第26話 ちょっとピンチになりました
「貴様は……、第4銀河艦隊の連中か?」
集団の長と思われるサイボーグが、小堀に尋ねる。
「あっ、いやー、どうっすかね~……」
小堀は全力でとぼけている。九王は本当のことを話そうとしたが、喉に出かかったところで止めた。
(もし本当に第4銀河艦隊と第2銀河艦隊が敵対状態にあるというなら、ここで真実を話すとすぐに攻撃される可能性があります。第4銀河艦隊所属の小堀さんと行動を共にしている私たちは、当然第4銀河艦隊の仲間と判断されて攻撃を受けるかもしれません……)
この間、0.02秒。おそらく賢明な判断を下した。
しかし、ピンチな状態であるのは変わりない。
「貴様、所属を言え。これは銀河艦隊グレンバーケン戦闘条約における、所属確認行動による武力衝突回避条項に基づく確認だ」
「えぁー……」
そのようなことを言われても、なお回答を拒否しているように見える小堀。よほど答えたくないのだろう。
「小堀さん、所属を言わないとヤバいんじゃないですか?」
「それはそうなんだが……」
相手もだんだんと苛立ちを見せている。
「オラ、早く所属を言えよ」
「ビビってんのか?」
「こっちだって急いでんだよ」
敵からの野次が飛んでくる。それに比例するように、小堀の顔がどんどん青ざめていく。
すると、取り囲みの外から、誰かが声を上げた。
「何が起きている?」
小堀の前に割って入ったのは、周りにいる敵よりやや豪華な服装をした将校である。
「なんだ、第4銀河艦隊の人間か。そっちは……原住民か?」
その将校は、小堀を見るなり第4銀河艦隊の所属であることを言い当てた。
「なるほどな。大方敵対関係にある兵士に自分の所属を明かせば、すぐにでも戦闘行為が発生するとでも思っていたのだろうな。安心しろ、我々第2銀河艦隊は第4銀河艦隊と争うつもりはない」
「ほ、本当か?」
「あぁ。で、貴様は第4銀河艦隊所属で間違いないか?」
「そ、そうだ」
「そうか。原住民もいる、銃を降ろせ」
将校の指示により、敵兵は銃を降ろす。
「威圧させたようで悪かった。私は第2銀河艦隊第144調査艦隊所属のパウロだ。現在はこの周辺を調査している。我々もこの地球に入植しようと考えているところだ」
「第2銀河艦隊も? それじゃあ結局俺たちと目的がかぶっているじゃないか。結局敵同士ってわけだ」
小堀は悪態をつくように言う。
「それは第4銀河艦隊が我々を仮想敵とした上で軍拡しているからだろう? 軍拡には相応の対価が支払われる。それを良く理解せずに軍拡している上層部に文句を言ったらどうだね?」
「それは……」
小堀は言葉に詰まる。
「まぁいい。それよりも、そちらの人間は原住民か?」
「私のことですか?」
パウロは九王の存在が気になるようだ。
「私は特定環境把握ヒューマノイドの九王みこねです。こちらは馬型ロボットのウッマです」
「よろしく」
「ほう、ロボットなのか。地球の原住民もなかなか高性能な機械工作技術を持っているようだな」
「実際には人類は滅亡しているので、持って『いた』が正確な表現ですね」
「……まぁいい。我々は原住民や地球環境に危害を加えるつもりはない。平和的に入植したいのでね」
「それは構いませんよ。私にはその決定権は存在しませんので。あなた方が自由に決めることだと思います」
「ふむ、それはその通りだな。ならば自由にさせてもらおう。だが、第4銀河艦隊の連中が何と言ってくるかは分かりきっていることだがな」
そういってパウロは顎で敵兵に指示を出す。敵兵たちはゆっくりと茂みの中へと消えていく。
「では我々はこれで失礼しよう」
「あ、ちょっと待ってください。私たちの移動手段であるタイヤがパンクしたんですが、これはあなた方の手によるものですか?」
九王は臆することなくパウロに尋ねる。
「どうなんだ?」
パウロは班の兵士に聞く。
「はっ、確かに我々の手によってパンクさせました」
「ならば弁償をする必要がある。少し待っていろ」
パウロはどこかに無線で指示をする。数分後、空から何かがやってきた。巨大な無人のマルチコプターである。どうやらタイヤ4本分を空輸してきてくれたようだ。
「これで大丈夫か?」
「どうなんでしょう? 小堀さん、分かりますか?」
「あ、あぁ……」
小堀は少しビビった状態で、タイヤの寸法を確認する。
「……大丈夫だ。ホイールの大きさまで完璧に合っている」
「そうか。ならば我々は先を行く。では」
そういってパウロたちは道路脇の茂みへと消えていった。
九王は終始普通の対応をしていたが、小堀はそうではないようだ。
「お前……、あんなヤツ相手によくそういう態度取れるな……」
「私は必要なコミュニケーションを取っただけですよ」
九王の言葉に、小堀は大きなため息を吐く。
「つーかさ、第4銀河艦隊のことを見捨てたのか? 先に入植することを決定したのは俺たちのほうだぜ?」
小堀の文句に、九王は空を見上げて返す。
「私たちは圧政を強いられる側です。私たちのことを守ってくれる国家も、武力も存在しません。ですから、敵味方を選ぶ権利すらないのです。深い意味はありませんよ」
その澄み切った視線に、小堀はまたため息を吐くのだった。




