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ミステリオタクですが異世界転移しちゃいまして  作者: 阿久井浮衛
Prologue 勇者はN人もいらない

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33/34

episode 33

「結局聞かないまま依頼を引き受けちゃったんだけどさ,そもそもどうしてアイリーン達はオジサン達を殺したかったの? メアリさんは何か聞いてない?」


 ふと動機は何だったのか気になり何気なく尋ねたのだけれど,メアリさんは虚を衝かれたように目を見開いた。呆然と,珍しいものでも眺めるかのようにまじまじとボクの顔を覗き込む。


「な,何かな?」

「……君って,本当にそういう格好が好きなだけの男の子なんだね」

「どういうこと? 初対面の時にアイリーンから説明あったでしょ? それにステータス表示で性別分かるじゃん」

「勇者として転移した場合,ステータス表示で性別は制限がかかる情報だって例の神様が説明してたでしょ。髪が長く身長は170cmもなくて,色白で中性的な顔立ちと幼げな声に体のラインを隠す女性物の服装が揃えば誰だって初見では男の子と思わないわ。勇者のオジサン達全員君が女の子と勘違いしたままだったでしょうね」

「それがアイリーン達の動機と何の関係があるってのさ」


 コンプレックスを指摘され思わず苛立ちが口調に滲む。


 元々インドアだったこともあるが,闘病生活が長かったせいで転移前の1年間はろくに日の光を浴びることができなかった。当然体の線は細いし運動もできないから身長も伸びが遅い方だった。年齢は転移前から引き継いでいるけれど完全に伸びは止まってしまったらしい。一方寝たきりだったから髪は伸び放題だ。枝葉のようにやせ細った四肢に見慣れていると大分身体的には健康になったように思えるけれど,それでも同世代と比べるとまだまだ線が細い自覚はある。


 女性物の服装を好む理由は単純,こっちの世界の男性向けの服飾がダサいからだ。


 唇を尖らせるボクを意に介さずメアリは苦笑した。


「ゴメンゴメン,別に個人の嗜好に口出しするほど悪趣味じゃないから。……アイリーン達の言葉を借りると,勇者を全員殺害したかった理由は『正当防衛』だそうよ」

「正当防衛?」

「ここレヴァルを拠点にしていれば実感できないかもしれないけれど,はっきり言ってこのエストラント王国の人権意識は先史レベルよ。特に女性の権利に対する意識の低さには目も当てられないわ。そんな環境で奴隷制を禁じているレヴァルは奇跡的な先進都市だし,元の世界との価値観の乖離を感じた女性の転移者達がここを離れたがらないのも頷けるわね。問題は転移前の民主主義的価値観が形成されたこの都市で,専横派が性奴隷を所有しようと試みたことだった」

「あー……」


 何となく面白くなさそうな事情が見えてきて鼻白んだ。


 レヴァルは商人達による自治が認められ,首長と議会の有する権力が明確に分立している。権力が一極集中することを防ぎ自由貿易を許した体制は現代的価値観との親和性が高い。言ってしまえば転移者にとって最も住み心地の良い都市こそここレヴァルなのだ。


 しかし反面,一般的に異世界ファンタジーの主人公が享受する恩恵を期待した転移者は物足りなさを覚えるかもしれない。一夫多妻制は認められていない以上転移者がハーレムを構築することは事実上不可能だろう。多様なギフト所有者が混在する交易都市では勇者生来のハイスペックだけでは然程突出した存在とも言えない。


 端的に言ってしまえば「創意工夫することなく異世界ファンタジーの主人公のようにハーレムを築きたいのなら,現代社会に類する社会制度や価値観を全てを放棄しここから出て行け」という暗黙の了解が存在する。


 これまではその不文律に基づく住み分けが成立していたのだろう。アイリーン達のような女性の転移者達も,別に聖人君子を気取りたいわけではなかったのだ。実害が及ばなければ原住民相手に勇者達がハーレムを築こうが見ない振りをする腹積もりでいた。自分達に火の粉が降りかからなければ他都市の性奴隷も見過ごすつもりだったのに,一線を超えようと専横派が試みたといったところか。


「詳細は故人各位の名誉のため伏せるけれど,ハッキリ言って他人事ながら聞いているだけで連中に殺意が湧くレベルよ。被害者は()()()()()()()()()8名。全員レヴァルに滞在していた一般市民で専横派の各々が街中で気に入った被害者を順次拉致し,西側の廃墟エリアにそれぞれ監禁していたみたい。要はヤリ部屋ね」


 メアリは吐き捨てるように言うも物足りないらしく,傍から見ても明らかに歯噛みした。組んだ腕を掴む左手にも力がこもっている。あくまで今回の計画における彼女の役割は主体的な実行犯ではなくギフトを提供する共犯者だが,被害者やアイリーン達に対する同情と共感が協力した大きな理由なのかもしれない。


「専横派の連中は彼女達をレイプしながら自分達の性奴隷になることを強要した。当然魔法で死なない程度に痛めつけながらね。一方先進的な価値観に触れた彼女達が専横派の要求を呑むわけがない。犯され痛められ続けた彼女達の容態を思いやることなんて考えすらしなかったのでしょうね,やがて衰弱死した彼女達の遺体は都市の外に運び出され捨てられた。恐らく遺体は魔物の餌食になったから痕跡はなし」

「事件化しなかったの? 人が消えているわけでしょ?」

「そこが連中の姑息なところね。先ず標的としたのは証拠や情報集めのための資金をかき集められなさそうな,中間層以下の市民だった。他にもレヴァルを1人で訪れていた子も狙われたみたい。それに事件性を隠蔽するため拉致する頻度も抑えていたらしい痕跡もある。時には『品評会』と評して互いのヤリ部屋を行き来し,一度に複数人の相手をさせることもあったみたい」


 想像していた以上に卑劣な犯行に胸糞が悪くなり,自ずと眉根が歪んだ。勇者やその派閥争いには全く関心がなかったが,その話を聞くとさすがに殺害を決意したアイリーン達の心境も理解できる。


「それでも,原住民だけが被害に遭っている状況ならまだ殺害計画は立ち上がらなかったかもしれない。だけど連中は限度を超えた。わたし達は互いに転移者か否かステータス表示で知ることができるけど,勇者である連中は転移者と知らずその女性を拉致した。同じ立場で取引をすれば自然顔見知りとなり転移者のコミュニティが徐々に形成される。突然その中から人が失踪したわけだから,当然事件性が問題視された。比較的裕福な転移者グループが情報を集め始め,結果専横派の犯行が明るみとなったわ。残念ながら彼女の遺体は遺棄された後だったそうね」

「証拠を集めて議会に訴えなかったのは何で?」

「犯行から時間が経過し証拠が集められそうにないケースも少なくなかったからよ。直接現場を押さえようにも相手が勇者だと返り討ちに遭うだけだし,拉致の瞬間も撒かれて終りでしょうね。悠長に立証できるだけの証拠を集めようにも,その間に自分達が被害に遭わないとも限らない。拉致の頻度よりも早く,確実に勇者達を排除でき自分達も裁かれる心配のない手段があればそちらを選ぶのはアイリーン達の立場からすれば当然じゃない?」

「まぁ分からなくはないけど……それでも対象は専横派だけで良くない? そっちの方が時間もかからないしコストもリスクも抑えられる。それに態々殺人を犯さなくとも,事情を説明すれば融和派のオジサン達は専横派の逮捕に向けて協力してくれたんじゃない?」


 単純にそう考えたのだけれど,メアリは哀れむような眼差しでボクの顔を見返した。

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