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九死に一生

登場人物一覧

秋山村史あきやまそんし

本作の主人公。柿塚大学の法学部に通う1年生。昼寝していたら帰宅すべき時間である17時を過ぎてしまっていた。駅を目指し、闇の中を歩き続ける。普通の人と比べて感覚がズレている。


斎藤佑樹さいとうゆうき

柿塚大学の法学部に通う1年生。常に明るくハイテンションな性格で友達が多い。見た目と言動からわかるようにチャラ男だが根はとても真面目で毎日予習復習を欠かさず行なっている為、常に睡眠時間が短く目にくまが出来ることが当たり前になっている。かなりの心配性。


大塚謙信おおつかけんしん

柿塚大学のスポーツ健康学科に通う1年生

斎藤佑樹の友達。佑樹と話していたらいつの前にか帰るべき時間である17時を過ぎており、学校に取り残されてしまった。スポーツ万能で義理人情に厚く受けた恩は死んでも返すのがモットーでラグビー部に所属している。


長井環奈ながいかんな

柿塚大学の図書館で司書をしている女性。元々は市の図書館の職員だったが、結婚を機に退職していたが、子供が小学3年生になった事をキッカケに柿塚大学の図書館の司書として仕事を再開した。その為、17時までに帰らなきゃいけないなんて事を知らずに図書館が閉まる18時20分まで仕事をするつもりでいた為、人知れず大学に取り残されてしまった。昔から心臓が弱い。


謎の大男

先天性のアルビノらしく肌の色素が薄い。体格がよく斧を自在に使いこなして、主人公達を襲いくる。

殺しを楽しんでいるようだ。

秋山はとても安堵していた。

思えば、今の今まで1人だった事もあるが、数時間の間に何度も命の危機に直面していた。仲間がいるというだけでとても心強い。顔には出さないが、内心とてもホッとしている。

しかし傷の影響もあってか、足を引きずるようにしか歩けない。しかもナイフが刺さってるっていう違和感が凄い。

そんな事を思っていると徐に斎藤が聞いてきた。


そう言えば秋山。お前警察には連絡したのか?

携帯も持ってる訳だし、いくらでも電話する時間はあったんじゃないか?


確かに斎藤の言う通りだ。気が動転し過ぎていて警察に連絡すると言う当たり前の事を忘れていた。

今からでも遅くはない。警察に連絡しよう。


悪い気が動転してて警察に連絡するなんてすっかり忘れてた。


まあ状況が状況だったしな。俺もお前の立場だったら警察に連絡なんて出来ないだろうし。

なんならビビっちまってお前みたいに逃げるなんて出来ないだろうしな。

今からでも遅くはない。警察に連絡しようぜ。


それもそうだな。

軽い相槌を打ち、俺は110番のボタンを押した。

おかけになった電話番号は現在お繋げ出来ませんでした。しばらくたってからお掛け直し下さい。

どうなってるんだ。何故繋がらない。個人の携帯ならまだしも110番だぞ繋がらない筈がない。

俺の慌てた様子に驚いたのか大塚が聞いて来た。


そんちゃんどうしたの?随分慌ててるけど〜。


いや今電話したんだが、繋がらないんだ。


そんな馬鹿な話があるか?番号を打ち間違えたとかじゃないのか?


俺は電話番号を確認する。間違いない。110番と打ててある。

番号に間違いはない。なにか別の原因があるのか?もしかして、あの大男が何かしらの細工をしているのか?

可能性としては十分に考えられる。待ち伏せをするような奴だ。

通信関係の機械になにかしらの細工を施していたって不思議ではない。


こうなったら固定電話かなんかを探した方がいいかもしれない。

問題は何処に固定電話があるかだか。

すると大塚がゆったりとした口調で話す。


いや違うみたいだよ〜。

気になって僕も携帯を確認したんだけど圏外って表示されてるよ〜。


そう言えば、17時以降は電気系統も通信機器も止めてしまうって先生が言ってたのを思い出したぜ。

となると固定電話を探してもあまり意味はないかもな。

やはり、とっとと本を返してこの場所を出た方が良さそうだな。


斎藤の言う通りだ。とにかく図書館へ急ごう。

俺達は足早に図書館へと向かう。


えっと戸締りは大丈夫だし、パソコンも閉じた。あとは、そうだ自分の荷物をまとめないと。

長井は焦っていた。無理も無いだろう。いつあの狂人が再びこの図書館の近くに来ても何らおかしくは無いのだから。さっきは運良く見逃されただけかも知れない。

もしこの中まで調べられたら?

