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第3話:元聖職者グレイ、胡散臭いけど有能すぎる☆

 カナエを仲間(※本人は全力否定中)に加えたアスタルテとルミは、次の目的地に向けて街道を歩いていた。

 朝の空は雲ひとつなく晴れ渡り、野鳥の声が森の向こうから聞こえてくる。気温はちょうどよく、草原を抜ける風が頬を撫でて心地よい……はずなのだが。


「……人混みじゃないだけマシだけど、野宿ってキツい」


 アスタルテは朝露でしっとりした靴底を引きずり、今にも倒れそうな顔をしていた。

 魔王城の石造りのベッド付きの部屋に引きこもる日々とは環境が違いすぎる。背中の荷物が肩に食い込み、野宿の寝不足も重なってぐったりしていた。


「魔王クン、そんなこと言わないの☆ 旅ってこういうのが醍醐味なんだよ〜」


 ルミは元気いっぱいで、スキップしそうな勢いで前を歩いている。

 カナエはその少し後ろ、無駄口を叩くことなく淡々と歩調を合わせていた。


「……魔王クン、あのね。こういう道は絶対襲われるから油断しないで」


「カナエちゃん、そういう縁起でもないこと言わないでよ〜」ルミが笑い飛ばす。


「事実よ。……ほら」


 カナエが無言で指さした先――森の茂みから複数の人影が飛び出してきた。


「金目のモン置いていけ!」


「……デジャヴだな」


 アスタルテが肩を落とした。盗賊スリの件が脳裏をよぎる。

 だが今回の盗賊たちは様子がどこかおかしかった。


 動きがぎこちなく、無表情で目の焦点が合っていない。近づいてきた一人の首筋には、黒く禍々しい呪印のような模様が浮かび上がっていた。


「……操られてる?」


 カナエが目を細める。

 その間にも盗賊たちは不気味な速度で迫ってくる。


「しょうがない、やるよ!」


 ルミが剣を構えた、その瞬間――。


「待て」


 低い声が割って入った。


 茂みの奥から現れたのは、長身の青年だった。

 薄汚れたローブをまとい、手には古びた聖杖を携えている。

 焦げ茶の髪に淡い灰色の瞳、ひげはきれいに剃っているが、どこか世捨て人のような雰囲気を漂わせていた。


「……危ないところだったな」


 青年は盗賊たちに向けて冷静に歩み寄ると、落ち着いた声で言った。


「えっと、あなたは?」


 ルミが目を瞬かせると、青年は軽く会釈した。


「俺はグレイ。昔は王都の神殿で聖職者をしていた」


「聖職者!?」


 ルミの声がひときわ大きく響いた。

 アスタルテはその言葉に反射的にフードを深くかぶり直す。人間界で魔王の正体がバレるのはまずい。


「安心しろ、魔王かどうかなんて興味ない」


 グレイはちらりとアスタルテを見ただけで、すぐ視線を盗賊たちへと戻した。


「……だがこいつらの呪印は厄介だ。放っておくと命が持たない」


 グレイは聖杖を高く掲げ、低く詠唱を始めた。


「――《浄化》!」


 聖なる光が広がり、盗賊たちを包み込む。

 光が彼らの首筋の呪印に触れた瞬間、黒いもやが煙のように立ち上り、ぱちぱちと音を立てながら消えていった。


「……あ、あれ……俺たち、何を……?」


 虚ろだった瞳に理性が戻り、盗賊たちは混乱した表情を浮かべた。


「操られてたのよ」


 カナエが冷静に言い放つと、盗賊たちは青ざめた顔でその場から逃げ去っていった。


「助かったよ、グレイさん!」


 ルミが満面の笑みを向けたが、グレイは静かに首を振った。


「助けたわけじゃない。お前たちの後ろにある気配が気になってついてきただけだ」


「後ろ……?」


 アスタルテが振り返った瞬間、背筋にぞわりと寒気が走った。

 森の奥、木々の間に複数の魔族兵器の影が潜んでいた。鈍い赤い光が目の奥で揺らめいている。


「灰の蛇の連中か……!」


「追跡されてたのね」


 カナエが短剣を構え、ルミも剣を抜いた。

 だがアスタルテは小さく息を吸い込む。


「……結界で防ぐ」


「いや、待て」


 グレイがアスタルテの肩を押さえた。


「今の魔力の流れじゃ、君の結界はすぐ破られる。俺が支援する」


「え……?」


「《聖光の盾》!」


 グレイの魔法がアスタルテの結界に重なり、厚みを増していく。

 直後、魔族兵器の攻撃が結界に直撃したが、びくともしなかった。


「す、すごい……!」


 ルミが目を輝かせた。


「アスタルテ、今のうちに魔力を練れ。ルミとカナエ、奴らの数を減らすぞ」


「え、指示が的確すぎない!?」


 ルミが剣を構えて駆け出し、カナエは影のように敵兵器の背後へ回る。

 その動きに合わせてグレイは聖杖を振り、敵の魔法を次々と無効化していった。


「……有能すぎない、この人」


 アスタルテが結界の内側で小声を漏らした。

 だが迷っている暇はない。


「――《共鳴虚空結界》!」


 アスタルテが全力で魔力を放ち、結界が一気に広がる。

 敵兵器を押し潰すように魔力が爆発し、戦場が静寂に包まれた。


「ふぅ……終わったか」


 アスタルテが膝に手をつき、深く息を吐いた。

 ルミが笑顔で親指を立てる。


「さすが魔王クン! 結界パワーすごい☆」


「……助かったわね」


 カナエが短剣を納めると、グレイが静かに近づいてきた。


「君たち、灰の蛇を追っているのか?」


「え、なんで分かるの?」


「この呪印と兵器の流れは、あいつらの仕業だ。……俺にも因縁がある」


 グレイの目に一瞬、深い憎しみが宿った。


「神殿を追われたのも、灰の蛇のせいだ。奴らのボスを倒すなら協力する」


「え、仲間になるの!?」


 ルミが目を輝かせたが、グレイは淡々と答える。


「勘違いするな。俺は俺の目的のために動くだけだ」


「……カナエちゃんの時も似たようなこと聞いた気がする」


 アスタルテが小声でつぶやくと、カナエが肩をすくめた。


「群れるのは嫌いな人が多いのよ」


「うわ、なんか分かる」


 ルミはそんな二人を見てニコッと笑った。


「でも結局、魔王クンもアタシもついてくるんだから♡」


「……不思議なパーティーだな」


 グレイがため息をついた。


 こうして――元聖職者のグレイが加入し、パーティーは四人となった。

 だがその旅路の先に、《灰の蛇》のボスが待ち受けているとはまだ誰も知らない。


「さて次はどこへ?」


「決まってるでしょ、魔王クン」


 ルミがにっこり笑った。


「灰の蛇の本拠地、突き止めちゃお☆」


「おいおいおい、軽く言うな……!」


 アスタルテは深いため息をついたが、心の奥底でほんの少しだけ期待していた。

 陰キャ魔王の世界救済の旅は、ますますにぎやかになっていく――。

元聖職者のグレイが加入し、パーティーは4人に。

しかし灰の蛇の影は、より濃くなっていく――。


次回、沼地の実験施設で小ボス戦!?

魔王クン、初めての総指揮で大ピンチ…!


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