表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミステリオタクですが異世界転移しちゃいまして  作者: 阿久井浮衛
Prologue 勇者はN人もいらない

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/30

episode 28

 聞き覚えのある声にはッとする。声の主を確かめようと身動ぐも,筋繊維が剥き出しの腕に痛みが走り仰向きになることすらもどかしい。


「どうやら結界魔法を展開していたようです。そのせいでこれまでの勇者以上に魔法による攻撃が通りにくい状況を作られていたと思われます。後は小まめな回復薬(ポーション)の摂取により肉体の自動回復が機能した結果かな」

「まあ,瀕死の状態まで追い詰めている以上は想定の範囲内と見て問題ないんじゃない? いずれにせよ今日で計画は完遂ってことで大丈夫だよね,()()()?」


 どうにか仰向けになった俺と目線が合ったメアリは,ゆっくり冷酷な微笑を口許に湛えた。


「ええ。多少のイレギュラーはありましたが,当初の予定通り今日で勇者殺害計画は完了です」

「……意識があるなら反撃されない内に止めを刺すべきだね。人目が集まってくるとさすがに言い逃れできないし」


 そう言ってゾーイがメアリの隣に歩み出て短剣を俺に向ける。その目は敵意と憤りに満ちていて,明らかに相対する敵に向けるそれだ。


 しかしそんな目付きを向けられる心当たりは全く無く,取り留めなく揺れる視点が彼女達の背後に連なる50名ほどの人だかりを捉える。その中に混じるアイリーンとティモシーの顔を見つけ混乱に一層拍車がかかる。


 ……そうか,そういうことか……


 動揺しながらも女性ばかりの顔揃いを眺めている内に,ようやく真実に思い至った。俺に敵意を向ける彼女らの中には知らない顔も多々混じっているが,見覚えのある顔は()()()()()()()()()()()ため間違いないだろう。


 一連の勇者殺しは,()()()()()()()()()による共犯だったのだ。……しかし何故,彼女らが徒党を組んで勇者を殺す必要がある?


 この場にエラリーが同席していないことと,メアリ達の会話からここにいいる彼女達が結託して勇者を殺害した真犯人であることは確定したと言っていい。それは一度タネが分かってしまえば今まで気付けなかったことが不自然なくらい,明白な考えに思えた。


 メアリは初めから自身のギフトである併合(マージ)が魔法やその性質同士の融合と説明していた。デモンストレーションでこそ自身が発動した魔法を併合(マージ)しているが,複数人が発動した魔法の併合(マージ)が不可能とは一言も言っていない。それに殺害された勇者の遺体に残った魔傷痕に複数人の魔力が混在していたことも,態々魔法による攻撃のタイミングを揃えたと考えるよりも初めから魔力が混在した魔法で攻撃されたと考えれば辻褄が合う。


 それに思い返せばカクョムの死後ギルドで専横派と小競り合いになった後の彼女の振る舞いも,メアリが勇者殺害の中心人物であると分かれば説明がつく。あの時点ではカクョムの死を知らないはずなのに,いくら専横派とのやり取りを聞いていたとはいえ即座に探偵を紹介するだろうか。普通何があったのか問おうとするものではないだろうか。それにも関わらず直ぐエラリーを紹介できたのは,彼女自身がカクョム殺害に関与していたからだ。


 そう考えるとエラリーがSランク越えの攻撃を受けても無傷だったのは,本人の説明した通りギフトの副産物だったのだろう。エラリーも俺達の疑いをメアリではなく彼女へ向けさせるために利用されたのかもしれない。


 しかし,そうなると分からないのは動機だ。


 専横派の連中はどうだか知らないが,少なくとも俺を初めとした融和派は彼女達から恨まれる覚えはない。俺達を殺すことで彼女達に利することがあるだろうか? 魔石の売買や武器製造の需要を考えると,寧ろ彼女達には損失しか生まれないはず。


 こうなった以上アイリーンの報告の真偽は棚上げするしかないが,俺自身が調べた範囲では融和派が残した金の流れに不審な点はない。仮に俺が死んだ場合の遺産にしても,相続人がなく議会に帰属することになる。金銭的な意味で彼女達が利することはないはず。


 それでも彼女達が派閥を問わず勇者を殺害している動機は何だ? 融和派の誰かとの間に個人的なトラブルでもあったのか? いや,それでも彼女達が結託する理由が分からないし,単に標的を絞らせないという理由だけで勇者全員を殺害するのはリスクが高過ぎる。


「恨まないで下さいね,チィトさん。これはあくまで仕事なんです。わたしだって望んで殺人の片棒を担いでいるわけじゃない」


 ようやくメアリが共犯者ではなく俺に対して言葉を発する。その人形のように整った顔に浮かぶ妖艶な微笑みは,混乱する脳裏に目前に差し迫った死の恐怖を突き付けた。


 未だ皮膚が回復しきっていない肘を付く痛みにも構わず足掻こうとするも,淡々とゾーイは距離を詰めてくる。同様に皮膚が回復し切っていない背中が地面と擦れ,鈍い痛みと共に血が舗道に塗り込まれるのが分かるが四の五の言っている余裕はない。死に物狂いに後退りしながら,時間を稼ぐべく何とか涸れた咽喉を鳴らした。


「……まぁ……て……どぉ,き…………ど……きは……な,んだ……」


 その瞬間,俺に向ける彼女達の視線全てが軽蔑と嫌悪の入り混じるそれに変わった。とにかく時間を稼ごうと咄嗟に捻り出した言葉に思いがけず返ってきた反応を見て狼狽える。


 何故だ……何故こうも彼女達は()()()()()


 向けられる殺意に全く心当たりはないが,地雷を踏み抜いたと気付かないほど鈍感でもない。時間稼ぎのつもりが自ら断頭台に首を差し出してしまったことを悟るも,それでも生への執着からか意識せずとも四肢はバタついた。


「この期に及んで殺される理由に心当たりがないこと自体が,わたし達がお前を殺したい理由と言ってもいいくらいだけれど,冥途の土産に教えてあげる」


 明確に,最も殺意を湛えた瞳を俺に向けながらゾーイが俺の左手を踏みつける。「カット」と彼女達が一様に唱え、メアリのギフトにより集約されるその魔力を肌で感じる。


「勇者は1人もいらない」


 ゾーイが短刀を振り落とした瞬間,降り注ぐ魔力と共に転移前努めていたブラック企業の課長から投げつけられた言葉が自然と頭の中に浮かんだ。


『お前いらないよ』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