考えるだけで今にも気を失いそうだ。

とにかくさっさとこの図書館を出よう。奴に見つかる前に。携帯での電話も試みたが、何度やっても繋がらない。

やはり、自分の身は自分で守る他ないようだ。

さてと荷物は何処に置いたっけ?

確か...。

長井は思い出さなければ良かったと後悔した。

荷物はこの図書館を出て左を曲がった先にある職員専用のロッカールームの中だ。

最悪だ。こんな時に図書館の外に出なくてはならないなんて。

そんな事言っても仕方ない。さっさと荷物を取って帰ろう。

スマホのライト機能をオンにして意を決して、図書館の外に出る。

外は闇に包まれている。近くにあった電気のスイッチを押してみたが、反応がない。

電話線だけでなくブレーカーまであの大男は落としたのだろうか?

幸いロッカールームまではさほど遠く無い。

長井は暗闇の中を歩き、。出す。心臓がバクバクいってるのが聞こえる。

昔から夜が苦手だった。何か恐ろしいものが突然目の前に現れる。そんな気がするからだ。

弱気になっていてもしょうがないと自分を鼓舞し、なんとかロッカールームの前に辿り着いた。

音を立てないようにゆっくりとドアノブを回し、素早く中に入り、ドアを閉め鍵を掛けた。

確か私のロッカーは、一番奥だったけ?

ロッカーは暗証番号を入力して開けるタイプで、番号は両親がよくパスワードとして使っていた私の誕生日の日付。

認知症になってしまった両親もこの番号の事だけはよく覚えているらしい。

スマホのライトを照らしながら番号を入力していく。け

ピピィーーーー。

ロックが解除された音が辺りに響き渡る。

よし後は荷物を回収するだけだ。


今ここで音がしたなぁーー。

!!

聞き覚えのある声が聞こえて来た。

頼む空耳であってくれ。


秋山ーーー。

ここに隠れているのかぁーーーーーーー。

大人しく出てこぉーーーい。


やっぱり空耳なんかでは無い。先程の大男の声だ。

秋山と叫んでいる。さっきの学生の名前だろうか?

どうやらまだあの学生は生きているらしい。

何故かは分からないが、あの大男は秋山と言う学生を執拗に追っているようだ。


ガチャガチャガチャ。

鍵がかかってるなぁーーーー。

やっぱりここに隠れているのか?

秋山ーーーー。

出てこーい。出てこないならドアをぶち壊してでも中に入るぞぉーーー。


まずい。どうやらこの中に入ろうとしているようだ。

確かあの大男は、斧を持っていた筈。

木製の扉くらいあの巨体ならば、10秒もかからないだろう。

とにかく何処かに隠れよう。急がなければ。

荷物を回収し、スマホのライトを消して私はロッカーの中に隠れた。

バキバキバキ。

ガシャアーン。

隠れたと同時に大男がドアをぶち破って中に入って来た。


何処に隠れた。

秋山ーーー。

奴の怒号が響き渡る。


恐怖のあまり声が出そうになるが、何とか抑え息を殺す。

見つかればきっとタダでは済まないだろう。


隠れても無駄だぞぉーーー。

大人しく出てこぉーい。

どうせ死ぬんだ。諦めろ。


ここか?

ガン。

チッ。違うか。


暗くてよく見えはしないがどうやらしらみつぶしに斧でロッカーを壊しているようだ。

あんなのに貫かれるなんて真っ平ゴメンだ。

今の私に出来るのはここに気づかないでくれと祈る事だけだ。


ここか?

