掴んだ希望
登場人物一覧
秋山村史
本作の主人公。柿塚大学の法学部に通う1年生。昼寝していたら帰宅すべき時間である17時を過ぎてしまっていた。駅を目指し、闇の中を歩き続ける。普通の人と比べて感覚がズレている。
斎藤佑樹
柿塚大学の法学部に通う1年生。常に明るくハイテンションな性格で友達が多い。見た目と言動からわかるようにチャラ男だが根はとても真面目で毎日予習復習を欠かさず行なっている為、常に睡眠時間が短く目にくまが出来ることが当たり前になっている。かなりの心配性。
大塚謙信
柿塚大学のスポーツ健康学科に通う1年生
斎藤佑樹の友達。佑樹と話していたらいつの前にか帰るべき時間である17時を過ぎており、学校に取り残されてしまった。スポーツ万能で義理人情に厚く受けた恩は死んでも返すのがモットーでラグビー部に所属している。
長井環奈
柿塚大学の図書館で司書をしている女性。元々は市の図書館の職員だったが、結婚を機に退職していたが、子供が小学3年生になった事をキッカケに柿塚大学の図書館の司書として仕事を再開した。その為、17時までに帰らなきゃいけないなんて事を知らずに図書館が閉まる18時20分まで仕事をするつもりでいた為、人知れず大学に取り残されてしまった。昔から心臓が弱い。
謎の大男
先天性のアルビノらしく肌の色素が薄い。体格がよく斧を自在に使いこなして、主人公達を襲いくる。
殺しを楽しんでいるようだ。
はぁはぁはぁ。
頑張ってそんちゃん。もう少しで変電所の入り口に着くから。
息を荒れげながらも何とか階段を上がり、俺達は正門を目指して歩いていた。
しっかし、斎藤の作戦がうまくいくとはな。
俺寿命が少し縮んだよ。
でもナイス演技だったねそんちゃん。
お陰で佑樹が変電所から出る時間をうまく稼げていたし。
そう言ってもらえると嬉しいね。囮をやった甲斐があるってもんだ。
今思えばこの作戦自体かなり賭けだったな。
え?俺が囮になって大男の気を引くだって?
冗談じゃない。それじゃ俺一人だけ取り残されるじゃねーか。
まあまあ落ち着け。ちゃんと考えてあるから。
今からいう事をよく聞けよ。
まず、あの大男はかなり夜目のきく奴なんだと思う。
現に灯り無しで俺達の位置を正確に把握出来ているからな。
で恐らく大男の奴は変電所で待ち構えている。
ここまではいいよな。
ああ。
そこで、俺の考えた作戦はこうよ。
まず、鍵を見つけたら俺と斎藤は、部屋の隅に隠れる。
そして、鍵を秋山が取る。
鍵を取ったのを見計らって大男の奴が、部屋に入ってくると思うんだ。
それでお前と対面するわけ。
で秋山。
お前はとにかく時間を稼ぐのと同時に奴がこの大学でおきた事件に関わっているかどうかを聞いて欲しいんだ。
で奴とお前の会話をスマホの録音機能を使って録音してほしい。
そこまではいいが、お前達は何するんだ?
俺達はお前のサポートをする。
俺は鍵を貰い正門を開けに行く。
で謙信は大男にタックルをおみまいしてやれ。
お前のタックルが大男に通用する事はさっきので分かったからな。
了解〜。
だが、一つ疑問がある。何故俺が囮なんだ?
それと鍵をどうやってお前に渡すんだ?
大丈夫。今から説明するから。
大男は、お前に対してかなり殺意を剥き出しにしていた。
恐らく仮面を壊された事が奴にとってとても屈辱的だったんだと思う。
逆の立場で考えて欲しい。
今すぐにでも殺したい相手が目の前にいて、出口は塞いである。
相手は足を怪我していて、自由に動き回る事も出来ない。
ようやく袋小路まで追い込めた。
しかも周りにいたはずの仲間は何処かに逃げていった。
秋山を助ける奴は何処にもいない。
となれば、どれだけ時間をかけてようとこいつを殺して、鍵を奪えばもう誰もこの場所から逃げる事は出来なくなる。
となれば奴も自然と警戒心が薄くなる。
作戦の成功率が上がる。
どうだかなり理にかなっているだろ。
俺が囮になる理由は分かった。
たが、大男が異変に気づいたら?
