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ミステリオタクですが異世界転移しちゃいまして  作者: 阿久井浮衛


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episode 4

「……えっ? 討伐対象のドラゴンってあれっすか? デカすぎません?」


 時刻は正午前頃,メリディエースの北部都市リューベックへと続く街道。崖の上から件のドラゴンを見下ろしていたナロゥは,目陰を崩すと呆れたように呟く。


 声にこそ出さなかったが,内心俺も驚いていた。今までに何度もドラゴンを狩ったことはあるが,ナロゥの言うようにこれまで見たことのあるどの個体よりも大きい。一般的に,ドラゴンは体の大きさに筋力・持久力・魔力が比例する。しかもこのドラゴンの皮膚の色は黒,つまり全属性の魔法を使ってくるということ。ランクや報酬の高さに驚いたが,こうして討伐対象を実際に目にすると妥当な設定に思えた。


「場当たり的には狩れないだろう。長期戦を睨んで作戦練った方が良いな」


 カクョムはドラゴンを見据え興味深そうに顎髭を撫でる。俺よりも1年早く転移した彼はこれより大きな個体を見たことがあるのか,その表情には余裕が浮かぶ。俺は再びドラゴン周辺に目を走らせた。


「……地形を活かそう。この辺りは谷間に挟まれた森林を切り開いて街道を通している。今ドラゴンがいるのは街道の中央,前後で挟めば気を逸らせられるだろうが,上に飛ばれると厄介だ。だから上空から広域攻撃を加え逃げ場を潰す。役割は前後からのメインの攻撃役2人と,上空から飛翔を妨害するサポート役に分ける。機動力のあるナロゥが先ず陽動から先陣を切ってくれ。カクョムは予め上空に待機,ドラゴンが飛翔する様子を見せたら広域攻撃でそれを妨害,適宜俺達のサポートも頼む。俺はドラゴン後方から奇襲をかけ火力の高い攻撃魔法をMP消費ガン無視で叩き込む。どの魔法を使うかの判断は各人に任せる。また意思疎通をスムーズに図るため,いつものように『以心伝心(モイライ)』は今の時点で発動しておくこと」

「チィトの魔法に巻き込まれないよう,精々気を付けるこった」


 ナロゥに軽口を叩くと,カクョムは「タラリア」と唱えドラゴンの頭上へ素早く滑空する。からかわれたナロゥは「駆け出しじゃないんだから」とぶつくさ文句を呟きながら崖を駆け下り,森の中へ突入する。俺はすぐには動かず,ナロゥが迂回しドラゴンの正面から攻撃を始めるタイミングを待つ。


 やがてドラゴンの前方,220ydほどに飛び出すナロゥの姿が見えた。ドラゴンも気付いたらしく,それまで伏せていた頭を擡げる。ナロゥはくるりと反転し,背走しながら元の世界で言う拳銃のハンドジェスチャーのような右手をドラゴンに向ける。良く見るとその人差し指には釘のようなものが銃身のように添えられている。


「ピルム」


 ナロゥが唱えた途端,発射された釘のようなものはたちまち巨大な槍に姿を変え猛スピードでドラゴンへ直進する。そのまま左腕付け根付近に突き刺さり,赤い血が噴出した。しかしこのクラスの個体にはかすり傷程度だろう。案の定咆哮を上げナロゥを猛追し始めるドラゴンを確認し,俺は崖から飛び降りる。


 高さはざっと250ydくらいか。可能な限り落下音を立てないよう受け身を取るも,強化された聴覚から判断する限りドラゴンは挑発を繰り返すナロゥに大層ご立腹のようだ。この様子なら感覚強化系の魔法を態々使って警戒する必要もないし,近接距離からの攻撃も可能かもしれない。


「ケイローン」


 身体強化魔法を発動させ,俺はナロゥとドラゴンの後を追った。ドラゴンとの距離がざっと100ydを切った辺りで十字を切る。


原始(イグニス・)の灯(プロメテーイ)


 ボッと拳大の炎が切った十字の交点で生まれ,凄まじい速度でドラゴンへ突き進む。そしてドラゴンへ届くかどうかといったところで炎が立ち消える。そうかと思った次の瞬間ゴオッとドラゴンの全身が炎で包まれた。「ゴオオォォォォォ」と地響きのような咆哮が大地を揺らす。


「チャンスっすね!」

「あっ,バカヤロウ!!」


 好機と見てドラゴンへ突っ込むナロゥに思わず悪態をつく。防御魔法を展開しようにも距離が離れ過ぎている。ドラゴンの口腔内には貯えられた火球が垣間見れる。ナロゥのランクなら最悪ノーガードでも死にはしないだろうが……迂闊な奴め。


 舌打ちし「アイギス」と唱え自身の防御に専念する。次の瞬間,貯えられた火球が弾け業火の波が一帯を飲み込む。


「……っ!!!」


 攻撃を予見し最高峰の防御魔法をかけているというのに,押し寄せる炎の波の勢いに気圧される。耐火強度上限は超えていないはずなのに,ちりちりと肌が焼ける錯覚を覚えた。少しでも気を緩めれば,体を内側から焼かれる確信を抱く。最早ナロゥの無事を鑑みる余裕すらない。


水の踊り子(ナーイアス)


 不意に耳元でカクョムの声が聞こえたかと思うと,突如空から女性の姿を象ったかのような水流が迸る。水流はドラゴンが放った炎を覆うように広がると,人の姿を崩し広がろうとする火の手の勢いを一度に止めた。


「おいおい,山火事になったら下手すりゃ賠償に報酬全額持っていかれるぞ。炎系の魔法使わせんな」


 この状況でも余裕があるようだ,軽口を叩くカクョムの声はまるで酒の席のように砕けている。ドラゴンも,自身を狩ろうとしている者が上空にもいると認識したらしい。再度咆哮を上げながら翼をはためかせる。羽ばたきから生まれる風圧に思わず舌打ちした。


「このドラゴン,火力はデカいがお(つむ)はそこまでの個体だな。水系の魔法を使った理由が,炎系の魔法を打ち消すためだけだとでも思ってるのかね?」


 けれど,カクョムは余裕のある口調を崩さず,右手を上空に向け左掌をドラゴンにかざす。


雷霆(トニトルス)


 カクョムの掌から雷が四方八方へ広がった。丁度飛び上がろうとしていたドラゴンはその電撃を食らい叩き落とされる。


「あーもうっ,奮発して買ったマントル燃えるし全身びしょびしょになるし,最悪っす」


 どうやら咄嗟に防御魔法を発動したらしい。ドラゴンの向こうに焼け焦げたマントルを投げ捨てるナロゥの姿が見える。ナロゥは半身になり,両手を前に突き出す姿勢を取る。


「アルクス・エト・サギッタエ・エローティ!」


 ナロゥが唱えた途端,突き出した手に光り輝く弓矢が握られた。ナロゥは右手を引き矢を放つ。矢は風を切る音を残しドラゴンの首元に突き刺さる。血飛沫と共にドラゴンは呻き声を上げた。


「マントル燃やした恨みはこんなものじゃねーからな!」


 ナロゥは続け様に矢を放ち追撃を重ねる。俺とカクョムも援護を続け,ドラゴンの気を散らしつつ確実に体力を削いでいく。


 ……そろそろ潮時か。


 大分ドラゴンの動きが鈍ってきた。止めの一撃を放とうとを十字に腕を交差し右手の人差し指をドラゴンに向けた時だ。


「あっ,お前――」

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