第13話 アイテムをゲットしました
九王たちは常磐道の途中にある柏インターチェンジで高速を下りていた。ここは埼玉県と茨城県に挟まれるように位置している、千葉県の柏市である。某ゆるキャラで言う鼻の根元に位置する。
「夕方が近づいてきています。当然ですが、今夜も心霊現象の観測を行います」
「俺はパスだからな」
そういってトラックを、とある建物の前に停める小堀。
「それで……? ここが目的地なのか?」
「いえ、ここはあるアイテムを確保するために寄っただけです」
「アイテム? なんじゃそりゃ?」
その巨大な建物は、午後の傾き始めた太陽の光に照らされていた。香川急便の柏事業所である。
「ここに何があるんだ?」
「様々な物があります」
「それはそうだが……。目的のアイテムがなんだって話だよ」
「それはズバリ、カメラです」
「カメラ……?」
小堀は首をかしげる。
「なんでカメラが必要なんだ? 自分たちの目でも替えるのか?」
「以前心霊観測を行った際に、見えない場所から足音が聞こえることがありました。もし視界の制限がなかったら、もしかしたら本当に心霊現象を観測できたかもしれなかったのです。その時の反省を踏まえ、今回はカメラを調達することにしました」
「あぁそう。思ってたのと少し違っててよかった」
「ですが、柏には事故物件があると聞いています。カメラを回収次第、すぐにでも事故物件に向かいましょう」
「俺はパスだって言ったよな?」
そんな小堀の言葉を無視して、九王は営業所の中に入っていく。
営業所と言っても、そこは巨大な倉庫であり、単純に言ってしまえば荷物の集積所である。つまり、延べ床面積の分だけ荷物が存在することになる。
「100秒の沈黙」戦争中は、当然の言ながら物流も大混乱に陥っており、荷物が別の場所に届いたり、あるいはそもそも届かないか届けられない状態になっていた。そんな届けられなかった荷物が、カラスに荒らされた生ゴミのように散乱しているのが、今の営業所の姿だ。
九王はそんなゴミの中に、カメラが存在すると踏んでいたのだ。とにかく、その辺に転がっていた適当な荷物を拾ってみる。そして外包の伝票に書かれているバーコードや二次元コードを読み込む。当然のことながら、香川急便が使用していたシステム専用のコードである。普通に読み込めば、意味のない文字列が出力されるだろう。
九王は辺りを見渡して、配達員が使用していたであろう携帯端末を探す。ちょうど荷物の中に埋もれていたのを発見する。
「久々にやってみますか……」
九王は口を開けて、その中に指を突っ込む。舌に当たる部位が引き出されるが、九王のそれは、あらゆる端末の端子に繋げられるユニバーサル端子である。端子の中のピン単位まで、細かに変更することが可能になっているのだ。
「うーん……。これとこれと……、あとこれですかね」
舌を出した状態でも問題なく発言できる。小堀から見れば、少し気色悪い光景だろう。
「なんか……、アホ面見てるようで嫌だな……」
「アホ面ってなんですか。失敬な」
「でも、みこねのその顔は本当にマヌケだよ」
小堀とウッマが協力しているほど、九王の顔はみっともない状態になっていた。
しかし九王はそんなことはどうでもいいようで、的確にピン配列を把握する。
「よし、これで正常に繋がったはずです」
九王からの電力供給もあり、携帯端末は再起動した。そしてそのまま、九王は携帯端末を通して香川急便のシステムへと侵入する。
「メインサーバーもイカれていますね……。戦争末期の混乱で情報が錯綜しているのも原因でしょう。ですが……」
九王に搭載されているCPUは、半世紀ほど前のスパコンに匹敵する程の計算量を誇る。それによって、あっという間に営業所内の全ての荷物を把握してしまった。
「カメラはこちらにありますね。結構大量ですよ」
九王は携帯端末から舌を抜き、そのまま端末を投げ捨てる。
「こちらです」
九王の案内により、カメラの在庫を発見した。スマホに搭載される超小型で薄型のカメラから無線通信ができるアクションカメラ、防犯用や一眼レフまで幅広く取り揃えられている。
「それじゃあこのアクションカメラを頂戴していきますか」
九王は、そこにあるだけのアクションカメラをウッマに乗せていく。
「みこね、30個はさすがにやりすぎじゃないかい?」
「いいえ。死角を減らすには数で補うしかないのです。物量は全てに勝ります」
「そのための整備の問題があるでしょ?」
「ルーチンワーク化すれば大丈夫です」
「本当かなぁ……?」
「九王君、間違っても俺に仕事振るなよ」
ウッマは呆れ、小堀は予防線を張る。
「大丈夫ですよ。私、計測機器のメンテナンスとかできますから」
そういって九王は胸を張る。
「まぁ、みこねがそこまで言うならいいよ」
最終的にウッマは認めることにした。
「では、事故物件に向かいましょう。心霊観測ですよ」
九王はウキウキしながら言う。
「一応もう一回言うけど、俺はパスだからな?」
「せっかくの心霊調査なんですから、一緒に行きましょう?」
九王は小堀にズイッと迫る。
「嫌だ、絶対に行かないからな」
「遠慮しなくてもいいんですよ?」
「遠慮してない! 拒否してるんだ! クソッ、やっぱり一緒に行動するんじゃなかった……!」
小堀は後悔するも、時すでに遅し。九王は今度こそ心霊現象を突き止めるために、事故物件へと向かうのだった。