奴は夜目のきく奴でしかも勘も鋭いんだぞ。
それに肝心の鍵を渡す問題は解決出来てないぞ。
そう。そうなんだよ。
万が一気づかれたらこの作戦は崩壊してしまう。
おいおいじゃあ危険過ぎるだろ。
やっぱりこんな作戦やめておくべきだ。
そこでなんだ秋山。
この作戦には秘密兵器があるんだ。
ひ、秘密兵器?
そう。なあ秋山。
袋持っているか?
リュクの中にコンビニ弁当用の袋ならあるが。
よし上出来だ。そしたら空き教室を探そう。
そこでその袋にチョークの粉を入れて欲しい。
?
何をするつもりなんだ。
大男も恐らくいつまでもお前の話には付き合ってくれないだろう。
痺れを切らして、殺しにくるかもしれない。
そこで、秋山。
チョークを詰めた袋を懐に忍ばしておいてくれ。
そして鍵を回収したら袋の中に鍵を入れてくれ。
そして、奴が襲いかかってきた瞬間。
その袋を奴の顔に向けて投げてくれ。
当たれば目眩しになるし、当たらなくても鍵の入った袋は入り口の方に飛んで来る。
安全に俺に届ける事が出来るし、奴の動作を一瞬でも遅らせる事が出来るだろ。
なるほど考えたな。
で謙信は、奴に袋が当たっても当たらなくても大男にタックルをかましてやれ。
分かった。
それで俺達は、大男が入ってきたタイミングで一旦その場を離れる。
大男の警戒心を緩める為だ。
無論かなり賭けになる。
大男に気づかれたら終わる。
でもノープランで行くよりも俺はいいと思うんだ。
まあ別に構わないが、絶対に守ってくれよ。
俺一応怪我人だし。
まあ安心しろって。
死なないようにちゃんとサポートするから。
そうだよ〜。
僕がしっかり守ってあげるからさ〜。
はぁ。
一抹の不安はあるが、斎藤の言うとおり、ノープランで行くよりかはマシか。
乗った。
僕も。
それじゃあ準備整えて行くか。
おう。
でもまさか、大男の正体が学園長だったとは。
驚いたよ。
いや寧ろ合点がいったよ。
待ち伏せもこの大学の事をよく知らないと出来ないし、何より俺達の名前を知っていた事に俺はずっと違和感を感じていた。
学園長ともなれば話は変わってくる。奴は狩りターゲットになりそうな奴を予めリサーチしていたんだろう。
立場上俺達の個人情報を閲覧していても怪しまれる事は無いだろうしな。
言われてみれば確かに僕たちの名前を知っているって言うのは不自然だったしね。
学園長だっていうならば自然と合点がいくね。
恐らく17時以降の出入りを禁ずるって言うのも奴が言ったのだろう。
狩りを邪魔されないようにする目論みがあったんだろうな。
奴はその立場を利用してこんな悪逆無道な事を続けてやがったのか。
そう思うだけで、胸に抱いていた怒りが増してくる。
絶対逃げ切るぞ。謙信。
勿論。
すると後ろから奴の怒号が辺りに響く。
貴様ら絶対に逃さんぞ。
全員まとめて皆殺しにしてやる。
なんと怒り狂った奴が走って追いかけてきているではないか。
足の痛みもお構い無しってわけか?
まずいな。このままだと追いつかれる。
頑張って。あと少しで出られるから。
気づけば出口は目と鼻の先だ。よしドアノブを掴んだ。後はこれを回すだけだ。
頑張れ俺の足。
逃さんと言っただろうが。
これでもくらえ。
奴が斧を勢いよく投げつける。
高速で何かが迫ってくる。
急げ謙信。何か飛んでくる。
分かってる。
このドア少し錆び付いてるから開けにくいんだ。
音が聞こえる。距離としてもう10メートルも無いんじゃないか?
