第17話 謎は深まりました
清応49年5月10日。道中で必要な資材やら道具を調達しつつ、九王たちは理研へと帰ってきた。
「久々の理研ですねぇ! いやぁ、やっぱり理研はいいものです」
そういって九王は、オカルト部の建屋(という名のプレハブ小屋)にあるソファへと座る。
「あれ、小堀はどこ行ったの?」
ウッマも建屋に入る。そこに小堀の姿がないことを気にしたようだ。
「小堀さんは母艦との通信をするために、一度シャトルに戻ると言ってましたよ」
小堀は理研の隣にある旧米軍基地に放置しているシャトルに戻る。中から通信機器一式を取り出し、これまでに受信したメッセージを確認した。
通信機器は、分厚くなったノートパソコンのような見た目をしていた。この通信機器を使えば、地球から太陽の間くらいの距離なら簡単にメッセージのやり取りができる。当然、光速という制限付きではあるが。
「どれどれ……。どんな通信が入っているかな……」
小堀はパソコンを開き、中身を確認する。メッセージの通知は1500件を超えていた。
「2週間くらいで1500件もメールを飛ばしてくるなよ……」
小堀は自分に関係するメッセージだけを表示するようにソートした。すると件数は6件にまで減った。その中には、シンが言っていたソルレイバーストに関する話が3件。ソルレイバーストを理由とした帰還には罰則を与えない旨が1件。そして残りの2件には、ある危険について書かれていた。
「……」
小堀はそれを見て、今後の活動をどうするか考える。正直、関係ないと言えば関係ないが、それでも無視できるほど影響が小さいわけではない。
「……保留だな」
そういって小堀はパソコンを背嚢にしまい、九王たちのいるオカルト部の建物へと戻る。
「あ、戻ってきましたね」
ちょうど九王が計測機器のデータを量子スパコンに流し込んでいるところだった。
「今から解析でもするのか?」
「そうですね。こういうのはデータがたまってグチャグチャになる前に整理するのが一番楽ですから」
「それは言えてるな」
そんな話をしていると、計測機器のデータ移行が終了したようだ。
「これで今回のデータは全部移行できましたね。それでは、お楽しみの解析タイムと行きましょう」
九王はキーボードを叩き、量子スパコンの解析アプリを起動して解析を開始する。
あまり聞いたことのない、ヒューンというモータ駆動音が響く。
約1分後。駆動音が収まり、結果が画面に表示される。
「どれどれ……」
九王が結果を見る。
『結論として、科学的に説明がつかない心霊現象が2ヶ所発見された。これが心霊現象である確率は84%である』
そのように表示されていた。
「これはあり得るんじゃないですか!?」
「……ちなみにどの心霊観測が該当するんだ?」
「流山市の事故物件のヤツですね。特に廊下から鳴っていた子供の駆け足のようなものが科学的に説明がつかないらしいです」
「あの物件、結構すごいんだね」
ウッマは少し興味なさそうに言う。一方で小堀は薄目で画面を見ていた。
「やはり直感は間違っていなかったですね。あの音を聞いた時から、そんな気がしていたんです」
「直感って……。九王君は本当にヒューマノイドなのか?」
「機械は直感なんてないと思っているんですか? 偏見ですね、差別ですね、迫害ですね」
「そこまで言ってないだろ……」
「まぁ冗談ですが。それでも直感は信じたほうがいいですよ」
「人間にそれ言うのは釈迦に説法ってヤツだろ」
「それから、何かいい感じの心霊現象はありますかねぇ?」
「話聞けよ」
小堀の話を横に、九王は観測したデータを確認している。九王は一つ気になっていたことがあるのだ。それは、草加市で観測したものの映像に一切残っていなかった人影のことである。
(あの映像に不可解な点が存在したか、確認をしてほしい)
そのように量子スパコンに質問し、詳しく解析してもらう。
量子スパコンはすぐに回答を返した。
『該当の映像には不自然な点は存在しません。映像は無編集の状態であり、他の要因が関係していることは考えにくいです』
それを見た九王は、さすがに苛立ちを覚えた。
(苛立ち……? この感情を苛立ちというのですね……)
九王はまた一つ、人間の感情を知った。
(しかし、私が提供した映像が無編集であることはかなりおかしな話ですね……。今でも思い出せば、その姿を思い浮かべることができるのに……)
九王は少しゾワッとした感覚が背中を流れるのを感じる。
(これも心霊現象の一つなのでしょう。ならば、どこまでも探求していきましょう……!)
九王は今一度、気を引き締めなおすのだった。