ガン。

ここか?

ガン。

それともここか?

ガン。

チッ。何処に隠れやがった。

って何だよそんな所に隠れてやがったのかぁ。

!!

まさか気づかれたのか?


馬鹿だなぁ。

中から服がはみ出ているぞぉ。

さあ大人しくロッカーから出てこい。素直に出てくるのなら四肢を切断するくらいで許してやるぞぉ。


盲点だった。

急いで隠れたせいもあるが、注意深く確認しておくべきだった。

私の馬鹿。馬鹿馬鹿馬鹿。

心臓が今にも破裂しそうだ。ダメだまた胸が苦しくなって来た。今にも気を失いそうだ。


さぁさぁ出てきな。もうバレてるよぉ〜。

3数える。その間に出てこないなら鍵を壊して中を開けるからなぁ〜。

いーーーち。


ダメ。気をしっかり持たないと。

でも息を殺し続けるのも限界だ。

やはり、奴の言う通り諦めてロッカーを出た方がいいのかもしれない。


にぃーーーーーーい。


いや何弱気なっているんだ。

気をしっかり持て。


さぁーーーーーーん。


ダメだ見つかる!!


馬鹿な奴だ。

じゃあ鍵をぶっ壊しまぁーす。

醜悪な声と共に金属音が鳴り響く。


アレェ?おかしいな。誰もいねぇーぞ?

ってよく見たらここの職員が着てる服じゃねーかよぉ〜。置いてったのか?

防犯の関係上ロッカーに物を置いて帰るなとあれほど注意喚起した筈なんだがな。

カツカツカツ。

んー?

外から音が聞こえたなぁ。

もしかしてどっか隅に隠れていて隙を見て外に逃げて行ったのか?

他のロッカーも気になるが、あるとしても服ぐらいかぁ〜。

なら足音の確認をしに行った方がいいかぁ〜。

待ってろよ秋山。

絶対にぶっ殺すからなぁ。

低い声が辺りに轟く。大男は足音を確かめに部屋を出て行った。


人の気配がしない。

どうやらあの大男は何処かに行ったようだ。

はぁはぁはぁ。

生きた心地がしなかった。

誰か服を置いていってくれたおかげで助かった。

早いとここの場所から出よう。もしかしたらまたあの大男が戻ってくるかもしれない。

私はスマホのライトをつけて図書館へと走り出した。


その頃秋山達は、図書館の近くまで来ていた。

ま、待ってくれ。少し何処かで休ませてくれ。

秋山は怪我の影響もあり、2人と比べて足取りが重かった。


頑張れよ。あとちょっとで図書館に着くんだぞ。


頼む少し休ませてくれ。


何言ってんだ休むなら図書館に着いた後にいくらでも休めるだろうよ。


そうだよ〜休むなら図書館に着いてからだって遅く無いよ〜。後少しだから頑張ってそんちゃん。


くそ。好き放題言いやがって。これでも結構無理して歩いているんだぞ。


しょうがないな。謙信ライト持っててくれ。


はいよ〜。


ほれ秋山肩貸せ。


悪いな助かる。

斎藤が肩を貸してくれたお陰でなんとか図書館に辿り着いた。

ようやく戻って来れた。


それじゃあさっさと本を返して帰ろ〜。


そうだな。

よし返却ボックスは確かここに。


誰かいるの〜。

!!

震えた声が聞こえて来た。

まさか俺達以外に残っている人がいるのか?


誰だ名前を言え。

斎藤が叫ぶ。


や、やっぱり誰かいるのね。

落ち着いて私は味方よ。


そんな事聞いてない。

名前を名乗れって言ってんだ。


な、名前?

えっと名前は長井環奈。

この図書館の司書です。


長井?

秋山聞いた事あるか?


ああ。新任の司書の人だ。

あの大男の仲間じゃ無い筈だ。


あ、秋山?

秋山君もいるの?


