第4話:灰の蛇の小ボス登場!?陰キャ魔王、初の総指揮☆
アスタルテ、ルミ、カナエ、グレイ――4人のパーティーが結成されてから数日後。
彼らは小さな村の近くを流れる川辺で野営を張っていた。
川のせせらぎが心地よい音を立て、月明かりが水面を銀色に輝かせている。
焚き火の赤い火花が時折はぜ、草むらの虫の音がBGMのように響く。
アスタルテはその景色を前にしても、いまいちリラックスできなかった。
「……あの、焚き火の火がパチパチ鳴るたびに落ち着かないんだけど」
彼はフードを深くかぶり直し、焚き火の炎から視線を逸らした。
「魔王クン、ちょっと繊細すぎ☆」
ルミが地図を広げながら、にっこり笑った。彼女の笑顔は焚き火の光でさらに輝き、夜の野営を明るく照らしているかのようだ。
「でもでも、やっと灰の蛇の拠点の手がかり、掴んだんだよ! テンション上がるでしょ?」
「……いや、本当に俺たちでどうにかできるのか?」
アスタルテは眉をひそめた。彼の頭の中には「灰の蛇」という名前が響くたびに、漠然とした不安が湧き上がる。
カナエはその横で小さくため息をついた。
「手がかりって言っても、『沼地に隠された実験施設があるかも』ってレベルでしょ?」
「そうだな」
グレイが聖杖を膝に立てかけ、低い声で続けた。
「だが黙っていれば奴らがさらに力を蓄えるだけだ。灰の蛇は魔族兵器を量産している。早めに芽を摘まないと手遅れになる」
「……分かったよ」
アスタルテは渋々頷いた。内心はまだ迷っていたが、グレイの瞳に宿る決意を見て言葉を飲み込む。
夜明け前、まだ空が淡く白んでいる時間帯に4人は出発した。
道中は鬱蒼とした森を抜け、ぬかるんだ道をひたすら進む。
「……足がぬかるみにはまりそうなんだけど……」
アスタルテがぼやくと、ルミが元気いっぱいに返す。
「大丈夫大丈夫! こういう道も旅の醍醐味だから☆」
「醍醐味って言ってもな……」
カナエは後ろからついてきながら冷ややかに呟いた。
「足音が響きやすいわね。罠に引っかからないよう気をつけなさい」
「カナエちゃん、そういうのフラグ立つからやめて」
「事実よ」
カナエの言葉がやけに現実味を帯びていた。
やがて一行は沼地の奥深く、古びた廃墟に到達した。
湿った風が吹き抜け、廃墟の壁面にはびっしりと苔が生えている。
壊れた石柱と半壊した天井は、この場所が長い間放置されていたことを物語っていた。
「ここ……?」
ルミが小声で呟くと、カナエが周囲の気配を探るように目を細めた。
「気配がするわね。罠があるかも」
「気配が分かるのすごいけど、それ怖くない!?」
アスタルテが身構えた瞬間、カナエが前へ出ようとした。
「待って。私が――」
その時だった。
茂みが大きく揺れ、そこから無数の魔族兵器が飛び出してきた。
鈍い金属音を響かせ、赤い目をぎらつかせながら四方から囲んでくる。
「やっぱり来たか!」
ルミが即座に剣を抜き、カナエも短剣を構えた。
アスタルテは反射的に両手を広げ、魔力を練る。
「――《共鳴虚空結界》!」
紫と白の光が仲間たちを包み込み、敵の攻撃を防ぐ。
結界に衝突する衝撃で地面が揺れ、アスタルテの膝が一瞬沈み込む。
「くっ……! 相当な力だ」
「魔王クン、顔が真っ青☆」
「……余裕があるなら手伝え!」
アスタルテが思わずツッコむ。だがその直後、空気が一変した。
「……っ、強い気配が来る!」
グレイが顔を上げた瞬間、廃墟の奥の闇から巨大な影が現れた。
全身を分厚い鎧で覆い、両腕は異形の刃に変形している。
頭部には禍々しい角が二本突き出し、その目は血のように赤く光っていた。
「小ボス級ね……!」
カナエが歯を食いしばり、グレイが聖杖を構える。
「魔王クン、どうする!?」
ルミが問いかける。アスタルテは一瞬迷ったが、深く息を吸い込んだ。
「……俺が指揮する。全員、聞いてくれ!」
ルミ、カナエ、グレイが一斉に頷く。
「まずルミが前で注意を引く! カナエは背後から急所狙い、グレイは防御と回復を!」
「おっけー☆ 行くよ!」
ルミが飛び出し、魔族兵の大きな刃を受け止めた。
衝撃で地面が割れ、火花が散る。
「今よ!」
その隙にカナエが影のように背後へ回り込み、短剣で脚部の関節を切り裂いた。
「動きが鈍った!」
「今だ、アスタルテ!」
グレイの声にアスタルテが両手を広げる。
「――《共鳴虚空鎖》!」
無数の光の鎖が魔族兵を絡め取り、その動きを封じた。
「ルミ!」
「分かってる☆」
ルミが跳び上がり、剣に全魔力を込める。
「――《共鳴斬・光裂》!!」
閃光が魔族兵のコアを貫き、爆発的な衝撃が廃墟全体を揺らした。
戦いが終わったとき、沼地は静寂に包まれていた。
破壊された魔族兵の残骸が散らばり、腐った沼の匂いと金属の焦げた匂いが混ざって漂っている。
「……ふぅ、やったの?」
ルミが剣を下ろし、大きく息をついた。
「完全に沈黙したわ」
カナエが短剣を収め、グレイが魔力探知を終える。
「これで沼地の施設は壊滅だな」
ルミが駆け寄り、アスタルテの肩をポンと叩いた。
「魔王クン、初めての総指揮大成功☆」
「……あ、ああ……」
アスタルテは顔を赤くしてそっぽを向いた。
「でも、次はもっと冷静にできるように……」
「十分だったわよ」
カナエが小さく微笑む。
「前より迷いがなくなった。……少し見直したわ」
「えっ……」
アスタルテは一瞬言葉を失った。その顔を見て、ルミがニコッと笑う。
「ね、みんな仲良くなってきたでしょ♡」
「……その言い方なんか違わない?」
グレイが呆れた声を出したが、心のどこかで同意していた。
「さて、戻る?」
「いや……この施設の奥に、まだ何かある」
グレイが声を低めた。
アスタルテは背筋がぞくりとした。
「灰の蛇の……ボスの痕跡か?」
「分からん。ただ、このまま引き返せば次はもっと大きな被害が出るだろう」
ルミが剣を構え、にっこり笑った。
「行くしかないね☆」
「……おいおいおい……」
アスタルテは深くため息をつきながらも、手を結界展開の形に構えた。
彼らの冒険は、ますます危険な領域に踏み込んでいく――。
灰の蛇の小ボスを撃破し、チーム連携が一歩成長。
しかし奥にはさらなる脅威が待ち構えていた――。
次回、灰の蛇のボスが姿を現す!
魔王クンの力の秘密がついに…!?
※コメントもらえるとめっちゃ励みになります