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ミステリオタクですが異世界転移しちゃいまして  作者: 阿久井浮衛
Prologue 勇者はN人もいらない

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23/30

episode 23

 俺とゾーイ,そしてプラエセスの召し使いが焼け焦げた瓦礫を掘り返す作業を始めて1時間ほどが経過しただろうか。()()は唐突に見つかった。


「……これでは,身元の特定は到底不可能だろうな」


 テンセィの自宅跡地で発見された焼死体と同じくファイティングポーズを取った黒焦げの遺体を前に,プラエセスはさすがに気圧されたように呟く。凄惨な遺体を前にゾーイも言葉を失っているようだが,俺が受けた衝撃は彼らの比ではあるまい。


 ……少なくとも,この場に留まるのはマズいな。


「悪いが使いの者を何人か借りてもいいか? ナロゥの安否を確認しに行きたい」


 詰将棋のように着々と打てる手を消されていることを自覚しつつ,どうにかこうにかその場凌ぎの結論を導き出す。問題を先送りしているだけという自覚はあったが,プラエセスに異論を唱えさせないだけの説得力はあるはずだ。


「……構わないだろう。ゾーイ,君にも同行を頼んで良いかね?」

「別に構いませんが,わたしが付いていく必要あります?」


 ゾーイは気付いていないらしく,自らの顔を指差し不思議そうに首を傾げる。半面俺は俺は露骨なプラエセスの提案に思わず鼻を鳴らした。融和派のこれまでの貢献は考慮してもらえないらしい。随分と疑われたものだ。


 ナロゥの安否を確認するだけなら俺1人だけで事足りる。遜り敢えてこちらから召し使いの随行を願い出たのは中立的な第三者の監視の下行動したことを証明するためだ。このままエラリーと鉢合わせることだけは避けたいが,単独で正当な理由なくこの場を離れると俺に対する疑いを一層強めるだけだろう。


 こちらとしては十分譲歩したつもりだが,召し使いだけではプラエセスはお気に召さなかったようだ。お目付け役を指定されるほどレヴァル首長に疑われていることも面白くはないが,魔力を消費した今の俺ならゾーイでも抑えられると判断されたことも気に入らない。ゾーイが弱いとまでは言わないがさすがにランクが違い過ぎる。


 それでも背に腹は代えられない。とにかく今の最優先事項はエラリーとの会敵を避けることだ。不満を顔に出し余計な疑念を招かないよう気を付けながら「恩に着る」と短く頭を下げた。


 ナロゥの自宅に到着したのは,それから30分以上経過していた。俺とゾーイだけならタラリアを使ってものの10分くらいで移動できただろうが,プラエセスの召し使い同伴となればそうもいかない。徒歩での移動だったため魔力は温存できたが,道中ザマァの遺体を調べ終えたエラリーが追い付いて来やしないかと気になって仕方がなかった。


 同じエリアに居住するエラリーがナロゥの自宅を特定できていなくても,プラエセスが黙っている理由はない。証拠をでっち上げ正式な許諾を得たエラリーが,一連の勇者殺害事件の犯人として俺を逮捕しに来るのではと思うと今すぐにでも逃げ出したかった。だが自ら申し出て監視の目を付けた以上,安否確認だけは遂行しなければならない。


「へぇ,勇者様の割には庶民的な地区に住んでいたんですね


 ナロゥの自宅に到着すると物珍しそうにゾーイが辺りを見渡す。


 南部は個人向けの商店が集まる活気のあるエリアだが,この辺りは一際騒々しい。居酒屋などのレヴァル市民も普段使いする酒場もあれば,武器屋や仕立て屋,薬屋に魔法具店などのサーバーや旅人向けの店も混在する。むしろ店に併設されているものを除けば住宅の方が少ないだろう。


