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ミステリオタクですが異世界転移しちゃいまして  作者: 阿久井浮衛
Prologue 勇者はN人もいらない

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32/34

episode 32

「……メアリさんがギフトに併合(マージ)を設定したのは,職業(ジョブ)による魔力量の差を補うため?」

「ま,端的に言えばそうね。融合する対象を魔法だけでなく魔石や魔法具にまで設定できたから職業(ジョブ)による魔力量の差はわたしにとってそこまで問題にならないわ。例えるなら高性能のモバイルバッテリーを自由に作れるようなものね。蓄積容量の高い魔石だとさすがに嵩張るけど持ち運べない大きさでもない。現に最高でもランクがAの商人だけの集団でもドラゴンやオークの群生を生きたまま捕まえることができたわけだし」

「それも今回の計画に含まれていたんだよね? えーっと,何が目的だったっけ?」


 本格的に関与する前の段階の計画内容のためそもそも詳しく聞いていないはずだけど,メアリは「そんな杜撰な理解で良くこの計画に参加できたね」と呆れた。


「勇者の派閥争いを煽ることで後々勇者が殺害された時,お互いが犯人だと疑わせるためよ。少なくとも計画初期の段階ではまだ両派閥のお互いに対する疑心暗鬼が維持されると予測できた。討伐依頼中獲物の奪い合いでも起きればと専横派をけしかけたけど,思った通り融和派から横取りしたみたいね。おかげでカクョムを殺したのが専横派だと信じ込ませることができた。その後の経緯は君も知っているでしょう? ()()()使()()()()にも関わらず自分が真犯人だと思い込ませることができたわけだから,そこは上手く立ち回ったと言っていいんじゃない?」


 そう言ってようやくメアリは悪意のない微笑みを浮かべる。この人ガワだけは本当に綺麗なんだけどなー,と思いつつ「女王様にお褒めいただき恐悦至極」と軽口を叩いておく。


 メアリが言った通りボクは魔法を使うことができない。と言うか,魔法を使おうにもそもそもボクには()()()()()()()()


 自由にギフトを設定できると聞いた時,より汎用性のあるギフトは何だろうかとボクは考えた。恐らく多くの勇者以外の転移者は職業(ジョブ)に由来する魔力や魔法にかかる制約を補おうとするはずだ。


 メアリの併合(マージ)も「身体に貯えられる魔力の最大容量が限られているなら,外部にストックできるようにすることで利用できる魔力量の最大値を増やそう」という至極真っ当な発想によるものだ。彼女が特に強かだったのは魔法の性質同士も融合できるようギフトを設定したことだろう。この結果実質的には職業(ジョブ)に由来する魔力や魔法への制約を取り払ったに等しい。


 敢えて弱点を挙げるなら機転が利かないことだろうか。魔力にしろ魔法にしろ蓄積に時間を要するし,一度消費してしまえばまた蓄積し直す必要がある。当意即妙な対応はさすがに勇者の方に分があるし,消費した魔力の回復スピードの差も歴然としている。それでも,他の転移者と比べるとメアリは制約を補うという発想の中ではかなり上手くギフトを設定した方だろう。


 では逆の発想でギフトを設定した場合に得られるメリットは全くないのだろうか。それがボクのアイディアだった。


 異世界という魔力や魔法が物を言う環境なら,誰だって自分がそれらを最大限活かせる立場に身を置けるよう行動するだろう。しかしそれは換言すると魔力や魔法を前提として思考し,そうしたリソースへアクセスできる総量を増やそうとするある種のインフレに巻き込まれてしまうということではないだろうか。


 それならば魔力や魔法を前提としないルールを相手に強制することができれば,勇者に限らず全ての異世界の住人に対しアドバンテージを取ることも可能ではないか。神様に転移後の環境に探りを入れつつ並行してそう考えたボクは自分のギフトのイメージを固めていった。


 異世界無効化(ナンセンス)。それがボクのギフトだ。


 このギフトは文字通り,異世界特有のあらゆる現象のボクに対する作用を否定する。ボクは魔力を持たず魔法を使えないし,どんなにランクが高かろうとボクに対する魔法の効果は無効化される。


 他の人にとっては致命傷になり得るような勇者の攻撃魔法も,絶望の淵から息を吹き返させる回復魔法もボクには全く意味を成さない。魔力を有する者には瘴気となるほどの魔力を蓄積できる魔石もボクにとっては石ころでしかないし,生存者が1人も望めない魔法による山火事の現場でもボクは涼しい顔でピクニックすることができる。


 ボクのギフトが作用するのは単純な魔力や魔法だけでなく,類似した性質が付与された魔法具や生命体にもその影響が及ぶ。例えばティモシーに鍛造してもらったらしいゾーイの短剣も,付随する効果が無効化されているボクにとっては少し刃渡りの大きいナイフでしかない。


