第22話 名所に来ました
九王たちは休憩と移動を繰り返して数日。ようやく御殿場市までやってきた。
「この辺りは被害がすごいな」
高速道路から下りて下道を走るトラックから、小堀が外を見て呟く。
「御殿場には自衛隊の演習場が存在しました。大きな演習場でしたので、常に隊員の訓練を行っていたようです。とある夜に訓練を行っていたところ、敵からの大陸間弾道ミサイルの攻撃を集中的に食らい、数千人規模の殉職者を出したらしいです」
「ほーん。それはどこ情報なのさ?」
「オフラインのネットニュースです」
「そういう出所不明なネット記事をソースにするのは止めた方がいいぞ」
そういって小堀は、街中にあったスーパーの駐車場にトラックを停める。
「さて、今日はこの辺で一夜を明かすか。ガソリンも探しておきたいしな」
小堀は携行缶を荷台から下ろしながら、その量を確認する。いよいよ心もとなくなってきた。
「では私たちは夜間の通常環境計測でもしていますね」
「心霊観測じゃないのは珍しいな。何か心境の変化でもあったのか?」
「いえ、小堀さんのために計測するんです」
「俺のため?」
「はい。最初に会ったとき、普通の環境測定を優先するって決めたじゃないですか」
その話を思い出した小堀は、ポリポリと頭をかく。
「そういやそんな話していたっけな……。ありがとよ」
小堀はそそくさと給油作業に戻っていく。どうやら照れているようだ。
九王はそれに気が付いたが、小堀のために気づかないフリをした。
そうして通常の環境観測を終え、夜が明ける。九王たちはトラックに乗り込み、この日の移動を始めようとしていた。
「今日はどこに向かうんだ?」
「今日はこのまま富士山の北側に回って、山梨県側に行きます。ちょうどここから富士山を挟んだ反対側が目的地です。高速道路を使えば、1時間くらいで着きますね」
「そうか、二日くらいはかかるのか」
最近小堀は九王によるナビの誤差が計算できるほどまでになっていた。
「それで、そこには何があるんだ?」
「青木ヶ原樹海、またの名を富士の樹海と呼ばれている観光名所です。あの富士山から噴出した溶岩が作り出したとも言える植物たちの絶景です」
「ほー。それは楽しみだ。俺のいた艦隊だと植物は超高級品で、艦隊政府とほんの一握りの富裕層しか持ってないと言われるほどなんだ」
「ただし、今の環境に適応出来ているとは考えにくいです。もしかしたら、ほとんど枯れているかもしれません」
「ま、実際見てみないことには分からないだろうし。行ってみる価値はありそうだ」
そういって小堀はエンジンを始動させ、トラックを出す。
意外にも移動は順調で、10時間程度で河口湖周辺に到着することができた。
「ここが富士の樹海……」
「その一部に過ぎませんがね」
辺り一帯には、枯れた樹木の幹が地面に転がっていた。中には緑の葉を付けているものもあったが、数えることができるほど数は少ない。
「さて、ここに来た目的を話しましょう」
「目的? そんなの環境測定以外にあるのか?」
「当然です。私が環境測定を行う主な目的を思い出して下さい」
「九王君が環境測定をする目的は……、心霊現象を観測するため……」
そこまで言った小堀の顔が、だんだんと蒼白になる。
「まさか……」
「富士の樹海は自殺の名所という俗説が流れるほどの、超有名な心霊スポットなんです!」
「うわぁ! 俺が知らないことを逆手に取って、心霊スポットまで運転させるな!」
「いいじゃないですか! 観測者効果を十分に発揮するためなんですよ!」
結局ギャーギャーと言い合いが始まってしまったが、最終的に小堀が折れる。
「はぁぁぁ……。マジ行きたくねぇなぁ……」
「大きなため息やめてください。地味に傷つきますよ」
そんなことを言っている間に、夜が訪れる。九王は道路脇から少し奥に入ったところで、ウッマに乗せられていた計測装置を降ろす。
「小堀さんも普通の環境測定をしたらどうです?」
「あぁ……。そうさせてもらうよ……」
「では、清応49年5月22日、心霊観測を始めます」
こうして心霊観測が始まる。
しかし周囲からは、風が通り抜ける音と風によって木々が擦れる音しかしていない。だがそれが不気味に周囲へ木霊する。
すると、九王の耳に内蔵されている低周波マイクが不可解な音を拾う。九王と同じくらいの大きさの何かが動く時に発する音。
九王は音のした方向に視線を向ける。しかしそこには何もいなかった。
(人類……、にしてはずいぶんと静かな動きをしますね……)
現在の地球の状況を考えれば、この音の発生源は心霊現象で確定するのだが、九王はその論理的な考えを何故か否定した。
(今、私は否定した……? あらゆる可能性を排除してはじき出した答えを否定……?)
九王はかなり不可解な感覚を覚える。何とも言えない、自分ではない何かがそれを否定したのだ。
その時、おぼろげながら九王はある感覚が思い浮かんだ。
直感。
人類に存在するという感覚が、九王の中に存在しているのだ。
(今は、この感覚を覚えておきましょう)
この夜はこれといった収穫はなかった。小堀はいつものように計測機器を放置して耳を塞いでいたが。
「では、この樹海を測定がてら少し散策しましょうか」
九王の提案により、三人は樹海の中を進んでいくのだった。