 特に多いのは武器屋で,通りを挟んだナロゥの家の向かい側も工場を備えた武器屋だ。今も何か武器を鍛造しているのかけたたましい音がここまで漏れ聞こえている。


「ナロゥさんにも招集要請は出ていたんですよね? 当然今朝方呼びかけたし,その時も返事がなかったわけですね?」


 ゾーイは同行した召し使いに確認しつつドアノッカーを打ち付ける。返事がないと見るや否やドアノブを回す。ガチャガチャと音を立てるだけで一向に玄関扉は開く気配がない。


「単純に不在なんですかね? チィトさん,ナロゥさんがどこに出かけているか心当たりあります?」


 躊躇いのない振る舞いが目立つが,さすがに即刻開錠魔法を使うほどデリカシーがないわけでもないらしい。先ず状況を把握しようと急かすゾーイを右手で制し,俺は踵を返した。


 直近3週間,俺とナロゥはほぼ毎日顔を合わせていた。目的は収集した情報の照合と互いに雇った調査員へ支払う報酬の見積もりを共有するためだ。その打ち合わせ自体はギルドで大体午後5時頃に行っていたのがいつの間にか慣習化し,昨日もほぼ同じ時刻に情報共有を済ませている。


 現状を鑑みるに安否確認をしたければ今すぐにナロゥの自宅を検めるべきだが,エラリーに対するアドバンテージが欲しい俺はとある可能性にかけナロゥ宅向かいの武器屋へ向かった。


「あっ,やっぱりチィトさんでしたか。ご無沙汰しております」


 武器屋へ踏み入ると,奥のカウンターで腰かけていた店主のティモシーが立ち上がった。集客のため開け放した扉から外の様子を把握していたようだ。カウンター脇の,裏手の工場へ続く廊下からは更に騒々しく金属音が鳴り響く。俺はカウンターに向かいながら負けないよう声を張る。


「ティモシー! 今日ナロゥを見ていないか!?」 


 彼女はナロゥが特に懇意にしている武器屋の主人だ。俺もこの店は何度か利用したことがある。武器屋を構えてはいるものの彼女自身の職業(ジョブ)は鍛冶職人で,その腕前はレヴァルどころかエストラント王国内で上から数えても片手で事足りるレベル。聞けば,裏の工場で働く職人も彼女のお眼鏡に適った者だけを採用しているらしい。武器オタクのナロゥもその職人技に惚れ込んだファンの1人だ。


「いいえ,見てませんね。開店してからは出入り口を開け放していますが,ナロゥさんは外出していないと思います。わたしが離席した時や開店前は分かりませんけれど」

「……逆に言えば,昨日帰宅したことは確かなんだな?」

「ええ,昨日閉店間際ご来店いただきましたよ。お見送りしご帰宅されたのを確かに見届けています」


 そうなると,開店前にプラエセスから招集要請は届いているはずだからティモシーが開店する前や離席中にナロゥが外出した可能性は無視して良いだろう。状況としてはツィホゥの遺体発見時と酷似しているわけだが,だからこそ確かめられることがある。


「ナロゥが最近,誰かから回復薬(ポーション)を譲り受けたというような話はしていなかったか?」

「あっ。そういえば3日前にご来店の際,そんな話を伺ったような気がします。確か帰り際,ギルドでちょっと特別な回復薬(ポーション)を譲ってもらったとか」


 これだ。


 ティモシーの言葉を認識した瞬間背筋がぞわぞわと震える。待ち望んでいた証拠の片鱗に触れ,溢れ出る焦燥を懸命に抑えつけた。


「……その回復薬(ポーション)を誰からもらったかは聞いていないか?」

「うーん,ちょっと待って下さいね」


 こちらの逸る思いを知ってか知らずか,ティモシーは記憶を掘り起こすように首を傾げる。その際落ち着いた焦げ茶の髪色に隠された内側の金髪が耳裏から見えた。


「……ごめんなさい,誰からもらったとは言っていなかったと記憶しています。ただ譲り受けた相手を『彼女』と呼んでいたので,女性であることは確かかと」

「……今の話を後でもう一度確認しに来ても構わないか? 場合によっては議会から証人尋問で呼ばれるかもしれない」

「別にそれは構いませんけど,えっ? そんなに大事なんですか?」

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