何故俺の名前を知っている。

答えてくれ。


事情を話したいからまずは図書館の中で話しましょう。

ここにいたら大男がくるかもしれないから。


大男を知っているのか。

分かった信じよう。

俺達は図書館の中へと入った。

ガチャリ。


よし鍵も閉めたわ。

とりあえずそこのソファに座って話しましょうか。

まずは軽く自己紹介しましょうか。

改めて私は長井環奈。ここの司書をしているわ。

僕は大塚謙信です。ラグビー部所属のスポーツ健康学科1年生です〜。

斎藤佑樹。法学部1年だ。よろしく。

俺は秋山村史です。斎藤と同じく法学部の1年です。


よろしく。

さて自己紹介も済んだ事だし早速私から何があったのか話をさせてもらうわ。

長井さんは、今まであった事を全て話した。

俺が大男に脅されていた事。

荷物を取りに行った際に大男に危うく殺され掛けた事。その時に俺の名前を聞いたらしい。


じゃああの時図書館の中にいたんですか?


ええそうよ。でも私あまりの事に気を失っていたみたいでね。昔からあまり心臓が強くなくてちょっとした事でも気を失うって事がよくあってね。

助けてあげられなくてごめんなさい。


嫌々謝る事なんてないですよ。あんな光景みたら誰だって気を失いますよ。


そう言ってくれるなら少し罪悪感も薄れるわ。ありがとう。それじゃあそっちの話も聞かせてくれる。


はい。

俺達は今まであった事を全て話した。

長井さんは少し震えた様子だが、真剣に話を聞いていた。


そうだったのね。

貴方達も大変だったのね。

でもやっぱり、こんな危機的状況なのに本を返しにいくって発想になる?普通。


やっぱそうですよね長井さん。

斎藤が食い付いた。


秋山君。悪いとは言わないけどちょっと人と感覚がズレているんじゃない?


そうだよお前少しズレてんだよ。


自分では否定し続けてきたが改めて言われると確かにと妙に納得した。

普通こんな状況に追い込まれたら普通は我先にと逃げる筈なのに本の期限が今日までとはいえわざわざこんな時に返しに行こうとなるのはやはり、ズレているのかもしれないな。

ってそんな事今はどうでもいいか。


でこれから皆んなはどうするの?

私は帰ろうと思っているけど。


この後は変電所の辺りに行こうと思ってました〜。

元々僕と佑樹は、探検目的で残っていたので。


そ、そうなのね。でもあそこに行くのをオススメしないわ。

何でも昔あそこでホームレスの死体が見つかったらしいの。

新聞やテレビで見聞きした程度だからざっくりとだけ説明すると変電所の点検目的で訪れた作業員が、変電所の中から異臭がすると気づき警察に通報したところ遺体が見つかったという。

顔の損傷が激しく身元の特定ができなかった事から警察は遺体はホームレスであると断定したらしいわ。

警察の声明によるとホームレスが変電所に住み着いていたが、食料不足に陥り餓死したのだと。

鑑定結果から死後1年ほどが経過しており、顔などの損傷などは死後、虫に喰われたんだと断定したと言う経緯らしい。事件性が無いとして、警察は早々に捜査を打ち切った。

でもこの一件が終わって月日が経った現在でもこんな噂が後をたってないらしくてね。


何でもホームレスは、何者かによって殺されたのでは無いかといわれているわ。


こ、殺された?


やはり、あの大男は事件に関与しているのか?