 勇者のオジサン達の強化された肉体もボクに触れた瞬間メタボリックシンドロームに悩まされる中年のだらしない体に戻るし,ドラゴンやオークもボクからすればオオサンショウウオやニホンザルのようなものだ。下手に刺激すると面倒だから距離を置くか,といった認識で十分安全を確保できるレベルでしかなくなる。当然異世界特有の病気や毒に罹ることもない。


 要するに,ボクのギフトは異世界を否定し転移前の地球上におけるロジックを周囲にも強制しているのだ。


 だから仮に計画が途中でバレて勇者のオジサン達が仮にボクを殺そうとしたとしても,少なくとも魔法で殺すことは不可能だった。剣を使って斬り付けられることは有り得たかもしれないが,ボクを狙った時点で肉体の強化も解除される。特に鍛えてもいない中年の体で重たい剣を振り回すことは難しいだろう。その間に逃げてしまえば良いし,肉弾戦に備えて日頃から武術道場には通っているから勇者の特権に胡坐をかいていたオジサン達に負ける気もしない。


 計画を知り激高されても身体的な被害を負う可能性の低いボクは誘導役としてやはり適任だった。寧ろ苦労したのはメアリが指摘した通り,ボクが魔法を使って勇者を殺害していると誤認させることの方だ。先に殺害される専横派の方には融和派の犯行と思わせておけばよいが,最後に殺されるチィトさんにだけは疑いの目をボクの方に向けさせる必要があった。


「しかし良いのかなー,多少の苦労はあったとはいえアイリーン達実行役と比べると諸々のリスクかなり低いのにあんなに貰っちゃって。ボクだけ楽な役回りで悪い気もするよ」

「いくら貰ったの?」

「アイリーン達からの依頼だけだと50万T(ターラー)。ただ融和派と専横派それぞれから前金50万T(ターラー)ずつ受け取っているから計150万T(ターラー)だね」

「前金50万!!? いくら何でもぼったくり過ぎじゃない!?」

「い,一応アイリーンからは勇者からの依頼で受け取る報酬は自由にしていいって言われたから……」

「それにしてもだよ。君,勇者のオジサン達に助かる見込みが薄いことを分かった上で依頼を受けたんだよね。うわー……随分あくどい商売してるね」


 やはりぼり過ぎたらしい,さすがのメアリもドン引きしている。


 まあ当たり前っちゃ当たり前か,体感だけど日用品から判断するに1T(ターラー)は日本円で150円前後だ。単純計算で今回ボクは2億円以上利益を上げたことになる。メアリの様子を見る限り,ペリトゥスさんへの支払いを計上しても議会からの支払いで補って余りあることは黙っていた方が良いだろう。


 ただ言い訳をさせてもらうと,ボクだって報酬に対してできるだけ誠意をもって対応しようと努めてはいたのだ。アイリーン達から先に依頼を受けている上,勇者のオジサン達の依頼は互いに敵対する派閥の犯行だと証明することだったから,事件の真相を直接的に明らかにすることはできなかった。ただ勇者以外の物による犯行をできるだけ仄めかしてはいたのだ。


 例えば鍵の問題。毒殺や焼殺はともかく,刺殺された勇者の遺体はどちらも施錠されていない自宅で見つかった。勇者に相当する実力者の犯行なら,何故現場を施錠し発見を遅らせようとしなかったのか。


 答えは単純,やりたくてもできなかったからだ。メアリの併合(マージ)では勇者を殺害できるレベルの魔法を再現できても,そもそも習得が困難な施錠する魔法を再現することはできない。だから現場を密室にすることはできずそのまま立ち去るしかなかった。勇者達が警戒をせずアイリーン達を迎えたのも,相手が対立する派閥でない上併合(マージ)前の個々の魔法では勇者に対する殺傷能力がなく,危機感知が発動しなかったからだろう。


 実行犯であるアイリーン達の立場から見れば,同一の殺害手段を短期的に連続して選べないことも計画が露呈しかねない要因の1つだった。


 仮に殺害方法を1つに限定した場合,計画はより長期に及び殺人犯が勇者でない可能性を疑われるリスクが高くなる。自分達の犯行と疑われない内に勇者を殺害してしまうためには別々の殺害方法を取らざるを得ないが,それでも一定の期間を要するし,今度は何故態々異なる殺害手段を取っているのか疑われる危険性が生じる。回復薬(ポーション)を使わない理由とメアリの存在を併せて考えればすぐ複数犯による犯行の可能性を思いつけるだろう。


 だから態々ボクに勇者のオジサン達の思考を誘導するよう協力を求めた。それでもオジサン達に敵対する派閥以外から命を狙われる心当たりがあればすぐさま真相に辿り着けたはず。殺害動機を悟られなかったことこそ,今回計画を達成できた最大の理由と言えるかもしれない。

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