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ミステリオタクですが異世界転移しちゃいまして  作者: 阿久井浮衛
Prologue 勇者はN人もいらない

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20/30

episode 20

「つまり回復薬ポーションによるリカバリの隙をつかれたわけですね。回復薬ポーションを利用して然るべき状態でしかも『危機感知』で大抵の毒は検知できていた。最も毒への警戒が薄れるシチュエーションだからこそ狙われた。こうなると問題となるのは毒自体の入手経路ですが,毒殺による魔傷痕鑑定は可能ですか?」

「無理じゃな。魔傷痕は自己に由来しない魔力に危害を加えられて初めて肉体に刻まれるものじゃ。生成時に魔力を消費して創られたものであっても,死に至るのはあくまでも毒の作用によるものじゃからそもそも魔傷痕が残らん」

「となるとやっぱり入手経路から詰めていくしかないか……ボク毒に関しては完全な素人なので全くその辺りの事情が分からないんですけど,このレベルの毒って簡単に創れるんですか?」

「……少なくとも創れる者は限られているな。先ず毒の生成自体高度な専門知識が要る。この毒の場合回復薬ポーションを模していることから人工物の可能性が極めて高いが,危険度は8Sだ。これがどのくらい危険かと言うと,俺達レベルの勇者やドラゴンでも何もできず即死する見込みが大きい。それだけ魔力消費が多い上高ランクの創薬魔法を使わないと生成できないだろう」

「では具体的にこの毒を創れそうな人はどなたです?」

「レヴァルで最も労せず生成できたのはテンセィだろうな。搦め手や謀略に活かせる魔法を特に得意としていたし,毒や創薬の知識は勇者の中で抜けていた印象がある。俺を含め他の勇者にも技術的には生成可能だが,その手の方面には明るくないから前提知識の習得に時間がかかる。他にあり得るとしたら,トップクラスの薬師が数カ月に渡り生成している可能性くらいか。ああ,そうだ。ツィホゥの自殺の可能性も疑っているんだろうけど,それはほぼほぼ否定していいと思う。カクョムに強い恩義を感じていたツィホゥがそれに報いず自害することはあり得ないから」

「……まあ,遠征に出ていたツィホゥさんには物理的に準備のための時間がなさそうですし,取り敢えず考慮しなくても良いでしょう。ですがそうなると見つかった遺体がテンセィさんでない線から当たってみた方が良さそうですね。それか生前テンセィさんが生成した毒を専横派が利用した可能性でしょうか」


 俺がツィホゥの自害の可能性を検討しているとは予想していなかったのか,エラリーは歯切れ悪く追従する。ただ,さすがにテンセィ生存の可能性を見過ごすへまは見せてくれないようだ。


 エラリーに言った通り,このランクの猛毒を生成できる者は限られている。となると問題は毒の入手経路だ。ツィホゥは回復薬ポーションと誤認したまま毒を入手したと見て先ず間違いないだろう。であれば次に考えるべきは誰から回復薬ポーションに模した猛毒を譲り受けたのかだ。


 テンセィであれ他の2人であれ,専横派が毒を生成していた場合直接ツィホゥが受け取ることはあり得ない。少なくとも融和派と専横派のどちらにも肩入れしない,中立的な立場を介する必要がある。


 しかしそうだとすると,専横派は仲介者に回復薬ポーションに偽装した毒であると伝えていただろうか?


 実は毒であることを明かしていた場合,毒の受け渡しだけなら金に物を言わせればまだ協力者を得られるかもしれない。だが勇者の間で他にも死者が出ているのだ,共犯者は複数の計画殺人に巻き込まれていることに気付くはず。猛毒の運び屋を引き受けたばかりに計画殺人の片棒を担がされることになるのだ。仮に法外な謝礼を払っていたとしても中立な対場で絞首刑のリスクを厭わないとは考えにくい。


 逆に猛毒であることを伏せていた場合,仲介者は勇者同士の派閥争いを知らない現住人の可能性が高い。転移者なら融和派と専横派の対立を当然知っており,回復薬ポーションの受け渡しなどするはずがないと怪しむはずだからだ。


 しかし現住人の場合報酬を受け取った上で猛毒も回復薬ポーションと誤認したまま()()()可能性も無視できない。回復薬ポーションに似せた猛毒による殺人はそう何度も使える手ではないのだ。専横派からするとできる限り俺達には悟られたくないはずだから,不審な遺体は出ないに越したことはない。


 ちらりと,今度は人差し指を頬の辺りに当てツィホゥの遺体を見下ろすエラリーの表情を盗み見る。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()(),今挙げた問題点は全て解消される。


 対立していた専横派ではなく,転移者だがどちらにも肩入れしていないエラリーからなら,ツィホゥが直接受け取る可能性は一気に上昇するはず。遠征から帰って来たばかりで面識もなかったらしいツィホゥは当然回復薬ポーションと信じて疑わなかったはず。


 昨晩の浮足立った様子を見る限り,遠征の苦労を労う特別な回復薬ポーションとでも言っておけば初対面の相手から受け取る抵抗も払拭されただろう。カクョムの敵を討つため証拠集めを依頼したと直前に伝えていたことも,エラリーへの警戒を解かせる一因となったかもしれない。


 唯一彼女の犯行の障害となるのは,ギルドから帰宅するまでの間にツィホゥと接触する機会があったかどうかか。


 俺が密かにエラリーを疑い出した理由は,何もオレツェ達の攻撃に無傷で耐えたことだけじゃない。火災現場から直接こちらへ向かう際,ペリトゥスに同行を求めたのもその理由だ。


