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オカルト・アポカリプス~人類なき後の地球における心霊現象の発生について~  作者: 紫 和春


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第2話 観測はできませんでした

 九王とウッマは、同じ青梅市にある武蔵御嶽神社へとやってきていた。


「ここなら、何か心霊現象が起きるかもしれませんね」


 九王はウキウキとしながら、崩れかけの境内を回る。


「みこね。はしゃぐのはいいけど、ちゃんと節度を守って回ってほしいね。すでに人類は滅んでいるけど、ここは由緒正しき神社なんだ。罰当たりなことはやめてね」

「もちろん、分かってますよ」


 そういって九王は、境内の中を観光するように回る。


「立派な拝殿ですねぇ」


 その姿はまるで、人類そのものだろう。人類によって作られたヒューマノイドであるから当然か。

 時刻は17時。4月の山中であるため日が暮れるのはかなり早い。


「みこね、そろそろ準備しないと」

「はーい」


 九王は観光をやめて、ウッマから測定機器を降ろす。装置の準備とランプの準備をして、今晩の測定の準備は完了だ。当然のことながら発電所関連はすでに停止しており、電気は流れていない。自力で明かりを確保しなければ、市街地であっても完全な暗闇となる。特に山中であればなおさらだ。


「さて……。清応49年4月14日、武蔵御嶽神社における心霊現象の測定を開始します」


 そういって九王は、神社拝殿の前の階段に腰掛け、自身に埋め込まれた測定機器と外部測定機器を同期させて測定を開始した。

 心霊現象や怪奇現象と一言で表しているものの、定義は非常にあいまいだ。一般的には人間や生物がいない場所からあり得ない音がする、人ならざるものが映っている、などのことを指すだろう。

 九王はそれを映像や音響、電磁波などで検出しようとしているのだ。何かが見えたり音が発せられるということは、そこに原因となる何かが存在することになる。幸か不幸か、今の環境では生命はほとんど存在しない。つまり、音や光の発生源が存在しないことになる。その環境なら、幽霊という存在をより実感することができるだろう。


(気温は12℃、風はありませんが非常に肌寒い気温ですね)


 九王はそんなことを思うが、人間のような感覚を持っているわけではないため、データ上での間接的な比喩でしかない。

 しばらく測定を行っていると、遠くの方でパキッという音が聞こえた。九王は音響データを確認する。確かに音はなったが、非常に遠い。この音だけではいわゆるラップ音かどうかは判断できない。

 またしばらくしていると、左手にある宝物殿から何か叩く音が聞こえる。ノックするようなトントンという音。


(これはさすがに心霊現象なのでは!?)


 九王のテンションが少し上がる。音響データを確認すると、音がなったと思われる時間には何も記録されていないことが分かる。


(おかしいですね……。何か聞こえたと思ったんですが……)


 九王はウッマに連絡を取る。心霊現象を確実に取るため、有線通信で会話を行う。


『ウッマ、先ほど宝物殿から音がしませんでしたか?』

『僕の(マイク)では何も拾わなかったなかったけど』

『じゃあ私の勘違いでしょうか……?』


 心霊現象はまだ分かっていないことが多い。その正体が電磁波なのか、音の重なりなのか、それともそれ以外なのか。

 それに九王には、ある懸念が存在していた。

 人類が自然などを観察していると、そこには不確定性原理や観察者効果が発揮される可能性がある。この場合は観察者効果で説明するのが適切だろう。観察者効果というのは、観察するという行為が観察される現象に影響を与えるというものだ。自然を観測しようと人間が森に入った時点で人間がいない自然は存在せず、人間がいるという前提の自然に置き換わってしまうのだ。

 この効果は心霊現象にも適用される。つまり人間が心霊現象を観測しようとする行動自体が、心霊現象を誘発したり、その逆を引き起こす可能性があるのだ。


(私は人間ではないので、もしこの観察者効果を起こせないとしたら……。人類ではない私が心霊を観測できない可能性が大いにあります……)


 彼女は端的に言えば機械そのものである。人間と同じように思考するが、人間のように生きているとは言えない。それが一番不安なのだ。

 結局、謎の音が数回なっただけで夜が明けてしまった。


「今回もめぼしい心霊現象は起きませんでしたね……」

「そう落ち込むことはないよ、みこね。まだ観測は始まったばかりじゃないか」

「そうですけど……」

「それに、一か所につき一回しか計測できないという縛りもないわけだし」

「ですが……」


 納得したようで納得できない九王は、ブツクサと文句を言いながら測定機器をウッマに乗せる。


「過去に動画サイトに投稿された、心霊現象を扱っている動画から場所を割り出して、その現地に向かうしかないのでしょうか……」

「うーん。その方が確実だとは思うけど、みこねの直感も大事だと思うよ」

「私の直感……。それって当てになるんでしょうか?」

「僕には分からないね。あくまでも僕は大規模ストレージの運搬が主たる任務の馬だから」

「……機械なのに馬っていうんですね」

「僕のモチーフは馬だからね」


 そういって二人(?)は武蔵御嶽神社を後にするのだった。

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