うぉー。開けこの頑固ドア。
ガチャン。
うぁ。
いきなりドアが開いた。
その勢いに負け俺たちも倒れ込む。
ヒュンヒュンヒュン。
何かが頭上を通り過ぎる。
大塚が即座に立ち上がり俺に手を差し伸べた。
捕まってそんちゃん。
柿塚の怒鳴り声が響く。
悪運の強い奴らめ。
次は逃さん。
奴らに向けて斧を投げる。
まずいまた何か飛んでくる。
早く立ち上がらないと。
ズキ。
グ。
足が痛むがそんなの関係ない。
うぉーー。
大塚の手をなんとか掴み俺は立ち上がった。
大塚が俺の手を引っ張り、部屋を出た。
すかさず大塚はドアを閉めた。
ガーーーーン。
金属音があまりに響く。
あ、危なかった。
行くよ。そんちゃん。
肩貸して。
ああ。
行こう。
斎藤がいる正門へ。
俺達は再び歩き出した。
舐めやがって畜生が。
逃すわけ無いだろ。
柿塚は怒鳴り声を上げながら投げた斧を回収し、秋山達の後をおいかける。
何処に行こうとも必ず追い詰めて殺してやる。
足の怪我もある。そう遠くには逃げれない筈だ。
必殺の決意と共に柿塚は走りだした。
急いで逃げてきたけどどうやって正門まで行く?
やっぱり、図書館から行く?
あそこからなら正門まで近道出来るし。
いや図書館には行かない。
奴の裏をかく。
敢えて図書館に向かわずに2号館を経由してから行こう。
奴もかなり焦っている。俺達の怪我の事も考慮してすぐ図書館に行くと考える筈だ。
だから敢えて図書館に行かず、2号館でやり過ごしてから図書館に向かう。
それにこっからなら2号館の方が近いしな。一旦身を隠そう。
分かった。それじゃ2号館の方に向かうよ。
いや待ってくれ。
大塚。いい事思いついた。
賭けにはなる。でも成功すれば必ず奴の裏をかける。協力してくれるか?
勿論。何すればいいの?
まずはな。
分かった。うまく行くか分からないけどやってみよう。
頼むぜ。じゃあ2号館に行くか。
うん。
さあどう転ぶかな。
アイツら何処に行った?
やはり図書館か?
あそこは物が多いから隠れる事も出来る。
万が一見つかったとしても非常階段から逃げる事も出来る。
行くべきか?図書館に?
柿塚は焦っていた。
獲物1匹相手にここまで手こずったのは、あの学生以来だ。
だが落ち着くんだ。
あの時だって答えを急いだからこそ痛恨のミスを犯したのだろう。
自分の信条を曲げてまで獲物を追いかける羽目になったのだから。
冷静になってよく考えるのだ。
秋山は足に怪我をしている。大塚も秋山に肩を貸しながら歩いている筈だ。
つまり、二人ともそう遠くには行けない。
リスクも考えれば、図書館はすぐには行かない。
近くの教室で身を潜める筈だ。
となれば、この近くの教室がある場所といえば?
2号館だ。奴らは2号館に向かった可能性が非常に高い。
あそこなら開いている教室は限られてくる。
ふふふ。待っていろよ。すぐ殺しに行ってやるからな。
狂気の笑みを浮かべ柿塚は2号館へと歩みを進める。
ふふふ。着いたぞ2号館へ。
さぁ何処に隠れたのかなぁ?
