第49話 別れは突然でした
九王たちは、ジェンジュン側が用意してくれた小型の人員輸送船に乗り込む。
『現在、戦艦4隻は地上に向けて降下中。予定ポイントまで35分』
『誰か地球の座標系のデータ持ってるヤツいないか?』
『フライホイール始動、バッテリー始動、現在エンジンは15%で稼働中』
『搭乗員の確認を。現在お客さんが乗ったところだ』
『技術部長からのお達しだ。技術員をあと24人派遣する』
『地球の座標系ならあるぞ。今送信する』
『24人の増員だと? 無茶言いよる』
九王たちが輸送船の席に座り、腰のシートベルトを締める。
その時、九王が一つ尋ねる。
「岩手に行く前に、途中寄っていきたい場所があるんです」
「寄りたいところ? どこだ?」
小堀が聞き返す。
「今は……、霞ヶ浦の近くを移動していると思います」
「移動してる……? あぁ、ウッマか」
状況を理解した小堀が、パイロットへ連絡を取る。
「すまない。岩手に行く前に、ちょっと地上で拾っていきたい仲間がいる」
『仲間ですか? 場合によっては不可能な場合がありますが……』
「だ、そうだ。九王君」
「ほぼ可能なんですよね? ならお願いします」
「すまないが、お願いしたい」
『分かりました。場所は?』
「現在霞ヶ浦近くを移動していると予想される。詳しい場所は……、近くに行った時にこちらから誘導する」
『了解』
ひとまずこれでウッマと合流することができるだろう。九王は一安心した。
数分後、輸送船が揺れる。
『こちらパイロット。これより地球へ降下する。飛行予定時間は約1時間』
そんなアナウンスが流れている間にも、輸送船は格納庫内を移動し、発進場所まで装置により誘導される。
そしてジェンジュンの外装が開き、宇宙空間へとゆっくり送り出される。
『輸送船KFL-0025番、発進します』
装置から切り離され、輸送船は宇宙空間へと漂う。そのままエンジンが始動し、ゆっくりと地球に向けて推進する。
「待っててください、ウッマ……」
発進から40分ほどが経過する。輸送船はすでに大気圏内へと突入している。大昔のスペースシャトルのように重力に引っ張られることがなく、大気圏での断熱圧縮が発生しない。いわゆる滑空状態で地表へと降りていく。
『えー、現在、旧羽田空港の上空2000メートルを飛行中。暫定予定地点まで、あと10分』
「九王君、そろそろウッマと連絡を取ったほうがいいんじゃないか?」
「そうですね」
そういって九王は、ウッマとしか繋がらない周波数帯で呼びかける。
『ウッマ、聞こえますか?』
『その声はみこね? やっぱりアレはみこねが呼んできたんだね?』
『戦艦が見えていましたか。そうです。予想より時間がかかると思いましたが、意外とあっさりと呼ぶことができました』
『それはありがたい話だね。それで、みこねは今どこに?』
『今、東京の上空を飛んでいます。ウッマの現在位置を教えてくれれば、そちらに向かいます』
『分かった。共有マップで現在地を共有するね』
するとウッマから現在地の座標が送られてくる。それを確認した九王は、小堀に声をかける。
「小堀さん、常磐自動車道に沿って北上するように指示してください」
「了解。えーと……」
小堀が手元にある銀河艦隊仕様の地球地図と照らし合わせて、パイロットに指示を出す。
そうしてウッマのいる場所まで近づいてくる。
「相手は馬型の機械だ! ホイストの安全確認をしっかりしておけ!」
回収を担当する隊員が、そのように指示を飛ばす。
やがてウッマのいる上空までやってきた。眼下には朽ち果てた高速道路と、ウッマがいた。
『目標を確認。ホバリングモードに移行する』
輸送船がウッマの上空10メートル程度の場所に陣取る。輸送船のドアを解放し、隊員が降下を開始する。
九王はたまらず、ドアに近づいてウッマを直接視認する。真下にウッマが待っていた。
「ウッマ……」
その時だった。パイロットが叫ぶ。
『地中から未知のエネルギーを感知! こちらに接近中!』
九王にも聞こえた。地鳴りの音が。
「地震……!」
地面がグラグラと揺れ、ウッマは思わず倒れ込みそうになる。降下している隊員も危険と判断し、ホイストを止める。
地震が発生して十数秒経過した時、ウッマの足元に異変が起きる。地面が裂け、揺れと共に大きくなる。そして不運なことに、その裂け目はウッマのいる場所で起こる。さらにウッマは高速道路の陸橋部にいたため、簡単に足元が崩れて地面へと消える。
「ウッマ!」
九王は思わず身を乗り出す。しかしそれを隊員に止められる。
「危険です! いったんこの場から離れます!」
「嫌です! ウッマが! ウッマがいなくなってしまいます!」
しかし無情にも九王は船内へと無理やり入れられ、輸送船はその場から上空へと移動する。
それから1時間ほど経過して、状況が収まったのを確認したのち、隊員が地上へと降りてウッマの様子を探す。
しかし残念なことに、ウッマの部品一つすら見つからない。おそらく地面にできた大きな裂け目に落ちたのだろう。隊員は回収を諦めて、輸送船へと戻る。
「ウッマは……? ウッマはどこにいるんですか!?」
「すまない。我々の手ではなんともできないんだ」
隊員と入れ替わるように、小堀がやってくる。
「もう現地で作業が始まろうとしている。九王君がいないと作業が始められない。ウッマのことは残念だと思うが……」
小堀が申し訳なく言う。
「……いえ、これは仕方のないことですから」
九王はロックされたドアの前で手を合わせた。彼女なりの決別を示したのだろう。
「行きましょう。ウッマもそれを望んでいるはずです」
「……分かった」
こうして、輸送船は岩手へと進路を取る。