斎藤が何かを呟いた気がした。


ええ。有識者によれば、おかしな点が多い。

まず、死後1年が経過しているのにも関わらず、何故全身の白骨化していないのかという点。

乾いた土の中に埋められていたとなればまだしも遺体は変電所の中にあった。

なら白骨化が進んでいなければおかしな話。

にも関わらず、遺体は顔の損傷が激しいだけで、殆ど白骨化していない。

もう一つのおかしな点は、虫が喰ったにしては、綺麗過ぎると言う事。

もし警察が言うように虫に喰われたとなると顔以外にも全身を食べられていなければおかしい。

だが、遺体を見てみると虫食いの後などは見当たらず、顔だけを丁寧に食べるなんて考えにくい。

こう言った理由からホームレスは餓死したのではなく何者かに殺され顔の皮膚を剥ぎ取られてしまったので無いかと。

しかもどう言う訳か殺した本人は、そのホームレスの死体を丁寧に保管していた可能性が高いと考えられる。

この一件を警察は何らかの事情により、隠蔽していると言われている。

しかもこの説を裏付けるかのようにこの柿塚大学で学生の惨殺死体が見つかった。この事件もまだ解決には至っていない。


私が思うにホームレスの事件と学生の惨殺死体の事件。この双方の事件にあの大男が関わっているじゃ無いかと思ったのよ。

問題はあくまでも憶測に過ぎないし、何より証拠が無いって事かしらね。


話を聞いて震えていた先程とは打って変わって嬉々としてこう語った。

えーすげ面白いそうじゃん。

何なら俺達でその事件解決しようぜ。


このお調子者目。ガキの探偵ごっことは訳が違うんだぞ。もし、あの大男が犯人だとするならば、奴の逆鱗に触れる事になるわけだ。

心の中で言葉を紡ぎ、喧嘩にならぬよう斎藤に要約して言葉を伝える。


斎藤やっぱし帰ろう。

何か起きてからでは遅い。

それにもしあの大男が犯人だとするならば、奴は何かしらの秘密を隠しているのだろう。だからこそ帰ったほうがいい。

ただでさえ大男は、俺を殺そうと躍起になっている。

あいつが知られたくない秘密を俺達が知ったとしたらどんな手を使っても俺達が死ぬまで追いかけてくる筈だ。

ここは引き下がるのが吉だ。


何ビビってるんだよ秋山。

ちょっと見て帰るだけだよ。やばくなったら走って逃げればいいだけじゃん。


馬鹿かお前は。俺は足を怪我してんだぞ。走れないって事はお前が一番良く知ってるだろ。


すると沈黙を貫いていた大塚も会話に参加してきた。

長井さん話を聞いて僕の中でとても納得しました。


どう言う事?


前に変電所の前を通った事があるんですけどあそこだけ何と言うか、入ったらもう二度と出られない空間が捻じ曲がっているそんな気味の悪い感覚を覚えたんです。

何とも言えない違和感でした。ですが、今の話と照らし合わせて確信しました。あの場所は僕達が安易に踏み入っていい場所ではないと。


...大塚君。


なぁ佑樹。そんちゃんの言うとおりだ。

大人しく帰った方がいい。あそこは僕達が行っていい場所ではない。


何だよ!謙信!お前まで。皆揃いも揃ってビビりやがって。こんなにワクワクする事なんて今後訪れないかも知れないんだぞ!!


パシ。

ッ。

いい加減にしろよ!お調子者!

危険を冒してまで行く意味なんてねぇーんだよ。少なくても俺はこの数時間命について改めて考えさせられた。

例えどんなに胸が高鳴ってようが、本能の赴くままに行動しようが自由だ。

でもな、命あってのもんなんだ。命が無ければ何にも出来ない。

だから帰ろう。家に。俺達がやる必要はない。

な!帰ろう。


帰ろう。佑樹。


...。

しばらくの沈黙の後、斎藤が口を開く。

...分かった俺少し舞い上がっていたみたいだ。そうだよな。死んだら元も子もないしな。

秋山。お前の言う通りだ。俺帰るよ。家に。


何言ってだぁ〜。お前らぁ〜。

!!

聞き覚えのある不気味な声が聞こえてきた。

お前達が帰るのは土の中だけだぁ〜。

そうだろう?なぁ秋山〜?


おいおい冗談だろう!いつの間に来ていたんだ?

いや、そんな事はどうだっていい。とにかく逃げないと。

皆んなは、あまりの恐怖からか声も出せず、固まっている。


おー。獲物が勢揃い。

って誰だお前?

