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第5話 家に帰りました

 清応49年4月22日。九王たちは、生家であり活動の拠点である理化学研究所へと帰還した。


「はぁー、やっとおうちに帰れました」


 九王は理化学研究所の敷地の端にある小さな建物の中でくつろぐ。大きさは学校の教室程度しかなく、二人の充電スペースとメンテナンスロボ、多数の実験機器とゴミで埋めつくされている。九王はその隙間に置かれた事務椅子に座り、くつろいでいた。


「みこね。くつろぐのはいいけど、さすがにレベル3のメンテナンスをしないと体に不調が出るよ」

「分かってますよ……。ですが、その前にデータの解析をしちゃいましょう」


 九王は椅子から立ち上がり、自身の胸部をさらけ出す。九王の素肌はなるべく人間の肌に近くなるように作られている。ハリ感がありながらも外部からの衝撃に耐えられるように作られた、特別製のシリコーン素材だ。

 その胸部のやや上、胸骨の一番上の部分がパカッと開く。そこには数種類の有線を繋げられるコネクタが存在した。少し古い規格から、最新の規格に合うように設計されている。

 九王はテーブルの上に鎮座している、超万能解析プロトコルがインストールされている小型の量子スパコンから伸びるコードを探し出し、それを自分の胸部に差し込んだ。

 すると量子スパコンが起動し、自動的にデータの転送を開始する。


「なんで無線でできるようにしなかったんですかねぇ?」


 九王はデータの転送中、そのようなことを口に出す。


「仕方ないんじゃないかな。大規模なデータを転送するには、無線通信よりも物理的に接続した方が早いのは昔からだし。それに、今の環境だと、無線通信もまともにできないじゃないか」

「それは分かっているんですが……。私だって恥じらいというものがあるんですよ?」

「みこね以外に見られる人はいないじゃないか」

「ウッマがいるでしょう?」

「僕は馬だからね。そもそも特別な感情を抱かないように設計されているものだよ」


 そんな話をしていると、データの転送が終わったようだ。

 九王はコードを自分から引き抜き、次はウッマに乗せられていた計測機器に接続する。こちらも、ものの数分程度で転送が完了した。


「それでは、プロンプトを設定して……」


 九王は、量子スパコンに『怪奇現象、もしくは心霊現象と思われる映像や音を抽出して』と打ち込む。


「ひとまず、これで放置ですね。それじゃあメンテ君、出番ですよー」


 九王はスパコンから離れ、壁に設置されていたメンテナンスロボの電源を入れる。メンテナンスロボのメンテ君は華奢な姿をしており、動力付きキャスターで水平移動する。その手は人間のような五本指ではなく、モーター内蔵の電動工具のようだ。


「メンテ君、起動しまシタ。ゴ用件をドウゾ」

「今日は私、九王みこねとウッマに対して、レベル3メンテナンスをしてください」

「了解しまシタ。それでは衣服を脱ぎ、処置台へ横になってくだサイ」


 まずは九王からのメンテナンスから始まる。九王は服を脱ぎ、一糸まとわぬ姿となる。体の表面にはいくつか薄い筋が見えており、ここから外皮装甲を剥がすことができる。


「まずはバッテリーの状態を確認しマス。背中の皮膚を外してくだサイ」

「はーい」


 九王はうつ伏せになり、背中を上にする。そして外皮装甲のロックを外した。メンテ君が外皮装甲をずらし、バッテリーの状態を確認する。


「電圧、電流共に異常ナシ。目視による損傷ナシ。周辺機器の異常ナシ。問題ありまセン」


 次にメンテ君は、バッテリーを隠していた外皮装甲を確認する。


「皮膚に放射線によるダメージは見られまセン。劣化も許容範囲内。非常に良好デス」


 レベル3のメンテナンスは、放射線による影響がないかを確認するものだ。

 こんな感じで全身の外皮装甲、そしてその直下にある重要部品に放射線の影響が出ていないかを確認する。

 約1時間かけて、九王は全身の状態を確認した。


「これにてメンテナンスは終了デス。今回のメンテナンスの結果、放射線による異常は確認されませんデシタ」

「ありがとう、メンテ君。次はウッマにもしてあげて」

「了解デス」


 そういってメンテ君は、今度はウッマの方に向かう。

 九王は処置台から降りて、服を着る。ウッマの検査が行われている横で、九王は量子スパコンの結果を見る。


「結果が出ていますね。結論から言えば、何かしらの心霊現象である可能性が64%あるそうです」

「64%かぁ。それって微妙じゃない?」


 メンテナンスを受けているウッマが、愚痴のように返答する。


「64%もあれば、心霊由来の現象が一つくらい入っているかもしれないですよ?」

「問題は、その心霊現象がどれなのかってことだよね?」


 ウッマは脚部のメンテナンスを終え、次は乗せている計測機器のメンテナンスをしてもらっていた。


スパコン()が言うには、小金井市の屋敷で記録された、石同士がぶつかる音がそれに該当するのではないかと推測しています」

「あぁ、アレね……。確かに不可解ではあるけれど……」

「とにかく、私たちだけでも、心霊現象は確認出来ているんです。このまま調査すれば、何かしらの情報が手に入ります!」

「心霊に力を入れるのはいいけど、僕たちが存在する建前は地球環境の測定だからね? 忘れないでよ?」

「もちろん、そんなことは分かっています。いやぁ、これで次に行く心霊スポットも楽しみですねぇ」


 九王は内心喜んでいるようだった。


「メンテナンスが終了しまシタ。結果を報告します」


 メンテ君が二人の状態を確認し、最終報告する。


「今回のレベル3メンテナンスで確認された不具合はありませんデシタ。比較的高濃度の放射線を浴びているものの、部品の劣化はそこまでありませんデシタ。個別の記憶媒体や測定機器に異常は見当たらず、今後の活動も問題なく行えると思いマス」

「ありがとうございます、メンテ君。また次もよろしくお願いしますね」

「ハイ。では、シャットダウンしマス」


 そういってメンテ君は、自分の定位置に戻りシャットダウンした。


「これでしばらくは外部活動できますね」

「そうだね。次はどの辺りに行くの?」

「次は茨城県方面を目指そうと思っています」

「分かった。じゃあしばらくは充電期間になるね」

「はい。ではお布団に入っておやすみしましょう」


 二人はそれぞれの充電場所でバッテリー(体力)を蓄えるのだった。

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