第43話 別れを惜しみました
シンとシュートリヒは、シンの乗ってきたシャトルに乗り込む。
一方で九王と小堀、ウッマは、小堀が乗ってきたシャトルに乗り込もうとした。しかしここで問題が発生する。
「さすがにウッマはスペース的に乗せられないか……」
ウッマは九王たちに比べて巨体であるため、小堀の乗ってきたシャトルに乗せられないのだ。
「どうしましょう……?」
「後ろのシステムコンピュータを下ろせば何とかなるかもしれないが……」
そのような話を九王と小堀がする。
その後ろで、ウッマはある決断をした。
「みこね、僕は地球に残るよ」
「ウッマ?」
「僕も宇宙に行きたかったけど、そもそも人間中心の工学デザインの中で僕がいる場所なんてないよ」
「そんなことはありません。ウッマは大切な仲間で、唯一の家族です。ウッマも連れて行きます」
「無理だよ。僕は宇宙に行けない」
「ウッマ……」
九王の顔が思わずクシャッとなる。泣き顔だが、涙は出なかった。
「みこね。僕は一人で岩手に向かうよ。みこねがいなくても、僕たちはずっと一緒だよ。みこねは僕を信じて、僕はみこねを信じて、再会できる時を待とう」
「……はい」
こうしてウッマは地球に残り、一人で岩手県へと向かうことになった。九王が第185突撃調査隊と交渉し、地球に戻ってくることを信じて。
「ウッマ、必ず戻ってきます。ですから、必ず会いましょう」
「うん、必ずね」
二人の約束が交わされたところで、小堀はシャトルを発進させる。
九王には分からない未知のエンジンを使用して、シャトルは反重力的に地上から飛び立つ。
そのまま二つのシャトルはぐんぐん上昇していき、雲を突破し、やがて漆黒の宇宙へと到達する。
「宇宙までこんな簡単に来れるなんて……」
「銀河艦隊では標準的な技術だ。宇宙は過酷な環境だからな。技術進歩の停滞は文明レベルの後退と言っても過言ではない」
シャトルはスイスイと宇宙空間を飛翔し、やがて一点のまばゆい光へと進路を取る。
「あの光っているのが、俺たちの母艦ジェンジュンだ。ジェンジュンから調査隊の司令部に連絡を取ってもらう」
『だが問題は、九王の存在だろうな』
通信でシュートリヒが会話に割り込んでくる。
『それで、どうするのか考えているのかい?』
シンが小堀に聞いてくる。
「それがな、何も考えてない」
『おいおい、そんなので大丈夫なのかよ?』
「まぁ普通に考えればマズいだろうな」
そういって小堀は、自分のパソコンをシャトルのコンピュータに接続する。
「そうだな……。こんなのはどうだ? さっき言ったように、俺は俺の体を捨てるつもりでいる。これを使ってみる」
「と、言いますと?」
「俺の体を人質に使って相手から要求を引き出すんだ。これでも身体適合レベルはレベルB-1だからな。九王君に分かりやすく言うなら、中の上くらいの肉体を有している感じだ」
『だが、貴様の人生成績はレベルB-3らしいが、それでどうやって対抗するというのだ?』
「それ言ったらお終いだろうがよ」
シュートリヒからの指摘に、小堀は思わず鈍い返事をする。
「とにかく、俺たちはジェンジュンの近くで俺の肉体と引き換えに協力をする取引を行う。ついでに九王のことを認めてもらうことも盛り込んだ上でな」
『要求に対して脅迫の内容が薄くないか?』
『正直無理な気がする』
シュートリヒとシンが無慈悲な意見を入れる。
「そんなの分かって言ってるんだよ。余計なチャチャ入れんな」
「いや、脅迫内容ならもう一つあります」
「何かあったか?」
「ソルレイバーストの脅威を場に召喚します」
『それは……』
九王の提案に、三人は言葉が出なかった。
『それは魅力的な提案なんだが、果たして脅迫の内容として正しいか甚だ疑問だぞ』
「その通りだ。ソルレイバーストだって、俺たちの味方をしているわけではない。そんなもので要求を吊り上げるのは、困難しか生まないぞ?」
「それでいいんです」
「えっ?」
「ソルレイバーストは、敵でも味方でもないからいいんです。そこにあるだけで我々の脅威となり得ます。偽りの餌として存在してくれれば、我々の目的は達成しやすくなりますから」
『ブラフ、ねぇ……』
シュートリヒは少し考える。
「ブラフとして利用するにしては、少々気分屋な交渉材料だな」
「ですが、一瞬で全てをなくなるような存在を放置するわけにはいかないでしょう?」
若干冷や汗をかく小堀に対して、九王は勝ち誇ったような顔をする。
「……まぁ、それでやるしかないか」
やるべきことは決まった。あとは実行に移すのみである。




