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ミステリオタクですが異世界転移しちゃいまして  作者: 阿久井浮衛


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10/19

episode 10

 予想だにしていない高額請求に,俺とナロゥは声を揃えて驚いた。


 S5+の報酬額と同じくらいじゃないか。それ程の額を要求されるとは全く想像していなかっただけに,先ほどまでの余裕がどこかへ消し飛んだ。


 エラリーもこちらの反応を予想していたのだろう,慌てて両手を前に広げ弁明する。


「最後まで話を聞いてくださいっ,高額なのはそれなりに理由があります! 先ず罪を明らかにするためとはいえ勇者の集団と敵対関係に陥る可能性が著しく高いです。証拠集めの最中専横派に敵対視され,口封じにボクが命を狙われないとは断言できないですよね? それにこれは最終的な成功報酬の総額です。前金として実費を含む50万Tをいただき,期日までに納得するだけの成果物を収められた場合にのみ残りの50万Tをお支払いいただきます。もし証拠を集め切れなかった場合は前金を全額お返しします。また納期に間に合ったものの優和派の皆さんが十分でないと判断された場合は前金のみの支払いで,残りはお支払いいただけなくとも構いません」

「そういうことか……」


 エラリーの説明にある程度納得する。


 確かに勇者でない職業(ジョブ)から見れば専横派に命を狙われかねないのだ,一方的に嬲り殺される可能性が残る以上高額報酬を求めるのはそれだけで正当な理由になり得る。


 それにエラリーが求めているのは実費を含む成功報酬だ。証拠集めが不十分だと俺達がごねれば捜査の実費を差し引いた前金しか手元に残らないし,高額請求できるだけの証拠を揃える自信がないと成功報酬という請求の仕方はしないだろう。また優和派とは言え勇者相手に前金だけ受け取って夜逃げするのも割に合わず身の危険が残る。そもそも納期に間に合わなければ赤字になる。


 彼女の立場からすれば生命を危険にさらすリスクに見合う額を請求しつつ,最大限譲歩することで誠意を見せようとしているのだ。


「客観的な成果物納品の成否の基準は,専横派全員の逮捕とその有罪判決確定に設定するのはいかがでしょう。期限は本日を起算日とし3カ月後を希望します。仮に逮捕にまでは至らないと判断された場合,期日を延期するかそこで捜査を切り上げるかの判断権限は依頼元である優和派の皆さんが持つこととします。いずれの場合でも金額面での条件に変更は発生しません」


 つまり,専横派が犯人である証拠が集まっても逮捕や死刑の判決を勝ち取るには不十分だと俺達が判断した場合,エラリーは追加請求なしで捜査を継続できるオプションも提示しているのだ。この内容だと捜査継続の延長回数に制限はなく,長引けば長引くほど彼女が損をする契約だ。


 初めこそ請求金額に驚きはしたものの,逮捕という具体的な最低ラインを提示しながら専横派の死刑を勝ち取るまで依頼を遂行する選択肢も提案した彼女は確かに誠実だし俺達に寄り添ってくれている。隣を見ると同じ考えらしく,真剣な顔つきでナロゥは頷いた。


「……ツィホゥ含め割り勘だからな」

「一先ず契約成立のようですね」


 俺が軽口を叩くと,エラリーは薄く微笑みながら立ち上がる。俺も立ち上がり右手を差し出すと,エラリーは両手で俺の手を包んだ。


「短い間ですがよろしくお願いします」


 不意に右手が柔らかく温かい感触に包まれ思わず言葉を失う。エラリーは同じようにナロゥの手を握ると「準備するのでお待ちいただけますか」と問いかけた。


「え,ももももちろん大丈夫っすよ!」


 タイプの女性に手を握られ舞い上がっているらしいナロゥの声はすっかり裏返ってしまっている。構わずエラリーはくるりと身を翻し奥の部屋へ再度姿を消した。


「……おい,鼻の下伸びてんぞ」

「えぇ,そうですか?」


 皮肉を叩くも生憎通じなかったようだ。こりゃ当分ダメだな。浮かれているナロゥから目線を外し室内を観察する。


 薄暗いためいまいち判然としないが,広さは俺の家のリビングと同じくらいだろう。恐らく占いや事件解決の依頼受け付けはこの部屋で行い,それ以外のスペースを居住空間として利用しているのだ。そう考えると家賃がレヴァルの中では手ごろなエリアとはいえ,エラリーは結構稼いでいるらしい。


 この部屋にある家具は来客対応のためのテーブルと椅子・ソファーの他に,壁際に本棚や戸棚が置かれている。本棚の中には革製のカバーがかけられた分厚い本がぎっしり詰め込まれ,かろうじて余ったスペースに占いに使うと思われるカードのデッキ類が収められている。


 戸棚の上にはランプの他に真鍮製の天球儀,燭台,山積みの羊皮紙に羽根ペンとインク壺,魔石ではなさそうだが様々な色の鉱石,細々した道具を収納していると思われる古びた木箱が置かれている。壁には黄道十二宮(ゾディアック)の星図がかけられ,よく見ると足下に敷かれたラグには魔法陣が描かれている。


 今回使わないようだがテーブルの隅には台座に収まる水晶玉があるし,のめり込んでいるという表現で片付けるには少々本格的だ。ひょっとすると,エラリーの占いは未来予知のような魔法と関連があるのかもしれない。


 瞬間的な危険察知は勇者でも習得できるが,未来予知系の魔法を習得できる職業(ジョブ)は数えるほどしかなく,習得者はかなりレアだ。エラリーも転移者らしいし,関連するギフトを持っているのだろう。依頼を受けるかどうかの判断材料に依頼主を占っているのもそれなら頷ける。


「お待たせしました」


 エラリーの声が聞こえ振り返る。見ると彼女はこれでもかと言わんばかりにパツパツに詰まったバックパックを背負い,同様に限界まで詰め込まれたポーチを腰回りに留めていた。被っていたトークを脱いでおり,髪をポニーテールにしている。


「えらい大荷物だが,これからどうするんだ?」

「現場検証に決まってますよ」


 あどけない顔つきに似合わない物騒な言葉にぎょっとするも,エラリーは気にせず続ける。


「その前にちょっと呼びたい人いるのでギルドに寄りましょう。その後カクョムさんのお家へ連れて行ってください」

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