ほらぁ恥ずかしがらず出ておいで〜。
わかるだろ。僕はこの場所の事を知り尽くしている。
空き教室の場所くらい当然把握しているんだ。
ここから出たって意味無いぞー。
どうせ何処に逃げてもお前達だけは必ず殺すって決めてるんだからなぁ〜。
警察に通報したって無駄だぞ〜。
警察は僕には逆らえない。
上層部の身近な人間を殺してやったからねぇ〜。
僕を裏切ったらどうなるのか。
ちゃんと身を持って味わって貰った。
だからいくら君達が訴えても聞く耳なんか持ってくれないよ〜。
ピカ。
ライトが光っているのが見える。
そこか。やっと追い詰めた。
君達はほんとよく頑張ったよ。
でもゲームには必ず終わりがくるものだからねぇ。
いつだって終わりは、一瞬の事なんだ。
思い切り扉を開ける。
!?
ば、バカな。
急いでライトのある方に向かう。
誰もいない。
ライトだけがおいであるだけのようだ。
完璧に裏をかかれた。
秋山ーーー。
大塚ーーー。
俺は、正門へと走り出した。
はぁはぁはぁ。
後ろ振り返ったが、奴の姿が見当たらない。
大塚。作戦が上手くいった。
良かった。
でも案外騙せるもんだね。
ライトを斎藤から貸して貰ってた甲斐があったね。
間違いない。
奴のライトが無ければ、恐らくここまで上手くは行かなかった筈だ。
とにかく図書館の方に行くぞ。
うん。
え。ライトを空き教室に置いて。反対の入り口から逃げる?
ああ。奴だって馬鹿じゃない。
恐らく俺達が裏をかいてくる事を読んでくると思うんだ。
かと言ってこの状態で図書館に向かうのは見つかった時のリスクがデカい。
そこで俺達は裏の裏をかく。
斎藤から借りておいたライトを使って奴を騙すんだ。
どうやるの?
ライトを教室の入り口の近くに置いて、奴に俺たちがここに隠れていると誤認させる。
奴がライトに気を取られている隙に俺達は反対側のドアから逃げる。
どうだ?
試してみる価値はあるかもね。
やってみよう。
再び俺達は図書館に辿り着いた。
非常階段を駆け下り、地下の扉を開け正門へと向かう。
お前ら見つけたぞ。
小賢しい真似をしやがって。
どうやら奴も正門の方に向かって来ていたらしい。
距離はそこまで近いというわけでは無いが、このままでは追いつかれてしまう。
バラバラに引き裂いてやる。
生きて返さない。
親も分からないような顔にしてやる。
俺にこんな事をした報いをそして後悔を味合わせてやる。
踏ん張れ俺の足。
もうすぐで正門に着くんだ。
大塚だって俺を支えて歩くのに精一杯なんだぞ。
頑張れ。俺。
ズキズキ。
グァ。
急な痛みに俺はその場に倒れ込んでしまった。
大塚もバランスを崩して倒れる。
そんちゃん大丈夫?
グァ。
痛すぎて立てない。
今までの無理が祟ったのだろう。
ダメだ。足に力が入らない。
その隙に柿塚に追いつかれてしまった。
ようやく。ようやくだな。
お前達の虚しい抵抗も終わりだ。
お前達を助けに来る者も危機を脱する為のアイディアもない。
あるのは、絶望と後悔だけだ。
さあ死のう。
恐る事は何も無い。
どうせ皆いずれ死ぬ。
死とは完成なのだから。
奴が両手の斧を振り上げる。
なすすべなど何も無い。
俺達は、ついに天に見放されたようだ。
斎藤。お前だけでも逃げ切ってくれ。
覚悟を決めた時だった。
ブゥーン。
エンジン音が辺りにこだまする。
柿塚もその音に気付いたようだ。
エンジン音?馬鹿な。職員は全員帰った。あの女も殺した筈。
ライトがこちらに近づいて来る。そして、スピードを上げてこちらに近づいて来た。
よく見るとこちらに向かって車が走って来ているではないか。
その子達から離れろ化け物め。
柿塚が異変に気づく。車だと。まずい轢かれる。
奴は咄嗟に身を翻した。
車は俺たちの前で停車し、窓から何と斎藤が顔をのぞ返せこう言った。
正門は開けた。早く後ろに乗れ。
何が何だか分からないが、とにかく乗ろう。
俺は最後の力を振り絞り、立ち上がる。
後ろのドアを開けて、大塚と共に乗り込み扉を閉める。
長井さん全員乗りました。
了解。じゃあ行くよ。
車は再び急発進する。
その声を聞いて俺達は驚いた。
長井さん生きていたんですか?