 まだあの時点では事件性の有無は不明だったはずなのに,何故鑑定人のペリトゥスを連れて来たのか。それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ではないか。だから,あくまでも俺達からの依頼を遂行する体を装うためペリトゥスを同行させたのではないか。


 このように,エラリーが勇者並みの実力者と考えた場合全てが説明できるのだ。勇者でない彼女には警戒されることなくカクョムやテンセィの自宅を特定できただろう。占い師という占星術師という職業ジョブも情報収集には打って付けだ。


 唯一判然としないのは動機だが,マッチポンプによる前金を騙し取ることが目的と考えれば納得がいく。カクョムの葬儀手配を申し出たのも遺産を着服するためではないか。そもそも俺達を殺してしまえば,遺産を受け渡さずに済む上俺とナロゥの遺産も手中に収めることができるじゃないか。


 一度擡げた疑いはムクムクと急速に成長し胸の内を占めた。焦燥に駆られ本人に問い質したくなる衝動を必死に抑える。


 冷静に,他にあり得る可能性を検討するならば専横派の仲間割れによる単独犯説もなくはないだろう。そうだとしても共犯の場合と同じく毒の受け渡しの問題は残る。また殺害が露見した場合専横派の他のメンバーに粛清されるリスクがあるし,単独である分融和派の勇者殺害の難易度も上がるはずだ。共犯よりも現実的でないように思える。


 仮説としては,融和派でも専横派でもない未知の勇者が対立を利用して殺害している可能性も一応考えることはできる。だが動機が不明な上,単独犯であれ共犯であれそれほどの実力者なら確実に耳にしたことがあるはず。けれどそんな勇者の存在を俺は知らない。この仮説はあくまで論理的には考えることができるというだけで,他のどの可能性よりも現実的ではないだろう。


 最後に,考えたくないことだが物理的に可能という意味ではナロゥも容疑者ではある。同様に俺単独での犯行の可能性を思いついているか知らないが,ツィホゥの遺体に悄然と目を落とすナロゥの顔色を気付かれないよう伺う。専横派単独の場合と同じリスクや障壁が生まれるし,相変わらず動機は不明なのでやはりこの考えも現実的でないように思える。


 冷静に,見落としや偏りがないか時間をかけ振り返る。何れの仮説でもかなり長期的な計画であることに違いはないし,俺も殺害対象に含まれていると見て身を守るべきだろう。金銭以外の動機だとしても,恨まれる覚えはないのだが。


 しかし一通り可能性を検討してみても,最も現実的なのはエラリー犯人説ではないだろうか。


「……分からないですね」


 長いこと考えこんでいたエラリーはぽつりと呟いた。疑いの目を向けながらエラリーの出方を伺う。


「何がだ?」

「不思議に思いませんでした? 一連の勇者殺害において,殺害方法が全て異なっています。単純に殺害が目的ならテンセィさんの自宅を襲撃した時のように炎系の魔法で家ごと燃やしてしまえばいい。周辺住民に被害が出ることを避けたのだとしても,それなら当面は回復薬ポーションに見せかけた毒による殺害を続けた方が効率的です。毒殺が続くほど警戒される公算が大きいですが,それでも2,3名は殺害できるでしょう。殺害方法が異なるのは同一犯ではなく複数の異なる犯人よる殺害が偶然続いていると無理矢理仮定しても,犯人が異なる分殺人を達成するまでのリスクや障壁が重なっていくことになります。犯人達がそれぞれ殺害を決心し成功するまでの確率を掛け合わせていくと,現実的には無視していいほど全体を通じての確率は低くなるはずです。態々殺害毎にやり方を変える理由が分からない」


 エラリーは複数犯の可能性も検討していたらしい。その視野の広さから彼女が切れ者であることが伺えるが,それが故に俺は更に警戒を強める。殺害方法が異なる点に意識を向けさせることで,自身が真犯人である可能性を疑わせないようしているのではないか。


「不審な点は他にもあります。1つは施錠の有無です。テンセィさんやツィホゥさん殺害時は施錠するか気にする必要はないですけれど,カクョムさん殺害時はやはり昨日話した通り施錠していた方が利があります。何故犯人は鍵を開けたまま現場を去ったのでしょう? ここで説明されもう1つ不審に感じたのが,皆さん抵抗らしい抵抗をした様子が見られないことです。状況からツィホゥさんは無理にしても,カクョムさんとテンセィさんは魔法攻撃により死亡したことが明らかです。それなのに何故それらしい抵抗の跡が残っていないのでしょう? 身に危険が迫ると『危機感知』が発動するはずなんですよね。単純に不意打ちを受けたからで説明できるのでしょうか?」


 エラリーは腕を組みそう訝しむ。


 しかし彼女が指摘した点は周辺事項で事件の本質からは逸れているように思える。やはり様々な可能性をあげつらうことで注意を散らしているのではないか。


「いずれにせよ些末な可能性を潰していくためにこの家の中を検める必要がありますね。既に踏み入ってしまったため仕方がありませんが,これ以上の証拠物の汚染を避けるため調べている間おここで待っていてもらえますか?」


 カクョムの時と同じ要領で証拠集めを進めたいらしい。この調子では葬儀や遺留品の処分も同様に提案するのだろう。泳がせて金の流れを密かに追う必要がありそうだ。


 内心暗い思いで彼女の顔を見つめつつ,俺は頷き返した。

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