第10話 移動手段を確保しました
九王とウッマは、小堀がトラックを修理している横で一晩明かす。朝を迎える時には、小堀はとても清々しい顔をしていた。
「ふぅ。これで整備完了だ」
ガレージの前に、エンジンがかかったトラックが鎮座している。いつでも出発できるような状態だ。
「さて、道中でガソリンを補給しながら進むとしよう。これで移動が楽になる!」
小堀はかなり嬉しそうだ。
「そんなに嬉しいことなんですか?」
九王は小堀に聞く。
「当たり前だろ? そもそも俺の体は脳に糖などの栄養素を送る関係上、生物由来のエネルギーを燃料にしている。しかしトラックが主食とする化石燃料と比較すると、そのエネルギー密度は何倍もの差がある。俺がひいこら言いながら一日歩いた距離を、コイツはたったの100ccで走り切ったりする。それだけ俺の体は非効率で、コイツのエンジンは優秀ってことなんだ。だからコイツに移動のエネルギーを肩代わりさせる。その方が効率的だろ?」
「そのくらいのこと、分かりますよ」
「なら、喜んでいることくらいよく分かるだろ」
「いやぁ、そうはならないでしょう」
「これが人工知能の普通なのか……?」
そんなことを小堀はブツクサ言いながら、トラックに乗り込む。
「ちょっと待ってよ。僕はどこに乗ればいいんだい?」
ウッマが小堀に聞く。
「そりゃ荷台だろうよ。それ以外に場所があるとでも?」
「僕だけ吹き曝しじゃないか」
「文句言うならトラックには乗せられないよ」
「……むぅ」
ウッマも文句を言いながら、荷台へとヒョイと乗る。ウッマの体重でトラックの後輪が強く沈み込んだ。
「うわっ。お前体重いくつあんだよ」
「積載重量はオーバーしてないよ」
「そうかもしれねぇけど、お前結構重いぞ」
「もともと馬は重いでしょ」
そんな変な応酬をしている横で、九王はトラックの助手席に乗り込んだ。
「とにかく、出発するぞ」
小堀の運転で、一行は外環道を東に進んでいく。
しかし、道路は長年使われていなかった上、「100秒の沈黙」戦争時の瓦礫やら残骸やらが多く道路にあり、快適にドライブをさせてくれなかった。
「タイヤは新品の物に交換したが、このままじゃどこかしらでパンクするかもしれねぇぞ……」
小堀は慎重にハンドルを切りながら、ゆっくりとアクセルを踏んでいく。
結局、夜までに15kmほどしか進めず、草加インターチェンジ付近で一夜を明かすことになった。
「あのジャンクション辺りで一度環境測定を行うべきでしたね」
「目的地に着いたら、そのまま引き返すんだろ? その時でもいいじゃねぇか」
「いえ、こういう環境測定はある地点を何度も調べることで効果を発揮するのです」
「そういうもんかねぇ……?」
「そういうものなんだよ、小堀」
「今俺のこと呼び捨てにした? ねぇ?」
「ウッマとは馬が合わないんですね。馬だけに」
「九王君さ、それ面白くないよ?」
そんなことを言いつつ、小堀は運転席で食事を摂る。とは言っても、動植物の細胞を培養して一つに固めた、気色の悪いスティック状の栄養補給食だが。
「それ、どんな味がするんですか?」
「え? ゲボみたいな味がするけど?」
「ゲボみたいな味……」
「そもそも九王君は味って感じるのか?」
「不要な機能としてオミットされています」
「あー、まぁ環境測定用に製造されたロボットだからなぁ。味を感じる機能は当然カットされているよな」
そんなことを言いながら、小堀は4本の栄養補給食品を口に無理やり詰め込み、それを水と食用油とアルコールとその他少々を混ぜた特製の飲料水で流し込む。
「あー、マズかった。水くらい普通の渡してくれればいいのに」
小堀は運転席から降り、荷台に積んであった自分の荷物から小さな袋を取り出す。
どうやら寝袋のようだ。
「じゃ、俺は寝るから、お二人は自由に過ごしてくれ。明日は6時30分キッカリに起床する」
そういって小堀は寝袋に入ると、瞬時に眠りについた。
「……どうする?」
「せっかくですし、心霊現象の観測にでも入りましょうか」
九王は助手席から降り、高速道路の上に立つ。辺りは真っ暗で、雲のない空には薄い三日月が周囲を照らしていた。
ウッマも荷台から飛び降り、周囲の様子を伺う。
「この辺りは道路脇に外壁が立っているから、環境測定にはあまり向いてないようにも感じるね」
「では一度高速道路から降りますか?」
「そうだね。彼は置いていって大丈夫だろうし、もしものことがあれば起きると思うよ。根拠はないけど」
「その時は……、運がなかったことにしましょう」
小堀の扱いが雑な二人であった。
そうして二人は一度高速道路を降りて、環境測定に最適な場所を探す。