まあいいか。

どっちみち秋山に関わる連中は全員ぶっ殺すって決めたからなぁーーー。


そういうと奴は斧を振り上げてきた。

皆んな避けろー。

俺の叫び声が聞こえたのか皆必死に回避行動を取る。

大男の斧は俺たちの目の前にあった机を思い切り破壊した。

メキメキと音を立てて机が弾け飛ぶ。

闇の中で砂煙が立ち昇る。


足に痛みが走る。

どうやら奴が壊した机の破片が私の足に食い込んでいた。

これでは立つ事はおろか、逃げる事も出来ない。

でも私にはやるべき事がある。

あの子達を逃す。それが今の私のやるべき事。

私は声を荒げ叫ぶ。

皆んな急いで地下に逃げなさい。

ライトが点滅している所が見えるかしら?

あの扉を出れば、非常階段へと繋がっている。

そこを一番下まで降りていけば地下に行ける。

地下に降りたら躊躇わず、真っ直ぐ進んで突き当たりのドアを開けなさい。

そしたら大学の正面門の方に出られるから。


俺達は一斉に非常階段への扉を目指し走り出す。

斎藤、大塚は扉に近かったお陰もあり、先に出口へと向かったようだ。

だか俺は怪我の影響もありうまく走れない。

当然大男がそれを見逃す筈がない。


おいおい。まさかここから出られるとでも?

全員まとめてぶっ殺してやる。


大男が迫ってくる。

このままでは追いつかれてしまう。

その時だった。


子供達には指一本触れさせない!

長井さんが大男に向かって本を投げつけた。

だが、大男はその巨体も相まって、ダメージを意に返していない。


長井さん何やってるんですか早く逃げて下さい。

俺が叫ぶ。


状況を説明しようとした。

でも秋山君は私の状況を聞いたらきっと助けに来ようとする。

少し話しただけだが分かる。

彼は自分の命を危険に晒してでも誰かの為ならば本気で怒るし、助けようとする。そんな男なんだ。

だけど彼を危険に晒してはいけない。

私の役目は、あの子達を無事に送り返す事。

子供を失う親の気持ちは、私も良くわかる。


鬱陶しい。

後で殺してやるから大人しくしてろ。

そう吐き捨てると大男は迷わず俺の方へと迫って来た。

まずは秋山。お前からだ。

よくも。よくも僕と父さんの絆を引き裂いてくれたなぁ。

クソッタレ。追いつかれちまった。

ダメだ斬られる。

もう抵抗する手段もない。

俺は覚悟を決め死を受け入れようとした。

だが、天は俺を見放してはいなかったらしい。

ギィヤァーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

甲高い声をあげて大男が叫びだした。


言ったでしょ。子供達には指一本触れさせないって!

目を凝らして見ると奴の太ももに木の破片が突き刺さっているでは無いか。

恐らく先程奴が壊した机の一部だろう。

しかもその破片を突き刺しているのは長井さんではないか。


今の内に逃げて。

こいつは私が抑えるから。


そんな事できる訳無いだろう。見捨てるなんて。そんな事、俺には出来ない。


何言ってんですか!

見捨てるなんて出来る訳ないでしょう。

もう誰も見捨てたくない。

あの時だって俺が見捨ててなければ今頃...。

あいつは...。


行きなさい。秋山君

考えたって時間は待ってくれない。

貴方達には未来がある。

だから生きなさい。

生きてここを出さない。

人生の先輩からのお願いよ。


すると大男が苦痛に悶えながら言葉を捻り出す。

このクソアマが舐めた真似しやがって。

先に地獄へ送ってやる。

大男が長井さんの首目掛けて斧を振る。


!!

長井さん危ない。離れて。


秋山君。

生きる。っていうのは常に誰かの犠牲の上で成り立つものよ。

その犠牲が私だったというだけの事。

自分の意思でやった事。

ただそれだけの事よ。


ザシュ。

奴の凶刃が長井さんの首を刎ねた。


う、うあーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

俺は、叫び声を上げながら非常階段を駆け下りた。

俺はまた死に一生を得たらしい。

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