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オカルト・アポカリプス~人類なき後の地球における心霊現象の発生について~  作者: 紫 和春


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第34話 それは出来心でした

 時刻は深夜26時過ぎ。心霊現象もパタリと止まってしまい、完全に無の時間が過ぎていく。


(こうなってしまったら暇ですね……。心霊現象が起きなければ、観測を続けている意味もありませんし……)


 小堀にダル絡みをしようとも思ったが、すでにダル絡みした後なので、寝袋に頭からかぶっている。それだけ九王の心霊話が嫌だったのだろう。

 九王は観測を止めようと考えた。だがそれでは面白くない。


(何か心霊現象が発生する面白いことは……)


 その時、九王は一つひらめく。


(もっと心霊現象が発生すること……、つまり降霊術をやればいいんですよ!)


 九王はすぐに内蔵されているストレージにアクセスする。「降霊術 簡単」と検索し、オフラインのネットにダイブした。

 すぐに結果が表示される。こっくりさん、ひとりかくれんぼ、百物語、ヴィジャボード、ドライ・ボーンズ……。

 どれも手間がかかりそうで面倒そうに感じる。

 そんな中、ある二つの方法が紹介されていた。合わせ鏡とひとりにらめっこである。


(これならいけそうですね)


 九王は、自分の中にある計測機器のみをデータ連携から外し、呪物を掘り返した瓦礫のもとに行く。掘り返した際に、鏡とロウソクがあったのだ。

 割と小さい鏡2枚とロウソクを入手すると、他の計測機器と再同期させて観測を続ける。


(まずは合わせ鏡からですね)


 合わせ鏡は、そのまま2枚の鏡を向かい合わせに配置する、とてもシンプルな方法である。ロウソクは鏡同士の間に火をつけた状態で入れるという、ある種の追加効果のような役割を持っている。

 九王はロボットばりに、正確に2枚を向かい合わせにした。説明上はこれで降霊術が成立するらしい。


(こんなので何か起きるんでしょうか……?)


 九王は横から鏡の中を覗いてみる。しかし特に変哲のない、無限に等しい世界が広がっているだけであった。


(まぁ、都市伝説ですし、こんなものですかねぇ……。そうなると、ロウソクを立てたほうが良さそうですね)


 そういって九王は一度鏡を置き、ロウソクを手に取る。九王の指先に埋め込まれている高圧放電装置を展開し、アーク放電による着火を行う。

 ロウソクに火が着き、ぼんやりと小さな明かりがほんの小さな範囲に広がる。

 熱によって溶けた蝋を地面に垂らし、固まる前に素早くロウソクの底を接着させる。これでロウソクは自立する。

 それを挟みこむように再び鏡を向かい合わせる。ロウソクの光が鏡の間で反射し、幻想的な光景を生み出すだろう。

 九王はロウソクの炎をジッと見つめる。すると視線が炎のみに集中していき、そのほかの光景がだんだんと鈍くなっていく。

 そして炎は、風がないにも関わらず不気味にユラユラと揺れ出した。ゆっくりと、誰かの手の中で踊っているようだ。


(何か、ゆったりとした、まどろみにいるような……)


 次の瞬間、九王はロウソクから目をそらす。


(危ないところでした……。何かが私のことを引きずり込もうとしたような……、そんな感覚がしました……)


 九王はロウソクの炎を消して、次の降霊術を試してみる。


(次は、ひとりにらめっこですか。用意するものがあるそうですが、今回は省略しましょう)


 本来なら水を張った桶と、紙とペンを用意する必要がある。が、3つともないため、水を張った桶は鏡に、紙とペンは代用せずに行うことにした。


(えぇと、月明りのもと呪文を紙に書き、一度紙を水に曝して、その呪文をなぞりつつ口に出し、なぞった指で顔をなぞり、にらめっこの開始の音頭をとる。そのまま水面を覗き込んでいると、何かが起こるとされている……)


 九王はこれを、現状手元にあるもので再現する。

 紙とペンがないのでこの工程はすっ飛ばし、呪文を口に出す。


「ソシソアカ、ミクニツクモ」


 そのまま水面代わりの鏡に顔を写し、開始の合図を口にする。


「にらめっこしましょ、笑うと負けよ、逃げても負けよ、あっぷっぷ」


 鏡に写った自分自身とにらめっこをする。九王は絶対に負けない自信があったし、むしろ心霊現象が起きるのなら負けてもよいと考えていた。

 そうして睨み続けること数分。急に加速度センサーがクラクラ、グラグラと体が揺れるような動きを検知した。

 だが、九王は体を一切動かしていない。センサーの感知した数値と体中にある関節のセンサーが不一致を起こしている。


(な、なんなんですか、これ……)


 一瞬データの方に意識を集中させたことで、鏡面の様子が分からなくなる。しかし、その瞬間にはっきりと動いた( ・・・)

 九王の顔が、自身の顔がグニャリ、またグニャリと崩壊していく。皮膚が剥がれ落ちるような状態から、やがて骨格全てがバラバラになっていった。

 そして顔のパーツが鏡の向こう側へと落ちていって、鏡面には何も写らなくなった。真っ暗闇だけが存在していた。

 その時には、九王のCPUの使用率が99%を超えていた。明らかなオーバーヒート状態である。


(な、なんなんですか……、これ……!)


 九王にはオーバーヒートは痛みとして感じている。人間で言うならば、相当な頭痛ということだ。

 そしてこの状態に耐えられなくなった九王は、鏡から顔をそらす。その瞬間、オーバーヒートも止み、加速度センサーとの不一致も解消された。


(この感じ……。前にも感じたことがあります……)


 九王は先ほどのデータを確認してみる。だがそこにあったのは、破損して閲覧出来ない状態になった映像ファイルと、映像は写し出せるが何も異常がない映像ファイルだった。


(また、私だけの記憶( ・・・・・・)が生まれました……。)


 そしてまた疑問に思う。


(記憶?)


 データはフラッシュメモリに蓄積されている電子の有無によって決まる。極限までそれを拡大して見れば、絶縁された薄い膜を電子が無理やり移動することによって0か1かを判別している。それはまるで、一種の量子力学の世界だ。ただし、厳密な量子力学とは異なる。

 それと同じように、九王のストレージ以外に、記憶とも呼べるデータが九王内部に存在しているのだ。


(私の中に、未知の技術でも詰まっているんでしょうか……?)


 緊急セキュリティフルスキャンを行いながら、九王はそんなことを思うのだった。

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