気を失ったお陰でね。
俺達は安堵した。良かった。やっぱり生きていたんだ。
柿塚は驚愕しながらも怒りを滲ませていた。
あの女あの時殺した筈なのになぜ生きている。
ちゃんと首を飛ばした筈なのによ。
あの時ちゃんと確認しておけば良かった。
後悔してももう遅い。車は正門へと向かい走り去って行った。徒歩で、しかも怪我した状態の柿塚はもうどうやっても車には追いつかない。
逃げられたのだ。
だが、焦る事はない。警察に頼った所で無駄だ。
落ち着いて、殺しに行けばいい。
まずは、駐車場に行こう。
柿塚は駐車場へとゆったりとした足取りで向かった。
俺達は正門を出て最寄りの交番を目指して車を走らせていた。
それにしても長井さん生きて良かった。
どうして助かったんです?
いやー私も良く分かって無いんだけど恐らく斬られる瞬間気を失って、そのお陰でうまい具合に斧を避けられたんだと思う。
それに相手もかなり興奮気味だったからろくに確認せず、貴方達を追いかけて行ったんだと思うんだ。
ほんと心臓が弱くて良かったと始めて思ったよ。
それにしてもあの大男の正体が、まさか学園長だったなんてね。驚いたわ。
ええ。僕達も奴の正体を知った時は驚愕しました。学園長がまさか一連の事件の犯人だったなんて。
そう言えば、佑樹とは何処で会ったんですか?
ああそれは。
俺が変電所を出た時、長井さんも丁度こっちに向かって歩いて来たんだ。
よし上手くいった。後は、正門を開けるだけだ。
コツコツコツ。
足音が聞こえる。
だ、誰だ。
その声もしかして、斎藤君?
え?
まさか長井さん!?
スマホを声の聞こえた方に当てる。
するとそこには、長井さんの姿があった。
長井さん。生きていたんですか?
あちらもこちらの姿に気づいたらしい。
斎藤君良かった。
無事だったのね。
そして俺は長井さんがいない間に起こった事について事細かに説明した。
そして、長井さんも何があったのか説明してくれた。
何はともあれ生きてくれて良かった。ずっと心配してたんです。
偶然とは言え助かったのなら良かった。
斎藤君達も無事なら良かった。
それで次はどうするの?
俺は正門を開けに行く手筈になってます。
分かった。そしたら私は車を取りに行ってくる。ところで秋山君達とは何処で落ち合うつもりなの?
秋山達とは、正門の方で落ち合うようになってます。
分かった。それなら斎藤君は、正門を開けたら図書館の入り口の方に向かって。
車を取ったら迎えに行くから。
分かりました。
もし俺を迎えたら図書館の近くで待機してもらえませんか?
あいつら多分図書館を経由して、正門に向かうと思うので。
分かった。
まずは各々の仕事を終わらせましょうか。
了解です。
てな感じでお前達を待ってたら奴に追い詰められているのを見て車を急発進させて助けたわけだ。
そうだったんだ〜。助かったよ〜。
斎藤がホッとした顔で言う。
それじゃあ最寄りの交番まで道案内を頼めるかしら?斎藤君。
任せてください。
街並みが見えてきた。
無事大学の敷地から出れたようだ。
いまだに現実とは思えない。
だが、俺達は生き残った。
それだけは実感として湧いている。
最寄りの交番まであと20分掛かるそうです。
斎藤が言った。
了解。
引き続き道案内をよろしく。
はい。
大塚は安堵からか寝ている。
そりゃそうか。疲れてる筈だよな。
気が抜けると眠気が襲って来た。
俺も少し寝よう。疲れた。
街灯の光を温かく感じる。
風を切り、光を浴びながら車は前に進んで行く。
時刻は午後10時35分。
静寂に包まれている筈の街並みが、眩く光っている。




