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オカルト・アポカリプス~人類なき後の地球における心霊現象の発生について~  作者: 紫 和春


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第21話 野犬とバトルしました

 高速道路上には瓦礫やら剥がれたアスファルトだかが大量に散乱しているが、そんなのお構いなしに小堀はアクセルをベタ踏みにする。


「畜生! タイヤがバーストしちまうよっ!」


 小堀は絶叫しながらも華麗なハンドル裁きを見せる。

 すでに九王は助手席に座りながらも、後方の様子を見ている。すでに敵である野犬の集団は、赤外線カメラを通さなくても見える程度にまで接近してきていた。この夜は満月が出ており、雲もないため、野犬の姿を視認しやすい。

 野犬は何の考えなしに突っ込んできているようだ。犬の最高時速は、犬種にもよるが時速約70kmにも達する。しかし相手は柴犬の系統のようだから、実際にはそこまでには達しないはずだ。

 はずなのだが。


「こいつら100kmに付いてきてやがる!」


 ウッマという重いハンデを背負っているが、それでも自動車という人類の叡智に対して終末世界の動物が張り合っているのだ。小堀が驚くのも無理はないだろう。


「クソッ! 使いたくはなかったが、虎の子を出すしかねぇ!」


 そういって小堀は左肩部分から球状の物を一つ取り出す。


「カルチャック手榴弾! 効いてくれ!」


 すがる思いで小堀は手榴弾の安全ピンを抜く。

 そしてそれを窓から後方に放り投げた。コロコロと道路上を転がり、野犬の群れの中心へと入り込む。

 その瞬間、巨大な爆発が野犬の群れを襲う。数頭の野犬が空中に飛んでいくのが見えるだろう。

 しかしそんな爆発は存在しなかったように、残りの野犬はガンガン接近してくる。しかも倍くらいに増えている。


「なんだあいつら! 狂ってるのか!?」


 ミラーで野犬の群れの様子を見た小堀は、絶望したように叫ぶ。

 一方で様子を伺っていた九王は、状況を分析する。


「あの野犬たちは『100秒の沈黙』戦争と核の冬を生き残った、生命体の精鋭部隊です。あの程度の爆発は何ともないのでしょう」

「んなことあるのかよ……!」


 しかしここで小堀が異変に気づく。


「道路が崩壊しているっ!」


 数百メートル先が奈落のように真っ暗になっている。しかし速度が乗っているため、2,3秒で到達してしまう。

 小堀は覚悟を決めた。


「しっかり掴まれ!」


 ハンドルを切り、ドリフト気味に奈落へと突入する。奈落の先は、急な坂のようになっていた。

 その斜面に対して斜めに入り、滑るように滑走していく。タイヤからは鳴ってはいけないような音が響き、感じたくない感触がハンドルを通して伝わってくる。


「ぬぅぅぅ!」


 しかし小堀、リアル系レースゲームを1万時間もプレイしてきた経験を活かして、この状況を上手く切り抜ける。

 走破不可能と思われた奈落への斜面を、なんとその巧みなハンドルさばきと足さばきで突破したのだ。

 トラックはそのまま下道を走る。しかし、下道も瓦礫で走りづらい。そんな中でも野犬の群れはスイスイとトラックのことを追跡する。


「彼ら、おそらく生き残った野犬の一族ですね。近親交配を繰り返した結果、理性のタガが外れてしまっているのでしょう」

「そんなこと、見ただけで分かるのか?」

「オフラインのネットに上がっていた画像と参照しただけですが」

「もしやポンコツか……!?」


 そんなことを言っていると、小堀は急にブレーキを踏む。思わずトラックが前転しそうなほど前のめりになる。

 トラックは何とか停止した。

 九王と小堀が布団とガラスを見ると、そこには巨大なゴミ山が鎮座している。そのゴミ山には十数頭の野犬が立ちふさがっていた。


「これはしくじりましたね。おそらく野犬の群れに誘導されたようです」

「あの犬っころにそんな知能があるか?」


 小堀は思わず反論するが、事実後ろからも野犬の群れに囲まれている。九王たちは包囲されたのだ。


「生命のいないこの地球で、最も社会性を維持している優秀な動物です。その時点で我々人類陣営の負けでしょう」


 そんなことを九王は言いながら、迷わず助手席から降りる。


「仕方ないことです。ウッマ、マスターキーをお願いします」

「分かった」


 ウッマからポンッと飛び出したショットガンを九王はキャッチする。以前装填した弾丸がそのままになっているため、いつでも射撃可能だ。

 そして九王はこれまた迷わず引き金を引いた。

 トラックの後ろにいる野犬のうち、数頭がミンチになった。その瞬間、野犬が四方八方から襲い掛かってくる。

 九王は素早く再装填し、続けざまに引き金を引く。そのたびに野犬から鮮血が飛び散る。


「九王君、マジかよ……!」


 小堀は、九王の様子にビビる。

 だがそれも長くは続かない。残弾がゼロになったのだ。


「ウッマ、予備は?」

「持ってないよ」


 残りは10頭ほど。ここで万事休すか。


「じゃあ、最後の手段に出ましょう」


 九王はそういって、右手を高く上げる。

 それを合図にしたように、野犬たちが襲い掛かってきた。

 が、次の瞬間には、九王の手にはマチェットが収められていた。ウッマに装備されている、九王の最終自衛装備である。

 このマチェットは、九王からのワイヤレス給電によって刃を超高速振動することが可能なのだ。それにより、野犬の肉体を簡単に一刀両断する。

 ものの1分程度で、九王は残りの野犬を叩き斬った。


「九王君、意外と容赦ねぇな……」


 運転席から降りてきた小堀は、鼻に相当する嗅覚器官を抑えながら、周辺の様子を見る。辺り一面、野犬の鮮血でグチャグチャだ。


「私は……」

「うん?」

「私は、一つの文明を滅ぼしました。文字通り血のつながった家族で構成された、社会秩序を破壊したんです」

「あー……。仮にそうだったとしても、九王君が気に病むことじゃない。地球人類は終末戦争であらゆる種の生命を絶滅に追いやり、果てには自分自身すらも破壊したんだからな」


 小堀は精一杯のフォローをしたつもりだった。それが九王に響いてるかは分からなかったが。


「今日は少し離れた場所で休憩しましょう。小堀さんも疲れたでしょう?」

「あ、あぁ。そうしてくれると助かる」


 そういって九王たちはトラックに乗り込み、ゴミ山から去っていく。

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