第24話 事情を聞きました
「あんたら、人間じゃないんだろ?」
女性が九王に向かって言う。
「そうです。私は環境測定用のヒューマノイドで、こちらのウッマも馬型のストレージです」
「俺は脳みそだけ本物だ」
「そう。ここで立ち話をするのもなんだから、とりあえずうちに来な」
そういって女性が手招きする。九王たちは顔を見合わせたが、女性の言う通りにした。
女性を先頭に、九王たちは村の中を歩く。女性の首元には、赤い斑点が大きく現れていた。
九王は村の中を見る。若者は少なく、代わりに高齢者が多い印象だ。
「この村はいつからあるんですか?」
「もうすぐで25年だ」
「ここにいる村人の人数は?」
「40人」
「この村が出来た経緯というのは?」
「その辺はうちに来てからだ」
女性はそれ以上話すことはなかった。数分も歩けば小屋に到着する。しかしその小屋は、小屋と呼べないほどガタガタで小さかった。当然ながらウッマは中に入れない。
女性は小屋の前に座り、自己紹介をする。
「アタシはリナ。この村では古参の一人だ」
「私は九王みこねです」
「僕はウッマ」
「俺は宇宙人の小堀宝治だ。それで、あんたらは地球人類の生き残りって認識問題ないか?」
「まぁ、そんな所だね」
九王たちがリナと話していると、リナの小屋の周りに村人たちが集まってきた。
「それでしたら、聞きたいことがあります。私は地球人類が滅亡した後に起動しました。そして今日に至るまで、どのようにして人類が滅亡したのか分からないままです。教えてください、人類はどうやって滅亡したのですか?」
「俺も知りたい。頼む」
九王と小堀が頭を下げる。リナが一度周りの村人に視線を移す。村人たちは軽く頷いた。
「……30年近く前の、あの戦争の最後の日だったね。世界各地で核兵器がほぼ同時に爆破した。そこまでは分かるね?」
「はい」
「その瞬間、私の感覚が引き延ばされた。まるで1秒が1年になったように、時間の感覚が狂ったんだ。そして……」
「そして?」
「叫び声が聞こえた。誰だかも分からない、少女にも少年にも、男性か女性かも分からないような声だった。そして次の瞬間には、人々の体がスゥーッと消えていったんだ」
「消えた?」
「そう、消えたんだ。幽霊のようにな」
「ひっ……」
リナの言葉に、小堀は思わず耳を塞ごうとする。
それを無視して、リナは話を続けた。
「戦争が終わったことを理解するのに、丸2日かかった。だって人間がほぼ全員消えたんだから。その後紆余曲折あって、生き残りと出会うことが出来た。そうして皆と一緒に生き残りの村を作った。こうして出来たのがこの村だ」
その表情と体の傷を見れば、壮絶な人生を歩んできたことが分かるだろう。
「少し、聞かせてください。人々の体が消えたんですか?」
「あぁ、そうだね」
「みこね、何か気になるの?」
「えぇ。リナさんの話では、時間の感覚が非常に遅く感じて、その異常時空間で人々が消失したとのことですよね。その上、人々の叫び声も聞こえてきたらしいじゃないですか」
「それが何か問題?」
「なんだか、あまりにも心霊現象に似ているんですよ」
「それはお前だけしか思ってないだろ」
小堀からツッコミを貰う。
「ですが、何かしらの関係性はあると思うんです。私の直感がそう言っています」
「嘘つけ! 九王君がこじつけたいだけだろ」
「嘘じゃないですー。直感は信じたほうがいいものでしょう?」
「機械に直感もクソもあるか」
そんな言い合いをしていると、ウッマが間に割って入る。
「とにかく、こんな所にいつまでもお邪魔しててはいけないよ。早く戻ろう」
「あ、あぁそうだな。その方がいい」
ウッマの提案に、小堀が同意する。
「むぅ、もうちょっといい話が聞けると思ったんですけど……」
「その馬の言う通りだよ。ここは生き残った人間が住む場所。あんたらがいてはいけないんだ」
そういってリナは立ち上がり、九王に詰め寄る。
「今回は入村を許したけど、次同じようなことがあったら、その時は容赦なく攻撃するからね」
そういって九王の肩を押す。その表情は「さっさと帰れ」というものだった。
「……分かりました。私たちは戻ります」
そういって九王たちは、生き残りの村を去るのだった。




