しめているって」


「浮気?」


「女もそう疑うけど、男に全然そういう気配はない。スマホのやりとりを全部見せてくれるし、空いている予定も女とシェアしてくれて、女を最優先にしてくれる。男の行動からも愛されているとは感じるんだけど、でも男はなぜかつらそうなんだよ。女は耐えられなくなって、男に聞くけど、男は『何でもないよ』って教えてくれない。なので喧嘩が増えていく」


「何だろう。実は血が繋がっているとか? 借金とか。それとも病気?」


 俺は首を横に振る。


「許婚がいる。実は性別が男じゃなくて女……は難しいか。あっ、犯罪歴がある」


 答えるたびに、綾菜が繋いだ手をブンブン振ってくる。恋人繋ぎではなかったけれど、小学生の頃も、よくこんな感じで、繋いだ手を気ままに動かされてたっけ。


「ハズレ。多分、当たらないと思うよ」


「そう言われると当てたくなる」


「ごめん、実はこれファンタジーなんだ。だから何でもあり」


「それズルじゃん。真剣に考えて損した。あとで罰ゲームね」


「勝負してなかったじゃん。……まあいいや、軽いのな」


 長年の綾菜との付き合いから察する。この雰囲気で要求する綾菜の罰ゲームは、俺に大して負担のないものだ。背中掻いて、とかさ。


「話を戻すと、頻度の増える喧嘩に耐えられなくなった女が、『秘密を言わないなら別れる』と男に迫る。で、男はようやく白状する。『僕は僕以外の人間の寿命が見える』」


「……あー。女の人の寿命が……」


「そう。ここで男の過去に視点変更。残りの寿命が少ない女を好きになった男は、まず自分がどうしたいか悩む。仮に女と付き合えたとしても、つらい未来しかないわけだから。でも結局、男は覚悟して告白して、女と付き合った。……あ、ちなみに、寿命は絶対に変えられない設定ね」


「ということは、ハッピーエンドにはならないのかぁ」

 残念がる綾菜の手の握りが、少しだけ緩くなった。


「どういう結末がいいか、まだ迷ってる」


「えー。まだ結末ないの? 作者休載が一番のバッドエンドだよ」


「だって、最善の結末がわからなくない? 誰がいつ死ぬかなんて、本来誰も知らないわけで、知っているだけ幸せと言えるかもしれない。後悔のないように行動できるわけだし。俺も、あと1年しか生きられないなら、高校に進学してないと思う」


 綾菜は空いている右手でショルダーバッグの紐をぎゅっと握りしめ、唇を噛んで、無言になってしまった。


「もしもの話だよ。もしも。綾菜のいないところに行きたいって話でもないし」


「……もう。話が暗いよ、けんこー。もっと面白い話をしよう。さっきの罰ゲーム何にするか、考えよっか♡」


 この話題、最終的に『足つぼマッサージは罰ゲームか否か』という話になり盛り上がったが……これって、面白い話か?

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