第30話 正体が判明しました
「おぉ、この穴とかそれっぽいですよ!」
山の急斜面をものともせず、九王は縦横無尽に走り回る。そして急斜面に出来たくぼみを、オオツチザルの巣と主張する。
「確かにそれっぽいが…、巣っていうよりは土砂崩れで出来たくぼみじゃねぇか?」
小堀は少し遠くから様子をうかがう。実際にくぼみのように見えるだろう。ちなみにウッマは急斜面すぎるが故に登ってこられず、麓で待機している。
「これはオオツチザルが巣を隠すために埋めたあとでしょう。じゃなかったら、こんなに綺麗なアーチ状にはなりませんよ」
「いや、なるだろ……」
小堀の言葉を無視して、九王は罠を仕掛ける場所を探す。
「こことかいいですね」
勝手に罠を仕掛け、アクションカムで見えるように配置する。これを慣れた手つきで設置しているのだから驚くに値する。
1時間もすれば、罠とカメラのセッティングは完了だ。
「さて、映像も同期させましたし、ここから張り込みですよ!」
「元気だねぇ……」
九王と小堀は山を下り、ウッマと合流する。
そして臨時の野営地を設営して臨戦態勢となる。時刻は16時を回ったところだ。
「ここからは徹夜で観測ですよー!」
「せめて静かにしてくれ……」
小堀が九王に文句を付ける。が、この作戦は九王が主導なので強くは言えない。
とにかく、静かに根気強く待つことが要求される。
18時。辺りが暗くなってきた。まだカメラに動きはない。
「辛抱……、辛抱……」
九王が祈るように呟く。おそらく本当に祈っているのだろう。オオツチザルが出現することを。
時刻は22時。やがて空に雲が出てくる。三日月が隠れ、辺りは真っ暗闇になった。
「むむむむ……」
「変な鳴き声出すな」
もはや虫みたいになっている九王のことを、小堀が鎮める。
「闘牛を相手に怒りを鎮める作業している気分だぜ……」
「みこねは熱中すると、こんか感じになる場合があるからね」
ウッマが注釈を入れてくる。
小堀はしかめっ面をするが、文句を口にすることはなかった。
そして時刻は25時になろうとしていた時だった。最初に異変に気が付いたのはウッマである。
「うん? 何か動いた気がする」
「本当ですかっ?」
九王は声を抑えつつも、驚きを隠せなかった。
「12番カメラ。何かがいる」
ウッマの報告に、九王もカメラの映像を切り替える。
映像は真っ暗で何も見えない。暗視モードでも見えないのだ。すぐに赤外線モードに切り替える。
すると画面の隅に、何か白い影が見えるだろう。熱源がある証拠だ。
「大きさは少なくとも1.5m、ここは巣の目の前です。小堀さん! すぐに行きますよ!」
九王は小堀の肩を揺すって、すぐに走り出す。
「ちょ、おい待ってくれ……」
小堀はヨロヨロと立ち上がる。当然だ。真っ暗闇のせいで小堀には何も見えていないのである。いくらサイボーグとはいえ、赤外線カメラは積んでない。
そんな小堀を無視するかの如く、九王は山の急斜面をダッシュで登る。その姿は、まさに人間離れしたアスリートのようだ。
急斜面を登っている間も、同期させた映像で観測を続ける九王。まだ12番カメラの視界に映っている。
そうして昼間に設置した場所に到着する。が、数秒遅かったようで、その時にはすでに12番カメラの視界から熱源は消えていた。
九王は素早く赤外線カメラに切り替え、周囲を見渡す。地面を見てみると、わずかに熱を帯びた足跡があった。大きさはおよそ40cm。間違いなくヒト以外の何かだろう。
足跡の先を見てみると、枯れた木々の隙間に熱源があるのが見える。そしてそれは移動していた。
(見つけましたよ……!)
九王は熱源に向かって走り出す。その距離はどんどん縮まっていくだろう。
10m、5m、1m。
九王が手を伸ばす。すると硬い何かに触れた感触がする。熱源と一体化した硬い何かに。
「えぇーい!」
九王はそのままタックルし、熱源を捕獲した。
「やりました! オオツチザル確保です!」
そういって小堀が獲物に目をやると、それは巨大な背嚢だった。
「あ、れ?」
その時、雲が切れて月明かりが照らされる。九王のそばにいたのは、巨大な背嚢と、異質な鋼鉄製の身体拡張パーツ。そして地面に転がったおじさんである。
そのおじさんは何故かほぼ裸。身に着けているのはブルマのみという、異様ないでたちであった。
「えっ……?」
九王は困惑の声を上げるのだった。
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「私は5代目玄十郎といいます」
ブルマ一丁のおじさんが、正座をしてそのように自己紹介する。
その玄十郎を取り囲むように、九王たちは立っていた。
「えーと、玄十郎さん? は、あそこで何をしていたんですか?」
「あの辺りには我が一族の宝物庫があります。文字通り、宝物を保管する倉庫です」
「その宝物庫に用事があったんだね?」
「えぇ、今回は1ヶ月分の食料を取り出そうと思っていたのですが……」
そういって九王のほうを見る。
「そこのお嬢さんに邪魔されてしまいましてね」
「それは……ごめんなさい……」
九王は素直に謝る。
「それで、オオツチザルの正体は玄十郎さんってことでいいの?」
「都市伝説になっているのなら、それはおそらく私です。先々代からそのような噂は立っていました」
「そうなんですね……」
九王は思いっきり凹んでいる。
「まぁ、いいんです。私の一族は変な目で見られるのは慣れています。ですが、死んでもここから離れるわけには行きません。ここに住み、ここで死ぬのが、我が一族の唯一の掟ですから」
こうして玄十郎は、巨大な背嚢を背負って山の中へと消えていく。
一つの疑問が解決し、様々な疑問を残していった一件であった。
そんな中、九王はかなり落ち込んでいた。
「みこね、落ち込むことはないよ。次に活かせば大丈夫」
ウッマは九王のことを慰める。
「うぅ……、残念です……。まさかオオツチザルの正体がただのおじさんだったなんて……」
「反省しているんじゃないのかよ」
小堀は思わずツッコんでしまう。
おそらく九王は本気でUMAを探していたのだろう。そしてその正体が、何の変哲もない人間だったというのが、さらに落ち込み具合を加速させたはずだ。
「でもまぁ、結局怖いのは人間だったってオチかな……」
こうして九王たちのUMA捜索は終了したのだった。




